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期待を裏切ったのに、期待してもらったから IHI代表取締役 副社長執行役員 土田剛
IHI代表取締役 副社長執行役員土田剛
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期待を裏切ったのに、期待してもらったから

本社の資材部にいた36歳頃に、事業部へ異動になって新任課長になったんです。その時の経験が私の仕事の原点ですかね。当時、IHIは祖業の造船をまだやっていて、日本の大手船会社さん2社から全部で11隻の注文を受けて、6人の部下と一緒に部品調達を任されたんです。予算が非常に厳しくて、ものすごく難しい調達目標が出されました。

船を造る時には、1隻で120〜130種類くらい買うものがあるんです。中で水をつくる装置、エンジンの油を供給する装置、人も生活しますからトイレもあれば、ギャレーというご飯を作るところも要るし、錨も買わなきゃいけない。錨を打ったり巻き上げたり、ロープを巻いたりする機械も要ります。買うものは1種類で1個ではなく、例えばモーターという種類では、数百個のモーターを買うこともあります。

それらを部下6人に分担させて、見積もり依頼や取引先との交渉をしてもらう前に、自分が担当する数十の品物の買い方と交渉のストーリーを全部書いてもらって、チーム全員で発表会をしました。そうすると、本人は良いと思っていても、事情を知らない人が聞くと、何でそうなるの?という疑問がたくさん出てくる。例えば、A、B、C社には見積もりを依頼したのに、何でD社にはしないのか?安くなるならD社でもいいんじゃないか、とか。中には、自分の仕事に自信を持っている年配の人もいますから、今までのやり方を変えるのには抵抗します。でも、厳しい調達目標を達成するためには、1つ1つを少しでも安く仕入れなければいけない。だから、徹底的に話し合ってやりました。

感じ悪いんですけど、積み上げ式のグラフを張り出しておいて、毎日、達成した額を報告してもらって、私が無言で書き足していく。その日、グラフが伸びなかった人は、それを横目で見ていて、翌日はものすごく頑張るんですね。目標を見える化したことで、当事者意識が高まったんです。

時代は昭和です。部下同士の机は向かい合わせで島になっていて、課長の机は部下の島と直角の位置関係になっている。偉そうな位置ですが、仕事はやりにくいと思ったので、机の配置をショットガンフォーメーションにすると宣言して、僕が真ん中に来て、周りに6人が座るようにした。直接指示ができるような距離に変えたんです。みんな嫌がりましたね(笑)いろんな本を読んで、とにかくいろんなことをやりました。

社内では、新たな手間を増やしたくない、これまでの取引先と仕事をしたい設計部を理詰めで説得したら、「仕入れ先を変更すると、お客様が納得しない」と反論されました。「じゃあ、私がお客様に説明してきます」と返して、某大手船会社へ交渉に行きました。調達の新任課長が発注主の部長の所へ交渉に行くなんて前代未聞でした。案の上、大変なお叱りを受けました。役員も出てきて「急に知らない会社を使ったら、我々のメンテナンスの手間が増えるだろう、それを考えてくれてるのか」と叱られました。確かに、私の見立ては甘かった。だから、そこは平に謝って、引きました。でもこっちは譲れませんとか言って、他のことは差し込んだりしたんです。

役員が怒ったのですから、周囲には大変な迷惑を掛けました。「役員を怒らせたら、今後の取引はどうなる!」と釘を刺されたりもしました。最初は相手にされなかった交渉ですが、根気強く、丁寧に説明しに行きました。それを続けていると、部下たちが「この人本気なんだ」って思ってくれたみたいで、チームの雰囲気が変わりました。私も、部下が自信を持っている案は何としても通すようにして、そういうことで部下との間に絆が生まれたように思います。そして、最終的には、全員が厳しい数値目標を達成できました。

なんとか最後までやり切れたのは、資材部にいた頃に、やらかした経験があったからなんです。事業部から任された仕事を、全部やらなくてもいいや、やっても無駄だろうと自分で勝手に判断して、会議で問い詰められた時に、いい加減な返答をしたら、ものすごく怒られたんです。なのに、その時の事業部の部長が、その後、私を調達の新任課長に抜擢してくれたんです。だから、その部長さんの期待に応えなくちゃいけないなとの思いがあったんです。

自分の判断を優先して、期待されている以外の方法を採るなら、自分から言わなきゃいけない。また、期待に応えるだけじゃダメそうな時にも、自分から先に伝えるっていうことを学べて、自分なりの仕事の作法を身につけられたんです。

さて、2年にわたる大きな調達プロジェクトが終わって、私は海外駐在に出ることになりました。その時、交渉の時に怒った発注主の役員さんが送別会を開いてくれたんです。「おまえ、生意気だったけど、よくやったな。アメリカでもしっかりやれ」と言葉をかけてもらいました。

誰かに期待されて、それに応えていくことで、仕事の実力がつきます。実力がつくと、信頼されるようになり、仕事を任せてもらえる。期待されるって、良いスパイラルの入口なんです。期待される有り難さに気づけた仕事でした。

入社当時の土田副社長執行役員 入社当時の土田副社長執行役員

Q.10年後のIHIグループは世の中でどんな存在であって欲しいですか?

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