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社外取締役と機関投資家の対話

IHIグループの持続的な高成長を支えるコーポレート・ガバナンス

中期経営計画「グループ経営方針2023」を進めるには、コーポレート・ガバナンスにおける社外取締役の役割は極めて重要です。
IHIグループのコーポレート・ガバナンスの現状・課題などについて、機関投資家であるズヘール・カーン氏をファシリテーターに迎えて、社外取締役4名が意見を交換しました。

実施日:2023年7月、実施場所:IHIクラブホール

  • UBPインベストメンツ株式会社

    ズヘール・カーンZuhair Khan

    日本企業のガバナンスにフォーカスした株式運用戦略の責任者として2019年にUBPインベストメンツに入社。それ以前は、米国系証券会社で日本株リサーチヘッド兼ストラテジストとして従事。日本企業のコーポレート・ガバナンスを調査・分析したプロダクトは世界中の機関投資家から高い評価を得ている。

    UBPインベストメンツ:スイス・ジュネーブに本拠を置く資産運用会社Union Bancaire Privée(ユニオンバンケールプリヴェ)の日本拠点。

  • 報酬諮問委員会委員長
    指名諮問委員会委員

    中西 義之なかにし よしゆき

  • 指名諮問委員会委員

    松田 千恵子まつだ ちえこ

  • 報酬諮問委員会委員
    指名諮問委員会委員

    碓井 稔うすい みのる

  • 報酬諮問委員会委員
    指名諮問委員会委員

    内山 俊弘うちやま としひろ

2023-2025年度 中期経営計画「グループ経営方針2023」

  • ズヘール・カーン氏(以下、カーン):UBPインベストメンツは、日本企業のガバナンスに着目して株式運用を行なっており、ガバナンスの要は取締役会だと考えています。IHIの社外取締役は、豊富なバックグラウンドの方々で構成されています。本日は皆さまの多様なご経験をベースにして議論していきたいと思います。
    まずは、 「グループ経営方針2023」についてお聞きします。この「グループ経営方針2023」では、IHIグループの事業を成長事業(航空エンジン・ロケット分野)、育成事業(アンモニアなどのクリーンエネルギー分野)、中核事業(資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械分野)の3つに区分して、ライフサイクルとバリューチェーンを強く意識して取り組むことにしています。ここで進めようとしている事業変革には積極的な投資が必要なことは理解できますが、投資回収の目処や収益化の時間軸についてどのような議論をされているのでしょうか。
  • 碓井:収益化に向けての時間軸についての議論はまだ十分ではありませんが、育成事業と位置付けているアンモニアなどのクリーンエネルギー分野については、2030年までにはしっかりとしたビジネスモデルを確立しなければなりません。この分野では、IHIグループは燃料の製造、貯蔵・輸送から利用までのサプライチェーン全体において中心的な役割を果たすことを目指していますが、各国のエネルギー政策にも左右されるので、このようなビジネスモデルの確立には一定の時間が必要です。
    成長事業と位置付けている航空エンジン分野は、グローバルなサプライチェーンの中でも非常に良好なポジションにあり、今後も成長が期待される分野です。成長のためには、生産技術を含めた事業基盤をさらに強化し、プレゼンスを向上させていく必要があります。航空機は部品点数が多く複雑なシステムです。さらに、加速する省燃費化のためにより高度な技術を取り入れた上で厳しい認証を取得する必要があります。このような理由により、研究開発への投資から製品を実用化して利益を得るまでに時間を要します。
    中核事業と位置付けた分野においては、育成事業や成長事業への投資原資を捻出するためにも、構造改革を断行し、収益性を高めていかなければなりません。
