地震の時、高層ビルはゆっくりと長く揺れます(長周期振動)。そのため、居住者に船酔い現象を引き起こし、恐怖感を与えます。高層ビルの制振(揺れを低減)では、この長周期振動への対策が大きな課題になっています。
現在、多くの高層ビルに設置されている制振装置は、センサで検出したビルの揺れに対して、ビルを揺らす力を打ち消すように錘(おもり/以後「可動マス」)を動かし、揺れを低減するアクティブ式です。しかし、これらの装置は、風揺れを抑制するためのもので、地震時には可動マスの動きが許容範囲を超えるため、大半は、比較的小さな揺れで装置が停止するように設計されています。実際、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、国内のアクティブ式制振装置の大半が停止したと言われています。
地震時の制振対策では、建物の各層間にオイルダンパを挿入する方法が採用されています。しかし、高層ビルでは長周期の揺れになるのに加えて、地震の継続時間が長くなった時には、オイルダンパは熱によって効果が劣化するとの懸念も指摘されています。
また、弾塑性(だんそせい)ダンパについては、建物が倒壊する可能性のある強い揺れを対象としたもので、居住性レベルで求められる性能が得られる保証はありません。
そこで、IHIが着目したのが、「フル・アクティブ式制振装置」に「振幅制御」を組み合わせた方式です。
実施例として、リニアモータ駆動型があります(下図)。通常の回転モータを用いたときに必要とされるボールねじ機構が不要になり、コンパクトになります。対応できる速度が大きくなり、可動マスの移動距離が増長しても対応できます。
装置の駆動には、振幅制御を用います。振幅制御では、ビルの揺れの大きさに応じて、制御の強さをリアルタイムに調節し、制振装置が許容ストロークの範囲内で高い能力を発揮するように可動マスを駆動します。しかも、本装置の制御部は、常に制振装置の作動状態を監視しており、万が一、制振装置が建物を揺らすような不測の事態が生じる場合には、速やかに装置を停止させるような機能も備えています。
このように、フル・アクティブ方式は構造がコンパクトなので、屋上の狭い空間にも装置を導入でき、地震対応にも有効です。2011年の東北地方太平洋沖地震での稼働記録によって、その有効性が実証されています(下図)。振幅制御との組み合わせによって、パッシブ式では成し得なかったことを高層ビルで実現でき、長周期振動への対策として大きな可能性を秘めています。
今後も増えていく高層ビルのさらなる安全・安心を実現するために、IHIは今日も、制振装置の高機能化に取り組んでいます。
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【フル・アクティブ式制振装置による高層ビルの地震対応】