Introduction -技術者が語るイプシロンロケット- 日本の宇宙開発の歴史に新たな一歩を刻むと期待される「イプシロンロケット」。どんなロケットなのか。これまでの道のりやプロジェクトのメンバーの想いとは。開発に携わるIHIエアロスペース・ロケット技術部ロケット技術室主幹、関野展弘に話を聞いた。中学生のころに目にしたスペースシャトルのフォルムの美しさに魅せられて、航空宇宙の世界に進んだという関野。専門は流体解析。大学を出て以来、23年をこの世界で過ごしている。「もともとM-Vというロケットがあって、それがなくなるということで後継機として立ち上がったのがイプシロンロケットのプロジェクト。次はどうするか。M-Vで問題とされていたこともいろいろあって、それらをどうしていくか。新しいことをやるいいチャンスだと感じた。」と関野は語る。

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Concept -宇宙の裾野を広げる- イプシロンロケットとはどんなロケットなのか。「一言で言うと『宇宙の裾野を広げるロケット』。小型ロケットです。現在の主力ロケットと比べて、かなり小さい。小さいものを打ち上げるということがこれからどんどん増えていく。小さいものをどんどん打ち上げていくことで、宇宙への敷居が低くなる。そういうことを目指すのが、イプシロンロケットのコンセプトです。」今までのロケットの歴史というのは、大型化と高性能化をずっと追い求めてきて、実は運用性というものがあまり重視されてこなかったという側面があるのだという。イプシロンロケットは、それを改善する。性能ももちろんだが、運用性をよくすることで、広く使われるようにする。その意義を、関野はこう語る。「ロケットの位置づけ自身が、今、変わりつつあります。今までは性能・能力をずっと追求し続けてきた。アメリカやロシアといった宇宙大国に追いつくことを目指してやってきた部分がある。そして、それはある程度の部分まで到達したわけです。ところが、日本が宇宙先進国としての一角を担うということになったときに、じゃあ、これからどうしますか、ということがあります。世界一といったことはこれからも大事ですが、やっぱりもっと広く使ってもらう、みなさんに使ってもらう。そういうことを目指すべき時代になってきているということです。その転換点、エポック・メイキングがイプシロンロケットです。」

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Spec -スペック- では、そんなイプシロンロケットはどんなスペックを持つロケットなのか。さまざまな技術の粋を集めたイプシロンロケットだが、その中からいくつかを紹介してもらった。「イプシロンロケットは固体燃料ロケットです。固体燃料ロケットの特徴は、シンプルなこと。事前の点検が少なくて済む。イプシロンロケットでは、それをもっと簡略化して、自動でできるようにしています。自動点検というのが大きな特徴のひとつです。設備とも合わせて、なるべく人手をかけないようにする。『ロケットを持って行って、組み立てて、打ち上げる』ということを少ない人数でできるようにする。それが『裾野を広げる』というコンセプト、打ち上げを簡単にすることにつながります。」固体燃料ロケットは小型ロケットの運用性を上げるというには最適な姿だが、一度点火すると途中で燃焼を停止できないという特徴もある。液体燃料ロケットは液体燃料をエンジンに供給するので、バルブを閉めて止めるということができるが、固体燃料ロケットはそれができない。そんな固体燃料ロケットの弱みを克服している点も特徴のひとつだという。「例えて言うと、車で東京から大阪に向かうときに、エンジンを一回かけてアクセルを踏み込んだら、いっさいブレーキを踏まずにひたすら進み続けて、ガソリンがなくなって止まった地点で止まる、というのが固体燃料ロケットです。そこで、たとえば『大阪駅の真ん前で』と止めたいところにピタッと止める、という技術がいる。その精度というのもイプシロンロケットの特徴的な技術のひとつです。また、さらに精度の良い軌道投入を要求される場合には、液体燃料を少量だけ積んで、最後の微調整ができるようにするなどの工夫がなされています。」コンセプトを具現化するためのさまざまな技術が詰め込まれているのが、イプシロンロケットなのだ。

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Process -7年の道のり- そんなイプシロンロケットは、いったいどのようにして生まれたのか。ロケットが生まれるまでの道のりを、簡単に説明してもらった。「イプシロンロケットは、足かけ7年におよぶプロジェクトになりました。まずはじめに『コンセプトスタディ』というものを行います。どういうロケットにするか、目標は何か、どんな能力をもたせるか、どういったミッションを可能にするか。そういった「なんのためにこのロケットをつくるか」というコンセプトを練り上げ、ゴーサインが下されるまでに4年かかっています。それから『概念設計』というステップに進みます。すでに開発されているものを使用する場合はどれをどう組み合わせるか、組み合わせたときにどう飛ぶのか、いくらかかるか、そうしたことの検証と、どれをつくるかの選択を行います。これには1年くらいかかったでしょうか。そして『技術開発』です。コンポーネント(ロケットの各部位)をどう設計するか、どう製造するか、製造し、確認し、試験を重ねます。このステップには1年半くらいです。そして『システム統合試験』。出来上がってきたものを組み上げていく。実際に動くかを試験する。この試験に1カ月ほどがかかります。そしていよいよ『打ち上げ』へと、最終のステップに進むのです。イプシロンロケットの場合、打ち上げ場所である鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所に運び、そこでも試験を繰り返します。そしてついに打ち上げということになるのです。」 ロケットができるまで コンセプトスタディ>概念設計>技術開発>システム統合試験>打ち上げへ

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Launch -打ち上げ、そしてその先へ- 月14日、無限の夢をつめこんだ小さなロケットが、内之浦宇宙空間観測所から飛び立った。2回の延期を乗り越えての、打ち上げ成功。それを受けて、関野は率直に語った。「ほんとうに上がってよかった。達成感もありますが、それよりもほっとしている感じですね。長く受験勉強をしてきて、試験が終わったという・・・解放感もありますし、充実感もあります。」そう安堵の声をもらしながら、まずはこれまでの道のりを改めて振り返る。「苦労はたくさんありました。携わっている人間みんなが、たくさん苦労してきた。新しいロケット、はじめてのロケットというのは、やっぱり思いもかけないことが起きたり非常に厳しいこともあったりしたのですが、なんとか切り抜けてくることができました。」だが、感傷に浸る様子を見せる間もなく、関野はすぐに「次」について語り始めた。「もちろん、これは終わりではなくスタート。いま上がったばかりなので、どんなデータがとれたのか、ロケットとしてどうだったのかをこれから検証していかなくてはならない。ほっとしている場合ではなくて、明日明後日にでもやらなくてはいけない仕事があります。それから、次の二号機に向けて。開発は始まっています。打ち上げは二年後になるのですが、それに向かっていかなくてはいけない。それ以降、三号機、四号機、さらにその先。次の世代のイプシロンを開発していくための活動もやっていかなくてならない。ほんとうにこれはスタートで、これからイプシロンロケットを長く大きく活躍するものにしていかなくてはいけないと思っています。こうした打ち上げが何度も見られるようにしていきたい。自分たちIHIグループとしても、システムに携わらせてもらっているフラッグシップとなるロケット。愛着もありますし、よそには負けないという意気込みで、これからも努力していきたいと思っています。」宇宙の裾野を広げる、イプシロンロケット。その旅路は、まだ始まったばかりだ。

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EPSILON ROCKET

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