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ゴールが消える無限ループの仕事 航空・宇宙・防衛事業領域長 佐藤篤
航空・宇宙・防衛事業領域長佐藤篤
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ゴールが消える無限ループの仕事

最も印象に残っている仕事を、どれか1つ選ぶのはなかなか難しいのですが、やっぱり、海上自衛隊さんで使われているP-1哨戒機のエンジン開発になりますね。30代前半から40代半ばまで、10年ちょっとやりましたから。

P-1は、最初の3~4年で設計と試作。初期は、設計でとても苦労しました。なかなかお客さんの要求に達することができなくて。「本当に、IHIに任せて大丈夫?」って、真剣に心配されることもありました。その度に上司と一緒に、お客さんのところに出向いては「大丈夫です」と、丁寧に説明してまわりました。信頼を挽回するのは簡単なことじゃないので、精神的にきつかったですね。

3年ほどで最初のエンジンができたものの、次の試験過程では、ほぼ毎回うまくいかない。安全・安心に関わることだから、お客さんの要求は膨大です。例えば、鳥を吸い込む、エンジン表面についた氷が剥がれて入る、水を大量に吸い込む、それでも大丈夫か。長時間運転の耐久性はあるか。ミサイルの排気ガスを吸い込んでも平気か・・・。いろんな試験をやる度に、新しい課題が出てきて頭を抱えてばかりでしたね。

実際にエンジンをつくり始めてからも、いろんな技術面でのトラブルが続きます。その都度、解決はするのですが、何度もその繰り返し。例えば、燃焼器のトラブルでは、異常燃焼して、部品に穴が空いて壊れたり、その後もベアリングが壊れたりしたこともありました。1回目のトラブルで完全に原因をつぶしきれなかったから、次のトラブルが起きるのです。

トラブル対応では、短期間で漏れなく要因を洗い出せるかどうかも技術力が問われます。それぞれの分野の専門家を巻き込んで、あらゆる可能性やストーリーを一緒に洗い出して、「これが原因か?」と一つ一つつぶしていくんです。それは、要因が一つだけじゃなくて、いろんなことが絡むからなんです。

試験も最終局面に入った、ある年のゴールデンウィーク中に、エンジンの試運転チームから電話があって、「壊れた!」と。見に行ったら、燃焼器がやられていて、穴が空いていたんです。すぐに対応しないといけないので、ゴールデンウィーク返上で、みんなで必死にやりました。

ある時には、翌朝までに故障の原因を報告しないといけない事態になって、内視鏡を使って壊れている箇所を確認するのに、夕方から8時間ぶっ通しでエンジン内部に潜り込んで観察。夜通し作業をして、朝の社内ミーティングの後、そのままお客さんのところへ駆けつけたこともありました。

そんなこんなで、なんとか開発が進んで、機体にエンジンをつけて飛行試験をする段階がきました。初飛行に呼んでもらって、ずっと苦労してきたエンジンが無事に空を飛ぶのを目にした時は、言葉にならない感覚が全身を包みました。長年の苦労が、やっと報われたみたいな。それが、一番心に残っている瞬間ですね。

ただ、飛行試験が始まってからも、楽にはならないんですよ。機体とのマッチングとか、メンテナンスの部分で、「もうちょっとこうなったら良い」という意見をもらうと、お客さんや機体メーカーさんと話しながら、ソフトの改良や整備性の向上を図ります。量産に入ってからも、使用中に新しい課題が出てくるので、改良はずっと続くんです。エンジン開発って、ほんとに終わりがないんですよね。これで完璧だと思っても、予期せぬトラブルが発生して、都度必死に解決して。そういうことを延々と繰り返していたので、「いったいいつ終わるのか?」って、不安に押し潰されそうになったこともありました。

開発も終盤に差し掛かると、材料が入ってこない問題が起きて、つくろうにもつくれない時期もありました。エンジン部品に使う超合金(チタンやニッケル合金)といった特殊な素材は、世界でも製造できるところが限られているので、国際情勢の影響で供給が滞ることがあります。その度に、休みを返上して、工場の皆さんと一緒にエンジン組み立てに立ち会い、納期を守るのに必死でした。現場の方々に頑張ってもらって、本当にありがたかったですね。

10年以上、大変な思い出もいっぱいしてきて、今、たくさんのP-1エンジンがちゃんと使われて空を飛んでいるのは、もう涙なしじゃ見られない(笑)。私のキャリアの中で、失敗への耐性がついて、素早く一つ一つの細事を行うことの重要性、そして苦難を共に乗り越えられる仲間の大切さを実感できた特別な仕事でした。

出張先のアメリカにて(入社3年目)

Q.10年後のIHIグループは世の中でどんな存在であって欲しいですか?

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