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10 IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 )  見えない資産 人と地球にやさしいジェットエンジンで 世の中に貢献したい わずか5,6 年前までは,航空機に搭載されるジェットエンジンのシステム電動化は実現性,信頼性に 乏しい夢のような話だった.しかし,航空機電動化 (.MEA:More Electric Aircraft.) の世界的な流れ のなかで,いまやエンジンシステムの電動化 (.MEE:More Electric Engine.) は,次世代のエンジン 技術開発の課題のひとつになっている.世界のトレンドをいち早く日本に呼び込んだエンジニアがIHI にいる. 電動化を契機に世界に挑戦する 航空機には,推力を出しているエンジンに加えて, 機体やエンジンを動かすためのいろいろなシステムが ある.機体姿勢を変えるための舵面のアクチュエー タ,エンジンに燃料を送り込むポンプなどが分かりや すいだろう.これらは油圧,空気圧,機械力,電気と いう四つのパワーソースの組み合わせにより動いてい る.現状では電気エネルギーの割合は比較的小さい が,「電動化の促進 ( More Electric Architecture ) 」は, システム効率の向上による燃費改善,地球環境負荷の 低減などの面から最も注目度の高いキーワードだ. 電動化を機に,航空機産業の構造が大きく変わる可 能性がある.民間航空機システムの業界のシェアは欧 米のメーカーがほとんどを握っているが,航空機シス テムに使える新しい電動化技術を先んじて生み出し, かつ安全性と信頼性を獲得すれば,欧米メーカー以外 がシェアを伸ばすことも可能だ.世界の航空業界にお ける日本のメーカーの存在を今よりも高めていくため に,先見的な技術を研究開発して世界に挑戦したい. そのために単独ではなく,国内各社が協力してその技 術力を結集することが重要である.そこで約2 年前 にIHI が事務局を担う形で,国内メーカーが集まっ て「航空機・エンジン電動化システム研究会 ( MEAAP:the More Electric Architecture for Aircraft and Propulsion ) 」を立ち上げた. この中心になったのが,エンジンのシステム電動化 にいち早く取り掛かっていた森岡典子だ.現在の森岡 の同研究会での主な仕事は,「航空機の電動化システ ムをどのようにするとより優れたものになるか」, 「どの技術を重点的に研究開発すべきか」などのアイ デアを取りまとめたり,共同でのリサーチや研究開発 をコーディネートしたりすること.そしてそのシステ ム構想などを国内外に発信していくこと.研究会みん なの働きにより,いまや日本で,“ 電動化といえば MEAAP ”との認識まで得られるようになった. 粘り強くアピールし研究開発を実現 森岡は,高校時代に物理の面白さから工学部を志望 し,空に憧れて大学では体育会の航空部で自らグライ ダーを操縦しつつ,航空機関連のエンジニアを目指し た.当時は女性エンジニアを受け入れる企業が少な かったなか,ジェットエンジン設計の技術者としてIHI に入社し,現在はグループ長として二十数名を率いる. 森岡の本来の専門は,エンジンのなかでも燃焼器に 送り込む燃料を調整したりする油圧制御や油圧機器だ. 図面を書いたり,組み立てや試験を行ったりといった 長年の業務を通して,エンジンにおける油圧制御の信 航空宇宙事業本部 技術開発センター 制御技術部 システム技術グループ 部 長 森岡 典子