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50 IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 ) 示す. 2. 1 燃料噴射圧力について カム式機関の場合,噴射圧力は,概略,プランジャ上昇 速度の2 乗に比例し,プランジャの上昇速度はカム回転 速度に,カム回転速度は機関回転速度によって決まるた め,機関の低回転域では噴射圧力が低く,高回転域では噴 射圧力が高くなる特性がある.つまり,燃料噴射圧力を機 関回転速度と無関係に制御することが困難で,最適チュー ニングを目指すうえでの制約となっていた. コモンレール式電子制御機関では,燃料噴射圧力が機関 負荷ごとに最適な圧力となるように機関回転数・負荷に依 存せず制御されている.コモンレールに燃料を供給する燃 料供給ポンプの吐出量は,レールの圧力に基づいて制御さ れているが,このとき燃料ポンプの吐出タイミングは機関 回転数とは無関係であり,RT-flex 機関では,機関回転数 の7 〜 8 倍程度の回数で燃料ポンプが駆動されている. 従来のカム式機関では各シリンダに必要であった燃料ポン プの装備台数は,RT-flex 機関のもっとも少ない機種では 2 台のみである. また,カム式機関の燃料ポンプの場合,噴射終了時にプ ランジャ内の圧力を逃がすことによって切れの良い噴射終 了を実現していた.しかし,昇圧した圧力を逃がすことは エネルギーを捨てることであり,ポンプ効率は良くなかっ た.また,このエネルギーが燃料戻り油路に脈動やキャビ テーションエロージョンを発生させるため,これらの対策 が必要であった.しかし,コモンレール用の燃料ポンプで は,電子制御によって必要量だけ吐出するため,効率が良 く,燃料戻り油路にキャビテーション対策や脈動対策は不 要である. 2. 2 燃料噴射制御について RT-flex 機関では機関回転数・負荷に応じて,@ 噴射タ イミング A 1 行程中の全噴射量 B 噴射圧力に依存する単 位時間当たりの燃料噴射量( 以下,噴射率),を最適に制 御している.上記のうち,Bの噴射圧力を除く燃料噴射制 御はWECS ( Wartsila Engine Control System ) からの指 令に基づき,レールバルブ( 高速電磁弁)で作動油通路 を切り替えICU ( Injection Control Unit ) 内の制御弁を駆 動することで実現している.Bの燃料噴射圧力は,機関回 転数・負荷に依存せず制御可能であり,高い制御自由度を 確保している. 先にコモンレール式を大型舶用機関に適用することが困 難であった一つの理由が燃料であることを述べた.これ は,大型舶用機関の燃料は残さ油であるため,粘度,発熱 量,不純物などの性状が燃料補油ごとに異なることに起因 し,燃料を作動油として直接使用することが困難なためで ある.ICU は昇圧された性状が安定している潤滑油を作 動油とし,この作動油路をレールバルブで切り替えること で,燃料噴射を的確に制御できる機能を確立し,同時に, 高圧配管や燃料弁不良が生じた場合のフェールセーフ機能 を有している.この機構が,コモンレール式燃料噴射系を 高い信頼性が求められる大型舶用機関に適用できる突破口 となった. また,RT-flex 機関の後継機関であるW-X 機関では, ICU の機能の一部を燃料弁へ移すことにより,燃料噴射 における噴射遅れの改善がなされている.これについて は,後述する. 2. 3 コモンレール式による高度な燃料噴射制御 RT-flex 機関,W-X 機関では,さまざまな燃料噴射パ ターン,パラメータを設定することが可能である.代表的 な二つの燃料噴射制御パターンについて述べる.下記のい ずれも,シリンダに装備されている複数の燃料弁を個別に 制御が可能なコモンレール式機関のみがもつ機能である. 2. 3. 1 燃料噴射ノズル本数制限 低出力運転では燃料噴射量が減少するため,燃料弁が開 いている時間が非常に短くなる.従来方式では各シリンダ に設置された燃料ポンプで複数の燃料弁を動作させていた ため燃料弁個別の制御ができずに,噴射燃料油の良好な霧 化が得られにくかった.しかし,電子制御機関では複数装 備されている燃料弁のうち,作動する燃料弁の本数を制限 することができ,燃料弁当たりの燃料噴射量を増加させ, 極低出力でも良好な霧化を実現し,その結果として安定し た燃焼を達成している.なお,噴射する燃料弁を一定時間 ごとに切り替えることで,燃焼室内の熱負荷の均一性を確 6 5 4 3 2 200 bar 燃 料 高効率燃料ポンプ 燃料レール 〜 1 000 bar シリンダ 燃料弁 燃焼室 クランク エンジンコントロールシステム WECS-9520 容積型噴射制御装置 第1 図 コモンレール式燃料噴射システム Fig. 1 Common-rail type fuel injection system