  • カーン:コアとなる事業である育成事業や成長事業への投資原資を確保するために、資産やノンコア事業の売却も必要だと思います。そのような議論は深まっているのでしょうか。
  • 松田:成長、育成、中核事業を定義して、事業ポートフォリオが明確になったことで、今後の投資に関する議論の土台が完成したと認識しています。先の中期経営計画である「プロジェクトChange」を経て、取締役会としての事業ポートフォリオに関する共通の概念を共有できてきたので、資産売却も含めた効率的な資本の使い方が少しずつ議論できるようになっています。事業や投資の優先順位に関する議論は、事業機会を逃さないためにも、これから取締役会として議論する中心的なテーマになってくると思っています。
  • 碓井:中核事業の中には多くの事業が混在しています。そうした事業の中にもIHIグループにとって重要な技術が存在しますが、その事業が競争力を有しているかと言えば必ずしもそうでないと感じています。コアとなる人財、技術、顧客基盤を集約してよりシナジー効果を得られるように事業構造を変えていく必要があるでしょう。関係会社も含めて、グローバルで勝負できるところに経営資源を集中していくべきだと思います。売上規模の大きい中核事業の採算性を向上させて投資原資を確保することで、育成事業や成長事業に積極的な投資が可能になります。このように原資を確保し投資することについても、市場からの理解を得られるのではないでしょうか。
  • カーン:ライフサイクルビジネスの収益性を高めるために、DXによる事業変革は必ず達成しなければならないと思います。DX戦略やDX人財の確保は、どのように評価されていますか。
  • 碓井:IHIグループはハードウェアに強みを持つ会社です。この強みを生かし、事業に対してDXソリューションを導入して、生産性と競争力を高めていくべきです。他社との協働も含めてオープンな対応が必要になると思います。
  • 松田:IHIには優秀な人財も技術もたくさんありますが、改善すべき課題が3つほどあるように思います。1つ目は全体最適を考えるということが少し苦手なところです。2つ目は「ビジネスデザイン」をする力が不足していることです。つまり個々のパーツのデザインは優れている、これは良いことなのですが、よりビジネス全体として市場や競合を見てデザインすることが必要です。3つ目はスピード感が足りないところです。このような点を何とかしなくてはという問題意識のもと、変革をテーマにした「グループ経営方針2023」が策定されました。DXによる事業変革を進めるためには、先に述べた3つの課題を改善することが重要となるので、意識改革に加えて行動変容を促してまいります。
  • カーン:事業変革に伴う収益力の改善余地は大きいように感じます。中長期での事業変革が着実に実行されたときの収益性インパクトはどのように期待されますか。
  • 松田:変革が実現できれば、収益性は例えば現状の2倍くらいにでも拡大できるのではと期待しています。一方で、その実現のために乗り越えないといけないハードルも見えているので、今が踏ん張りどころでもあります。
  • 中西:育成事業のクリーンエネルギー分野は夢のある事業です。思い切った投資によってアンモニアのバリューチェーンを構築し、メインプレーヤーとして存在感を示すことができれば、収益性の向上にも寄与すると考えます。
  • 碓井:2030年までは成長事業が収益力向上のドライバーとなることを期待しています。中核事業も安定的に2桁の利益率を達成することが可能です。さらに、そこから得られたキャッシュを育成事業に投資することで、2030年以降にIHIグループの事業のゲームチェンジャーに成り得るクリーンエネルギー分野の成長を大きく加速させることができます。このように高成長かつ高収益企業になれる実力はあるので、しっかりフォローします。
  • 内山:育成事業であるクリーンエネルギー分野に関連する新しい動きが世界中のメディアで毎日のように伝えられていますが、非常にワクワクする事業だと思います。営業利益率についても少なくとも2桁を目指していきたいところです。そのために目指すべき企業をベンチマークとして設定するのもひとつの方法です。適切なベンチマークがあれば、現実的な目標を設定できるように思います。

