【DO!BOOK・ページリンク】
gihou_54_3   16 / 84

BOOKをみる

10秒後にBOOKのページに移動します


12 IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 )  見えない資産 アルミ製インペラの重量バランスを 一瞬にして補正する 車両用のターボチャージャーは,環境負荷の低減,エンジン効率の向上などの面から世界的に需要が 高まっている.日本の国内シェア6 割を占める株式会社IHI ターボ ( ITJ ) では,2006 年に新設した 新町工場を拡張し,増産体制に入っている.最新設備を備え,できる限り省力・自動化したラインでも, 人による作業が欠かせない部分がある.作業者のもつ高い技術力は,ターボチャージャーの安全を支える “ 見えない資産”だ. 回転体の安定性維持に欠かせない 「バランス工程」 その作業は一瞬だ.作業者がアルミニウムでできた コンプレッサーインペラ( 羽根車)を機械にセット すると,モニターに重量バランスの偏りが映し出され る.そこでインペラを取り上げ,アンバランスな箇所 を研磨機にちょっと押し当てて削り取る.直径30 〜 40 mm の繊細なインペラの補正であれば,削り取ら れるのは数ミリグラム.削ったインペラを再び機械に セットしてバランスをチェックし,OK が出れば,次 の補正に掛かる.1 枚に掛かる時間はわずか2 分未 満.休みなく手を動かし,1 時間で35 枚から40 枚 ほどのインペラを次々と補正する.2006 年のITJ 新 町工場( 長野県上伊那郡辰野町)操業開始当初から, この「コンプレッサーインペラ手動バランス工程」 を受け持っているのが小松姫木だ. ターボチャージャーの安定性・安全性を維持するに は,このバランス工程が鍵といっても過言ではない. ターボチャージャーは,排気ガスのエネルギーを再利 用してタービンを回すことにより,同軸上のコンプ レッサーで空気を圧縮し,密度を高めてエンジンに送 り込む.このとき,コンプレッサーのインペラは最高 で1 分間におよそ30 万回転している.このような 高速回転体が安定性を維持するには,インペラが回転 軸を中心にブレずに回転することが重要.つまり,イ ンペラの重量バランスが均等でなければならない. インペラの製作工程を大まかに述べると,羽根の形 を作る「加工」( 鋳造もしくは切削加工) 機械が 重量バランスを調整する「自動バランス」 バラン ス補正の削り跡を滑らかにする「バリ取り」 機械 が調整しきれなかったものを人の手によって補正する 「手動バランス」となる.「自動バランス」で調整で きずにはじかれた部品も,「手動バランス」工程に よって良品に生まれ変わる. 操業開始当初は皆で試行錯誤 「製造現場が好きなんですよ.」という小松は,地 元長野県上伊那郡の出身.高校卒業後最初に勤めた精 密機器の工場で,ものづくりのおもしろさに目覚め た.後に転職し,ITJ には新工場が立ち上がる2006 年の4 月に入社.7 月の新工場操業開始を前に3 か 月ほど株式会社IHI 回転機械に研修に行き,タービ ン軸の手動バランス工程を学んだ.そのわずかな研修 経験だけを基に,先輩社員のいないなか,車両用ター ボチャージャーのインペラ手動バランス工程を試行錯 株式会社IHI ターボ 新町製造部 機械一担当 班 長 小松 姫木