世界初、アンモニア燃料舶用エンジンが完成

株式会社IHI原動機(以下「IHI原動機」)は、内航船(アンモニア燃料タグボート、以下「A-Tug」)の主機関向けに開発、陸上試験を進めていた4ストロークアンモニア燃料エンジン実機の完成に至りました。これに伴い、一般財団法人日本海事協会(以下「日本海事協会」)が世界で初めてとなるアンモニア燃料舶用エンジンの船級型式承認(注1)を発行しました。本件の開発は日本郵船株式会社(以下「日本郵船」)、IHI原動機、日本シップヤード株式会社(以下「日本シップヤード」)、株式会社ジャパンエンジンコーポレーション(以下「ジャパンエンジン」)の4社が2021年10月にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業(注2)の公募採択を受けた「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」の一環で行っているものです。

1.概要

2023年4月、IHI原動機は同社太田工場(群馬県)にて、A-Tug主機関向け280mmボア(注3)の4ストロークアンモニア燃料エンジンの実機による陸上運転試験を開始。エンジンから排出される二酸化炭素(CO2)量を極限まで低減するため、試験の中では燃料アンモニアの混焼割合を高めていき、最大混焼率95%を達成しました。また、アンモニア燃焼におけるGHG削減率は重油と比較して最大90%以上を達成しております。その他、タグボートに必要な負荷変動への追従性能のアンモニア運転での確立および、運転中および停止後の実機からのアンモニア漏洩ゼロを確認しており、アンモニアを燃料として使用する場合の課題をクリアし、温室効果ガス(GHG)削減に貢献できる次世代型エンジンの開発に成功しました。


アンモニア燃料エンジン実機

この結果を受けて12月に日本海事協会の型式承認試験を受検し、世界初となるアンモニア燃料エンジンでの型式承認が発行されました。
さらに、国際海事機関(IMO)窒素酸化物(NOX)認証試験(注4)も受検し、ディーゼル運転モードではエンジン単体でTierⅡ規制値を満足したことが認証されました。アンモニア運転モードでは排ガス後処理装置付きでTierⅢ規制値と同等以下であることがNOX鑑定試験(注4)にて確認されました。アンモニア燃料エンジンでのNOX鑑定取得も世界初となります。


A-Tug完成イメージ図

2. 今後の予定

A-Tugの改造は2023年10月より開始されており、IHI原動機より納入したアンモニア燃料エンジンの他、アンモニア供給装置等を搭載し、6月には世界初となるアンモニア燃料タグボートとして竣工する予定です。竣工後は、横浜港にてGHG排出削減効果等の検証を行う予定です。

さらには、今回の内航船向けの研究開発を踏まえて、外航船補機関向け250mmボアのエンジン開発も開始しています。外航船補機関向けエンジンは、日本郵船、日本シップヤード、ジャパンエンジン、IHI原動機、日本海事協会で共同開発中のアンモニア燃料アンモニア輸送船(AFMGC、2026年竣工予定)への搭載を予定しています。

両者は引き続き本プロジェクトの下、世界初となるアンモニア燃料船舶の社会実装の実現による日本海事クラスターの国際競争力強化を図っていきます。


スケジュール

各社概要

<株式会社IHI原動機>
本社:東京都千代田区
代表者:代表取締役社長 村角 敬
ウェブサイト:https://www.ihi.co.jp/ips/

<一般財団法人日本海事協会>
本部:東京都千代田区
代表者:代表理事会長 坂下 広朗
ウェブサイト:https://www.classnk.or.jp/


(注1)型式承認
日本海事協会規則上の正式名称は「往復動内燃機関の使用承認」となる。

(注2) グリーンイノベーション基金事業
「2050年カーボンニュートラル」に向けてエネルギー・産業部門の構造転換や、大胆な投資によるイノベーションといった現行の取り組みを大幅に加速するため、NEDOに2兆円の基金を造成し、官民で野心的かつ具体的な目標を共有した上で、経営課題として取り組む企業等に対して、最長10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する基金制度。グリーン成長戦略において実行計画を策定している重点14分野を中心に支援が行われる。

(注3)ボア
エンジン内のシリンダー直径のこと。

(注4)IMO NOX認証試験
IMOは、船舶からの大気汚染の防止に関わるMARPOL条約附属書ⅥにおいてNOXの排出規制を定めている。現時点では、この規制に適合するためのエンジンの技術基準、基準適合の確認方法として「NOXテクニカルレコード」があり、化石燃料を用いるエンジンの認証が主な対象となっている。ディーゼル運転モードでは、当該コードに従った認証試験を実施され、エンジン単体でTierⅡ規制値を満足することが認証された。また、アンモニア運転モードでのNOX評価については、現行のNOXテクニカルコードが準用され、一部の規定においてアンモニア燃焼の特性を考慮した上で、NOX計測を含む鑑定試験が実施された。その結果、TierⅢ規制値と同等以下であることが確認された。