PROJECT
OUTLINE
IHIでは「自然と技術が調和する社会」を創るため、防災・減災の実現に向けて、自然災害に強く経済的なインフラの整備に取り組んでいます。八ッ場ダム試験湛水(たんすい)中の2019年10月に猛威をふるった台風19号では首都圏の洪水被害軽減に寄与する結果となり、「八ッ場ダムの奇跡」として大きく報道されました。
MEMBER
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社会基盤事業領域
IHIインフラシステム
IIS鉄構技術室 水門建設部西川 浩司
NISHIKAWA HIROSHI
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社会基盤事業領域
IHIインフラシステム
IIS鉄構技術室 水門設計部 設計グループ浅野 徹
ASANO TORU
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社会基盤事業領域
IHIインフラシステム
IIS堺工場 生産管理部 水門生産管理グループ片岡 大
KATAOKA DAI
八ッ場ダム建設に必要な、
10の設備を一括受注。
プロジェクトの成り立ちと
それぞれの関わり
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西 川
八ッ場ダムの建設工事は、IHIインフラシステム/清水建設/鉄建建設の異工種JV(ジョイントベンチャー)で施工を行いました。IHIは機械設備の一式を担い、2020年6月に竣工を迎えました。6年超にわたるビッグプロジェクトのマネージメントおよび機械設備工事の監理技術者を私が担当しました。
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浅 野
八ッ場ダム建設の目的は、関東地方を貫く利根川流域において人々の生活に直結する「洪水から守る」「水不足を減らす」「川の流れを保つ」「電気をつくる」などの大切な役割を果たすことです。私の役割は設計のメイン窓口。5名の設計チームを束ね、個人としても「常用洪水吐設備」「水位維持用放流設備」「エレベータ設備」などの設計を手がけました。
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片 岡
私は工場の窓口を担当しました。現地の据付工程に合わせて多くの設備を出荷する必要があるため、製作工程管理から社内外の調整業務、お客さまからの問い合わせ対応や工場検査時のアテンドなどを行いました。工事の開始から竣工までの一連の業務に関わることで、これまで点で捉えていた仕事がひとつの線につながりました。
プロジェクトメンバーが
部門の垣根を越え、最善手を模索。
プロジェクトの中で、
印象深かった出来事
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浅 野
常用洪水吐設備放流管の据付が強く印象に残っています。八ッ場ダムでは工程短縮のため、堤体打設に影響を与えない一体引き込み工法を採用しました。対象物の重量が約400トンになる壮大な引き込み工事です。プロジェクトメンバーが部門の垣根を越えて意見を出し合った結果、作業性と安全性に優れた架設架台を設計することができました。
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片 岡
放流管や架設架台の製作は協力会社に依頼したのですが、あまりの大きさに一括での発注ができる会社がなかったためブロックごとの分割発注を行いました。通常は工場で仮組みしてから現場に送るのですが、全体での仮組みも不可能だったためブロックの取り合う部分だけを抜き出して仮組みを行い、設計に関しても現場で調整できる仕様にしていただきました。
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西 川
ダム上流に設置した仮設構台上に一体組立を行い、組立後に油圧ジャッキを使ってダム堤体上へ引き込みを行うダイナミックな作業。この工法は九州のダムで経験したことがありましたが、作業時のミスが大事故につながるため慎重に行いました。また、注目度が高く多くのギャラリーやメディアが見守っていたため「失敗できない」というプレッシャーがありましたね。
八ッ場ダムの存在が、
台風による下流域の河川決壊を防ぐ。
「八ッ場ダムの奇跡」と呼ばれた
台風19号のエピソード
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西 川
台風が土日に接近に際して、ライブカメラを見ながら宿舎にて待機していましたが、深夜に緊急放流に備えてダムに駆け付けました。幸いにも10月1日からダムの健全性を確認する試験湛水(しけんたんすい)を開始していたことで、ダム下流域の河川の決壊を防ぐことができました。
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浅 野
私は大阪からライブカメラの様子を見守っていました。試験湛水は3~4ヶ月かけてダムを満水にする計画だったのですが、1日で約54mもの水位上昇を記録し、一昼夜でほぼ満水になりました。予定していた試験湛水のスケジュールが大幅に前倒しになったため、その後の対応に追われたのをよく憶えています。
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片 岡
私も大阪で状況を見守っていました。台風の翌日、ダムに大量の流木が集まっている様子をニュースで見て、正直ゾッとしました。
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西 川
長きにわたってインフラの仕事に携わってきましたが、大量の流木やゴミが流れ着いた光景を目の当たりにしたことで、台風被害とダム建設による下流域の防災効果を改めて痛感しました。台風が過ぎ、ダムの様子を見にきた地元の方から「ダムの建設が間に合ったおかげで家が被害にあわずにすみました!」と伝えられた時には、この仕事に携わって本当に良かったと感じました。
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浅 野
設計の業務は、出図納期と格闘しながら日々忙しくしているのが現状ですが、そんな些細な日常業務が多くの人の命を救ったのかもしれないと思うと、改めて自分の仕事に誇りを持つことができました。
これからも、
ゲートメーカーのトップを
走り続ける。
プロジェクトの経験を
どのように活かすのか
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浅 野
IHIでは「現場」「現物」「現実」を確認する「3現主義」を大切にしているのですが、放流管をはじめとする八ッ場ダムの建設プロジェクトではその想いを実践する場となりました。関係者との打ち合わせと現地調査を頻繁に行うことで、設計の様々な課題を解決していきました。今回の経験で得た新しい技術や留意点を今後の工事にも積極的に反映させ、ゲートメーカーのトップを走り続けていきたいです。
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片 岡
入社した頃から地図に残るような大きなモノづくりに関われることに誇りを感じてきましたし、3人の子どもに「これがお父さんの仕事だよ!」と胸を張って言えることに喜びを感じています。台風19号で人々の暮らしを守る仕事であることも実感できました。八ッ場ダムの経験を今後の工事に活かし、与えられた役割をより深めていきたいです。
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西 川
ダム建設工事におけるIHIへの期待を、ひしひしと感じています。今後はダム再開発などの保全・防災・減災を目的とした事業の増加が予想されるため、これまでのように壊れた箇所を直すのではなく、事前保全などの新規事業を開拓して事業の拡大につなげて行く必要があります。また、ICTを活用したリモート環境での仕事の進め方の模索も重要ですし、海外案件の取り組みも積極的に進めています。水門では珍しいJV工事やプロジェクトで得た経験を若手に伝承し、今後の発展に貢献したいと思います。