Project Story #03 世界初のFPP(固定ピッチプロペラ)直結型、
船舶用デュアルフューエルエンジンを開発。
世界初に挑み厳しい規制をクリアせよ。

Chapter #01

NOx 80%削減に向けて果敢に挑む

IMO(国際海事機関)による海上での環境規制が厳しさを増す中、2011年適用のNOx排出二次規制に対応した低NOxエンジン28AHXを2008年に製品化。世界最高水準の低燃費も併せて実現させ、船舶用ディーゼルエンジンの先駆者としての底力を世に示した。しかし、2016年にはさらに厳しい三次規制が適用されることが既に決定しており、成功の余韻に浸っている時間は無かった。一次規制を基準にすると、二次規制ではNOxを約20%削減すればよかったが、三次規制では80%の削減が必要だからだ。重油を燃やす限りNOxの発生は避けられないため、ディーゼルエンジン単体で規制をクリアするのは至難の業だ。スペースに余裕のある船なら脱硝装置を取り付けてNOxを無害化する手もあるが、主要顧客であるタグボートなど小型船での使用を考えると、できるだけコンパクトでありたい。
そこで候補に浮上したのが、船のプロペラと直結可能な、ガス運転とディーゼル運転ができるデュアルフューエルエンジンの開発である。ディーゼル運転と燃焼形態が違うガス運転なら、NOxの排出量を大幅に低減できるからだ。ただ、ガスエンジンは急に大きな負荷がかかると失火やノッキング(異常燃焼)しやすく、継続的に運転できにくくなる。その点デュアルフューエルエンジンであればガス運転・ディーゼル運転という二つの運転形態が使用可能で、仮にガス運転で失火やノッキングが起きた場合、ディーゼル運転に切り替えることで船を止めずに運航を継続できるため安全性が高く、遭難や事故を防ぐことができる。そこで技術陣が着目したのが最新型機関の28AHXである。この機体をベースに、ディーゼル運転とガス運転を併用できるプロペラ直結型の船舶用エンジンを開発すれば、顧客にとってもメリットは大きい。 「日本初の船舶用ディーゼルエンジン同様、船舶用デュアルフューエルエンジンの開発も我々で初めて実現させよう」。エンジニアたちの挑戦心に火が着いた。そして実働部隊として開発の最前線に立たされたのが、当時入社2年目の結城だった。

Chapter #02

ディーゼル並みの応答性を
ガスで実現できるか

「ガスエンジンが専門なのでディーゼルには詳しくない上に、入社2年目だったのでまだ実際にエンジンを回した経験もない。それがいきなり天然ガス(LNG)とディーゼル用燃料油の両方で動くエンジンの開発を任されたわけですから、本当に驚きました」
エンジンを“回す”とは、必要な部品を調達して、組み立てと試運転の作業を管理し、細かくデータを取っては性能を確かめ、不具合を改善しながら理想形へと仕上げていく一連の業務を指す。いわば開発における現場監督のような仕事だ。基本設計こそ完成していたものの、実際に組み立てて運転してみないと計算通りに動くとは限らない。まして世界で前例のない、プロペラ直結型の船舶用デュアルフューエルエンジンとなると、社歴の浅い若手には手に余る難題だと思われた。
「初めて試作品を回したときは、ノッキングと言う異常燃焼が発生し苦労しました」
最大の難関はディーゼルとガスの応答性を同レベルに合わせることにあった。ディーゼルエンジンなら、回転数をMAXまで上げる時間は20秒以内だが、当時のガスエンジンだと数分かかるのが常だった。操船する側にとってはディーゼルもガスも同じ使い勝手で動かないと困るため、何としてもガス運転の応答性をディーゼルエンジン並みに短縮せねばならない。そのためには急激に出力を上げても、ガスが最適な空気と燃料の比率(空燃比)で燃焼できるよう制御する必要がある。しかし燃料となるガスや燃焼に必要な空気は気温や湿度によって日々密度が変わるなど、制御の難しさは液体(重油)の比ではない。また、エンジン出力を上げれば上げるほど運転できる空燃比の適正範囲が狭まる上、空気が薄すぎると異常燃焼によって運転がストップし、濃すぎると失火が起きる。船舶エンジンはいかなる場合も運転継続が求められるため、空燃比の完全制御は実用化に向けて絶対に超えねばならないハードルであった。

Chapter #03

第一号は絶対自分たちが
世に出すという強い想い

結城が試行錯誤を繰り返していた頃、主要顧客の一つ日本郵船様からエンジンメーカー各社に、「タグボート用ガスエンジンを2015年中に製品化できないか?」と打診があった。そして納期の短さとリスクの大きさに大手各社が二の足を踏んだ中、ここが勝負時とばかり果敢に手を挙げた。
「大手メーカーはいずれ必ずガスエンジンを完成させてくるし、そうなると当社の入り込む隙間がなくなるかも知れない。そんな危機感を全員が共有していたからこそ、船舶用ガスエンジンの第1号は絶対自分たちが世に出そうと全員が思っていました」
2013年12月、日本郵船様はマスコミに向け国内初のLNG燃料船を建造すると発表。その半年後、デュアルフューエルエンジン28AHX-DFを正式受注した。そして予定通り2015年9月に船が竣工。デュアルフューエルエンジンという新たな道を切り拓くフラッグシップとしての期待を込め、「魁(さきがけ)」と命名された。
しかし、納品後も結城の仕事は終わらない。巨船を曳航しながら急加速・急停止を繰り返すタグボートのエンジンには、工場でのテスト運転とは桁違いの大きな負荷がかかり続けるため、就航当初は実践の動きに即した調整・改善が欠かせなかった。「『魁』が作業をしている横浜に何度も足を運び、付きっきりで作業しました。おかげで現場の方たちと親しくなり、行くと私たちの食事が普通に用意されていました(笑)」
作業を通じて、実践の中からしか得られない貴重なデータと知見が蓄積されていった。そして結城自ら手を動かさなくても、後輩たちだけでガスエンジンを回せるほど社内の技術レベルは向上した。
NOxの規制に加え、2020年1月には排ガス中の硫黄分(SOx)濃度の国際的な規制強化もスタートする。天然ガスは硫黄分の含有量がほぼゼロなので、ガス運転ではSOxをほぼ100%削減できる。そのため、船舶用エンジンとして今後有力な選択肢になることは間違いない。「世界初」を実現させたこの挑戦がどこまで大きな実を結ぶのかは、これからの努力にかかっている。

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