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IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 ) 25 我が社の看板娘 大きく寄与するなど,電子制御式エンジンはさらなる 進化を続けている. 一方,次世代のエネルギー源として注目される シェールガスは,舶用低速2 ストロークエンジンにも 地球環境保全,および運航費低減の観点から燃料とし ての適用が期待されている.DU ではこれらガス燃料 に対応した従来の液体燃料とガス燃料の両方で運転可 能なエンジンであるデュアルフューエルエンジンとし て,極低NOx 燃焼が可能な予混合・希薄燃焼方式エ ンジンの開発を進めている.低圧力の燃料ガスをあら かじめ空気と混合して燃焼に供する燃焼方式で,燃料 ガスの昇圧装置や高圧ガス配管が不要で,かつ,エン ジンから排出されるNOx が少ないため,排気後処理装 置なしで国際海事機関 ( IMO ) の厳しい新環境規制に 適合できるなど,さまざまなメリットを有した理想の 方式である.利点は大きい一方,高度な混合気形成・ 燃焼制御技術が必要となるが,IHI グループが保有す る燃焼要素技術や,これまで培ってきた舶用大型エン ジンと電子制御技術の融合により,ディーゼルエンジ ンをはじめとするレシプロエンジンの技術史に新たな 1 ページを加えるべく,現在開発に取り組んでいる. 問い合わせ先 株式会社ディーゼルユナイテッド 営業部 電話( 03 )3257 - 8222 URL:www.ihi.co.jp/du/ 実績を重ねてきた.この際に,電子制御化の利点を十 分に享受するためには従来の機械系制御をそのまま電 子系に置き換えるのではなく,根本的な制御系概念の 見直しまで踏み込んだことも特筆すべき点である. 電子制御のメリット ディーゼルエンジンは火花点火方式のガソリンエン ジンと異なり,原理的には電子部品や電子制御が一切 なくても起動・運転が可能である.吸排気弁や燃料噴 射ポンプなど,エンジンの運転に必要な機構の駆動は すべてクランク軸と同期するカム軸によって機械的に 行われ,噴射された燃料は高温高圧の空気により勝手 に着火するからだ.しかし,従来型のカム式エンジン ではカムの形状により,排気弁や燃料ポンプの動作や その時期が限られてしまうため,さらなる環境負荷低 減を追求するための大きな制約となっていた. このため,舶用エンジンに求められる高い信頼性を 維持したまま,エンジン制御の自由度を大幅に高める ために燃料噴射系を電子制御化し,運転状況や使用環 境に応じてエンジンの燃焼などの動作を最適化した. 舶用大型エンジンでは気筒ごとに複数の燃料噴射弁を 備えているため,電子制御化により燃料噴射量,時期 を個別に制御できることは,特に燃焼の最適化に対し 大きな利得となる.これに加え,排気弁駆動系の電子 制御化により,排気弁開閉時期を自在にコントロール することで制御の自由度を大幅に高めた.このように 燃料噴射系や排気弁駆動系などの柔軟な制御を実現し た結果,相反する関係にある窒素酸化物 ( NOx ) と燃 費の同時低減を実現した.さらに,それまでの課題で あった燃料噴射量の極めて少ない低負荷運転における 連続安定燃焼を,エンジンの機械的な改造なしに実現 できるようになった. 電子制御の進化と舶用大型エンジンの今後 競合他社に先駆け電子制御化を進めてきたことで, さまざまなノウハウを蓄積し,低コスト化やさらなる 信頼性の向上といった観点で市場競争力を高めてき た.さらに,船体との適合性追求のためにピストンス トロークと,シリンダ内径の比を従来よりも大きくし た超ロングストローク化による常用出力域の低回転化 を安定的に実現した.プロペラ回転数低下によるプロ ペラ効率向上ともあいまって,船舶の推進効率向上に 従来のカム式エンジンと電子制御エンジンの燃料消費率の比較 30 40 50 60 70 80 90 100 負荷率 ( %) 燃料消費率 低( = 高熱効率 ) 運用域全域での高効率化 高 :従来のカム式エンジン :電子制御エンジン :電子制御エンジン  ( 低負荷重視チューニング ) 低出力重視時 の高効率化 ( 注 ) 電子制御エンジンは低負荷重視のチューニングも可能