事業の土台を担うコーポレート・ガバナンスの強化:体制

  • カーン:私たちは、ガバナンスを評価する際には、取締役会の人数に注目しています。取締役会の構成人数が多すぎる場合、ガバナンスが機能していないケースが見受けられます。IHIでは取締役12名および監査役5名の17名の体制となっていますが、ガバナンスの実効性と適正な規模についてどのようにお考えでしょうか。
  • 碓井:IHIの取締役は12名おり、他社と比べると多いほうです。ただし、議論の中心は代表権を持つ社内の取締役と社外取締役、社外監査役、そして財務担当取締役であり、私が取締役会の議長を務めるセイコーエプソン株式会社(以降、セイコーエプソン)と実質的には違いはないと感じています。今後はよりスリム化しても問題ないと思います。
  • 内山:日本精工株式会社(以降、NSK)では、取締役会の人数を12名から9名に減らし、さらに社外取締役を過半数に増やしました。社内の取締役の人数を減らした理由は、全員が積極的に議論できる取締役会にするためです。社内の業務執行取締役は、自分の責任分野以外の議論には参加しづらく、自分の案件に賛成してもらうためには他の案件には反対や批判はしないという心理が働くこともあるため、どうしても発言が少なくなります。取締役会の人数を減らした上で、代表取締役、社外取締役、そして監査委員である取締役を中心に議論を行ない、必要に応じて業務執行を担う執行役から説明をしてもらうことで、議論の深さと中立性を保てるようになりました。私自身、社長としての任期中は議案が通るかどうか不安もありましたが、緊張感を持って臨めたのは確かです。
  • カーン:IHIでは、取締役会の議長と指名諮問委員会の委員長は社内の取締役が務められています。社外取締役がこれらのポジションに就かれることに対してのメリット、デメリットについてどのようにお考えでしょうか。
  • 松田:投資家の評価という点を考えれば、社外取締役が務めるほうがメリットは多いと思います。投資家はまず、ガバナンスの有効性を外形的な要素で判断する傾向があるので、投資家から評価されやすくなるという利点はあると思います。加えて、社外の視点がより反映されることもメリットとしてあげられます。一方で、取締役会の議長や各種委員会の委員長を社内の取締役が務めると機能しなくなるということではありません。議長や委員長と社外取締役の間に相互信頼と十分な意思疎通があることで、実効性が担保されていることが何より重要だと考えています。
  • 内山:業務執行には関与しない社内の取締役を取締役会の議長に任命する、という選択肢もあります。実際にNSKでは業務執行に関与しない社内の取締役が議長を務めています。社外取締役が議長を務めるほうが、独立性の担保という点でメリットはあります。一方で、市場環境の変化や技術のトレンドに対する議長や委員長の理解が十分でないと、議論が噛み合わないことも起こりえます。
  • 中西:DIC株式会社においても取締役会の議長は、代表権のない、業務執行に関与しない会長が努めています。投資家は、社外の取締役が議長を務めることを評価するのかもしれません。しかし、議長が社外か社内かの選択は、取締役会の運営面を考えると簡単には判断できないというのが実情ではないでしょうか。
  • 碓井:IHIグループは事業構造が複雑なので、社外取締役が取締役会の議長を務めるのはなかなか難しいのではと感じています。一方で、次期社長の後継者の指名には客観性と透明性を担保する観点から社外取締役の関与が求められていることも事実です。したがって、指名諮問委員会の委員長については社外取締役が務めるほうがステークホルダーの皆さまへの説得力は高まると思います。
  • カーン:社内と社外の取締役の意思疎通をより良くするために、筆頭社外取締役を設けるという選択肢もあると思います。
  • 碓井:筆頭社外取締役を任命すれば、社外取締役の間でのコミュニケーションは取りやすくなると思います。現在の取締役会の議論では、社外取締役同士で事前に意見を交換する機会はありません。取締役会の場でそれぞれの考えを述べるので、社外取締役の総意がどこにあるのか見えにくいという実情があります。筆頭社外取締役が社外取締役の意見を取りまとめることで、取締役会での議論をさらに深めることができそうです。セイコーエプソンでは、社外取締役に限定した話し合いの場を設けています。IHIでも検討してみる価値はあると思います。
  • 中西:私が社外取締役を務めている別の会社では、筆頭社外取締役を任命しており、案件によっては事前の意見集約が図られています。社外取締役の総意として社長に報告されるので、社内の取締役から見ると論点が明確になると感じています。一方で、筆頭社外取締役は、とりまとめ役としての負荷が生じるため、報酬面も含めて制度設計を見直す必要があると思います。

