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52 IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 ) 気をピストンで圧縮し,高温になった圧縮空気内に燃料を 噴射することで燃料を自着火させる燃焼形態である.高い 熱発生率は火炎温度の上昇を助長し,前述のようにNOx 生成量が増加する.燃焼初期において熱発生率が高くなる のは着火遅れによる予混合燃焼によるもので,燃料噴射初 期の噴射量抑制が効果的である. シーケンシャル噴射では,総燃料噴射量を変えずに複数 の燃料弁を時間差で噴射させることによって,噴射率を燃 焼前半で低く抑えることが可能になり,初期の熱発生率を 抑制することができる.第5 図に,通常噴射とシーケン シャル噴射での熱発生率の比較を示す.シーケンシャル噴 射を適用することで,燃焼前半の熱発生率のピークが低下 していることが分かる. 油圧カム方式などのほかの電子制御機関では,シリンダ ごとに装備された燃料ポンプが複数の燃料弁を同時に作動 させるため,燃料弁ごとの制御ができない.このため,燃 料噴射前半の噴射圧力を下げることで燃料噴射率を低減さ せ,燃焼前半の熱発生率の低下を図っている.しかし,こ の方法では,残さ油を燃料とする大型舶用機関において は,難燃性燃料が補油された場合などに,燃料の霧化不足 による燃焼不良や後燃えなどによって,燃焼室部品への悪 影響を与えることが懸念される. 3. 3 排気弁開閉制御の効果について 排気弁の開閉時期の制御は,燃焼温度の低下とサイクル 効率の向上の両方に有効である.高温ガスによる自着火で 燃焼が開始するディーゼル機関では,燃焼に必要な空気量 を確保したうえで,自着火に必要な圧縮温度の下限を目指 すことも燃焼温度を下げる方策の一つとなる.具体的に は,圧縮前温度と圧縮比に依存する圧縮空気温度を下げる ために,圧縮比を低下させるが,この際,排気弁の閉タイ ミングを可能な限り遅らせる設定が有効となる.また,排 気弁の閉タイミングを遅らせることは,ピストンによる圧 縮仕事の低減になる.さらに,排気弁開タイミングを可能 な限り遅らし,膨張行程を長くとることで,サイクル効率 の向上につながる. このような圧縮行程より膨張行程の有効長を大きくする 低圧縮比・高膨張比のサイクルはミラーサイクルと呼ば れ,サイクル効率向上に有効な手段であることが知られて いる.第6 図に,カム式機関と電子制御機関の排気弁開 閉制御の比較を示す.電子制御機関は負荷に応じて,排気 弁閉時期を柔軟に変化させており,機関負荷によって異な る最適な排気弁閉タイミングに制御していることが分か る.また,排気弁の開閉が従来のカム式機関よりも矩形的 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 210 220 230 240 250 260 270 280 290 300 クランク角度 ( 度 ) 排気弁リフト カム式機関:負荷25 〜 100% 電子制御機関:負荷25% 電子制御機関:負荷50% 電子制御機関:負荷75 〜 100% 小大 第6 図 排気弁開閉制御の比較 Fig. 6 Comparison of exhaust valve control 0 50 100 150 200 250 300 .20 .10 0 10 20 30 40 50 60 クランク角度 ( 度 ) H. R. ( dQ/ dq ) ( kJ/C. A ) 熱発生率ピークの低下 :通常噴射 :シーケンシャル噴射 ( 注 ) H. R.:Heat Releace 熱発生率 C. A :クランク角度 dQ :発熱量 dq :クランク角度 第5 図 熱発生率の比較 Fig. 5 Comparison of heat released