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IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 ) 43 ではなぜ,産業用ロボットが停滞し,次世代ロボットが 立ち上がらないのでしょうか? 簡単には,必要な技術革 新が追い付いていないと言えますが,その技術革新を阻む 壁は何なのでしょうか? 大きな壁の一つは,ロボットの頭脳にあります.産業用 ロボットは,決められた動きの繰り返しで動いており,自 らはほとんど考える必要はありません.少品種大量生産で は生産性が飛躍的に上がり,大きな導入効果が期待できま すが,多品種少量生産では動作の教示が対象ごとに必要で, 優れた頭脳がない限り生産性はさほど上がらず,導入の障 害になっています.ただし,最近のコンピューターは,演 算速度,メモリー容量,画像処理技術などの性能が格段に 向上して,ロボットも徐々に賢くなり,適用範囲や分野が 広まっておりますが,まだ普及段階には至っておりません. 一方次世代ロボットでは,その多くは場面ごとに使用者 の要求が異なり,決められた動作を繰り返すだけの制御は 通用しません.つまり,このようなロボットはユーザーに もっと身近で,安全で,相当賢くなければなりません.こ の安全で人と共存できる賢いロボットの実現のために,大 学や国などの研究機関で長年研究していますが,機能を追 求するとコストが合わず,実用化が先延ばしになっている のが実情です. では,その壁を乗り越える方法はあるのでしょうか? 最 大の壁,ロボットの頭脳については,最近ネットワーク上 の仮想計算機によるクラウドコンピューティングを活用す るというアイデアが出てきました.ロボット制御には,現 在の「位置や姿勢の確認」と,目的達成のための「合理的 な動作計画」が必要ですが,この「人が何気なくやってい る動作」は,実はロボットには非常に難しいのです.特に 目的がその都度変わるような動作には,高級なコンピュー ターによる計算やビジョンセンサーによる視覚情報処理が 必要になります.そこで,必要な情報処理をロボット単体 で行うのではなく,ネットやクラウドを利用してその何倍 もの能力を発揮するという方法が研究されています. また,安全で人との共存ができるロボットについては,今 春ドイツのミュンヘンで開かれた展示会 ( AUTOMATICA 2014 ) で, ドイツのロボットメーカーの超軽量,かつ安全で 操作が簡単なロボットの展示がありました.ロボット質量 は可搬質量の2 〜 3 倍で非常に軽量化され,また,各関節 に仕込まれたトルクセンサーにより繊細な力制御が可能で, 人に優しく安全な共同作業や,台車で移動し,人に代わっ て自動で作業を行うことができます.また,その動作は場面 ごとに教え込む必要がありますが,ロボットハンドを直接手 で持ち直感的に教え込むことができます. このようにロボット( 技術)は,センサーやネット ワークなどのICT も利用しながら進歩し,確実に製造や 生活のあらゆる場面に浸透し始めています.従って,これ らの技術革新を積み重ね,製造・社会現場や家庭で活用で きるようになれば,そう遠くない将来に「ロボットによ る新しい産業革命」が実現し,少子高齢化社会を明るい ものにしてくれると期待できそうです. また最近,ロボット技術の進歩に伴い,兵器としてのロ ボットの利用が取り沙汰されていますが,SF 作家アイザッ ク・アシモフの「われはロボット」や,鉄腕アトムで定義 された「ロボットは人を傷つけてはならない! 」という大 原則が,将来にわたって守られることを願ってやみません. 現 状2020 2025 2035 (年) 10 8 6 4 2 0 ( 兆円 ) :サービス分野 :農水産分野 :ロボットテクノロジー分野  ( 自動車の自動運転など ) :製造分野 ( 注 ) 「現状」は2007 〜 2012 年のデータを基にした経済産業省 推計,「2020 年」以降は経済産業省と独立行政法人新エネ ルギー・産業技術総合開発機構の2010 年度調査 日本のロボット産業の市場規模予測 ( 出展:2014 年5 月20 日付け日本経済新聞) 軽量ロボットによる工作機械へのワークセット( メーカー:KUKA ) ( ロボットが力制御でカバーを開閉)