事業の土台を担うコーポレート・ガバナンスの強化:報酬

  • カーン:欧米企業の場合は、社外取締役の報酬の基準として、基本報酬が10万ドルで委員会メンバーに5万ドルの加算、委員長にはさらに5万ドル追加と任務内容の負荷によって手厚くなります。報酬の約半分は譲渡制限付株式の付与となっており、株主と目線が一致しやすい報酬制度になっていることが多いです。こうした工夫は、日本企業でも取り入れる余地があるように感じます。
  • 碓井:株式報酬を増やすことは賛成です。セイコーエプソンでは、社内の役員については報酬の一部として株式報酬を導入しています。株式報酬の導入により、役員が率先して自社株式を保有するという意識が醸成され、社外取締役も役員持株会を通じて自主的にそれなりの数の株式を取得しています。株式を保有することで、社外取締役がより株主の皆さまと同じ目線に立ち、良い議論ができる下地が形成できてきたように感じています。
  • カーン:IHIの役員報酬における業績連動部分の主なKPIは、連結当期利益、連結営業キャッシュ・フロー、連結ROICおよび役員ごとのミッションに応じた個別評価指標等です。報酬諮問委員会では、インセンティブ報酬の評価軸についてどのような議論をされているのでしょうか。
  • 中西:現在の経営においては、連結営業キャッシュ・フローを重視しており、インセンティブ報酬の評価軸となっています。ただ、目標値は相当高めに設定されており、前期は過去最高水準の利益を達成したにもかかわらず、業績に連動した報酬はそれほど高くなく、ややバランスを欠いている印象を持っています。また、前年比の改善値や成長値、非財務的な視点を指標に取り入れていないので、改善に向けた議論を行なっているところです。
  • 碓井:IHIは非常に厳しい時代があったので、キャッシュ・フローを改善しようとする強い意気込みの中でインセンティブ報酬の評価軸が決まったものと推測します。一方で、現状では課題もあります。例えば、事業環境などあらゆる外的要因や、営業成績にすぐに結びつかない長期的な開発や構造改革の進捗といった観点をより評価に組み込むべきと思います。IHIグループの重要な方針であるESG経営の観点から上昇する株価の恩恵を受ける仕組みを構築することが、これからの我々が進むべき方向ではないかと思います。これらの課題に関する議論はすでに取締役会で始まっています。
  • カーン:海外企業の経営陣の報酬の大半は株式で付与されています。IHIでは、全体の2割が株式報酬となっていますが、株式報酬の比率や水準を引き上げても良いのではないでしょうか。
  • 中西:報酬制度については、IHIとしての独自の考え方に基づいてダイナミックに判断するということがあっても良いと思います。グローバルな事業活動を意識する中で、そこは変えていく必要があると考えています。
  • 碓井:構造改革を断行しているときは足下の業績も厳しいので株価は低迷する傾向があります。ただ、私の経験を申し上げると、セイコーエプソンでは「将来必ず業績を改善する」という思いを持ち、また株主の皆さまと利益を共有するために、株主株式報酬や役員持株制度を利用してできるだけ自社株を付与するよう心がけました。IHIグループでも、構造改革を断行して企業体質が強くなれば株価に反映されるので、株式報酬を思い切って増やしても良いと思います。自身の取組みが将来の株価に反映されることにより、経営に対するインセンティブも上がりますし、退任後の充足感も高まるように感じます。また、経営者の覚悟を株主の皆さまに示すことにもなります。
  • 内山:株価を意識することは経営者として必要不可欠です。したがって、役員の報酬体系を考える上で株式報酬は重要な要素であることは間違いありません。
  • 松田:株式報酬の比率の議論もありますが、それ以前の問題として日本企業の経営者の報酬額の水準は低すぎます。今の水準のままで株式報酬比率だけを引き上げると、目の前の生活のための現金が不足するということも、笑い話ではなく起こり得る話です。 有価証券報告書における報酬の開示基準が1億円以上ということにも問題があると思いますので、日本企業の役員報酬のあり方については投資家の立場からもより声を上げていただきたいです。
  • カーン:中長期の評価指標が妥当であれば、業績連動型の株式報酬の拡大には大賛成です。私の分析では、社内の取締役の自社株式保有額と企業価値の向上には正の相関があり、特に自社株を1億円以上保有している社内の取締役が複数名在籍している企業においてはその相関は顕著に現れます。投資家としては、業務執行を担う社内の取締役には株式報酬により一定以上の株式保有をお願いしたいと考えています。
  • カーン:本日の議論を通じてIHIグループのガバナンスと長期的な企業価値について理解を深めることができました。日本企業は海外企業と比較すると、IRに対する投資が足りない傾向があり、欧米やアジアの企業に比べて情報量が少ないと感じています。IHIグループの成長ストーリーを世界中の投資家に積極的に発信されることを期待しています。

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