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IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 ) 49 1. 緒    言 自動車用機関では,コンピュータを用いた電子制御や燃 料噴射系のコモンレール式は一般的な技術として導入され ている.コモンレール式とは燃料をポンプで昇圧し,共通 高圧圧力管( コモンレール)にいったん蓄え,蓄えられ た高圧の燃料を電子制御された電磁弁によって,所要のタ イミングで各気筒内に噴射するディーゼルエンジンの燃料 噴射システムである.大型2 ストローク舶用ディーゼル 機関では,自動車用機関と比べると行程容積比で4 000 倍と燃料噴射量が桁違いに多く,かつ燃料には高粘度で多 量の不純物を含む残さ油 ( HFO:Heavy Fuel Oil ) が用い られることなどから,コモンレール技術の適用には,技術 的に解決すべき課題が多かった. 株式会社ディーゼルユナイテッド ( DU ) のライセンサ であるバルチラスイス社( スイス)は,1981 年から燃料 噴射システムの電子制御化に取り組み,数次にわたる技術 的改良を重ねた結果,大型舶用機関の燃料噴射系のコモン レール技術を確立した.また,排気弁,始動弁の制御も電 子化し,コモンレールを有した大型舶用機関として世界初 のRT-flex 機関を2001 年に市場に送り出した.現時点で も残さ油を許容するコモンレール技術を実現している大型 低速舶用機関は,RT-flex 機関とその後継機関である Wartsila X シリーズ( W-X 機関)のみである. 最近では,舶用機関にも環境対応が求められており,国 際条約に従い,段階的に窒素酸化物 ( NOx ) などの排出率 を削減していく必要がある.2000 年から国際海事機関 ( 以下,IMO )NOx 1 次規制,2011 年から2 次規制が適 用されており,2016 年からは3 次規制を満足することが 求められている.また,CO2 削減とともに船舶の運航コ ストに多大な影響を与える燃料消費率の削減も求められて いる. 本稿では,大型舶用機関のコモンレール式電子制御によ る環境負荷低減技術について述べる. 2. コモンレール式電子制御機関の特徴について 従来のカム駆動プランジャ方式の燃料ポンプは,燃料を カムの回転によりプランジャを上昇させて圧縮することに よって昇圧しているため,噴射時期の制御や噴射圧力の自 在な最適化には困難を伴っていた. 一方,コモンレール式電子制御機関では,燃料を噴射す る都度,昇圧するのではなく,コモンレール内の圧力を常 時高圧に保持しておき,自動制御化された所望の期間に燃 料弁を開閉することによって燃料を噴射する仕組みで, コモンレール内に充填,保持された燃料圧力の設定も任意 にできる.第1 図にコモンレール式燃料噴射システムを 環境負荷を低減した先進的大型舶用機関 最先端電子制御テクノロジーを融合した「Wartsila X シリーズ」 Advanced Marine Engine which Reduces Environmental Load “ The Wartsila X-series ” Featuring a Fusion of Advanced Electronic Control Technologies 橋 本 秀 之株式会社ディーゼルユナイテッド 技術部 ディーゼル燃焼においては,一般的に窒素酸化物 ( NOx ) の低減と燃料消費率の低減は相反する関係にあるが,コ モンレール式を採用した電子制御機関( カムレス機関)では燃料噴射や排気弁の開閉タイミングが機関負荷に応じ て可変であり,各種検討および実機試験の結果に基づき最適化された設定によって,低NOx・高効率燃焼を実現 し,環境負荷低減に大きく貢献している. In diesel combustion, there is generally a trade-off between fuel consumption and NOx emissions. With electronically controlled engines ( cam-less engines ) that employ a common rail fuel injection system, there is flexible control of fuel injection and exhaust valve timing in accordance with engine load. By optimizing the setting of parameters based on the result of various simulations and engine testing, low-NOx, highly efficient combustion has been achieved, which makes a major contribution to reducing environmental load.