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44 IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 ) 1. 緒    言 医薬品はニーズの高まりによって開発・生産が推進され るため,近年では高血圧症,糖尿病などの生活習慣病の医 薬品は,広く普及し利用できるようになった.一方,薬の 普及が不十分な分野の代表として抗がん剤があるが,現在 は開発が進み,治験や上市段階にきている ( 1 ).抗がん剤 の多くはもともと薬理活性の高い医薬品であるが,より有 効性の高い抗がん剤の開発を目指しているため,さらに高 活性の物質となることは避けられない. このように高薬理活性医薬品の取扱いが増加するにつれ て,交叉汚染( 他製品への混入による製品品質への影 響),健康障害( 作業者への曝露),環境汚染が課題とし て挙がってきている.これらのことから薬理活性の高い粉 体( ケミカルハザード物質)が飛散,浮遊しないための 対応として封じ込め技術が必要とされる. 2. ハザード物質の管理区分 製造現場の空気中に浮遊しているハザード物質の許容量 はOEL( Occupational Exposure Limits:許容曝露限界) で示される.OEL とは,一般的に作業時間の加重平均で 表され,対象となるハザード物質が空気中に浮遊している 雰囲気内で,作業者が1 日当たり8 時間にわたって作業 した場合に,ハザード物質の濃度がこの数値以下であれ ば,ほとんどすべての作業者に健康上の悪影響がみられな いと判断される限界の濃度である. OEL を管理するに当たっては,危険度の高さに応じて 区分されたバンドが用いられており,日本で一般的に使用 されているものとして,第1 表に示すISPE( 国際製薬技 術協会)日本本部が発表した6 段階( カテゴリー)の区 分がある ( 2 ). 高薬理活性物質の取扱いが増えてきていることから,最 近の引き合いでは最も厳しいレベルであるカテゴリー6 第1 表 許容曝露管理区分 ( 2 ) Table 1 Category and corresponding OEL ( 2 ) カテゴリー1 2 3 4 5 6 OEL *1 ( μg/m3 ) > 1 000 1 000 〜 100 100 〜 10 10 〜 1 1 〜 0.1 0.1 > ( 注) *1:OEL の項目のみ抜粋 高薬理活性医薬品の封じ込め技術 Containment Technology for High Potency Active Pharmaceutical Ingredients  橋 佑 子株式会社IHI プラントエンジニアリング 医薬・ファインケミカル事業部技術部 鈴 木 新 吾株式会社IHI プラントエンジニアリング 医薬・ファインケミカル事業部技術部 部長 八 田 暢 哉株式会社IHI プラントエンジニアリング 医薬・ファインケミカル事業部 事業部長 近年,がん疾患に関する新薬開発品目数は増加傾向にあり,より有効な薬の開発に期待がもたれている.しかし, 効果の高い合成化学物質であるということは,非常に強い薬理活性があるため,患者にとって治療に有効である一 方,医薬品製造現場の作業者にとっては健康障害を引き起こす可能性が高い物質といえる.また,製造上極少量で もほかの薬に混入することが許されない.薬の作り手・使い手の両者が,安心して扱える薬を製造するうえで必要 となる技術について紹介する. Throughout the past few decades, the number of newly developed cancer medicines has been on the rise. It is increasingly anticipated that more effective medicines will be developed in the near future. Highly effective synthetic chemicals, however, while providing great benefits in the treatment of cancer, are also potential health hazards to the operators in the production process due to their strong pharmacological activity. The contamination of other products by even residual amounts must be strictly prevented. This report gives an outline of the containment technology that is so crucial for the safe production of medicines from which both users and manufacturers can benefit.