軽量・小型で世界最高レベル出力の電動ターボコンプレッサを開発
~空気軸受の独自開発により,航空機用燃料電池推進システムを実現~
IHIは,独自開発の空気浮上式ガス軸受電動モータ(※1)を搭載することで実現を可能とした世界最高レベルとなる出力(当社従来比3.5倍)の航空機など向け電動ターボコンプレッサを開発しました。
今回開発した電動ターボコンプレッサは,燃料電池に水素と反応させる圧縮空気を供給するためのもので,使用条件に合わせて2段圧縮方式と単段圧縮+エネルギー回収タービン方式の両方式があります。小型で大量の圧縮空気を供給できるのに加え,燃料電池から排出される水蒸気をコンプレッサの動力として活用することで100kWもの出力を得られることから,空気の薄い上空でも大量の圧縮空気を供給でき,燃料電池推進システムによる飛行の実現が可能となります。
また,燃料電池システム以外にも,飛行中の薄い外気を圧縮して客室空調へ供給しつつ,従来は外気に捨てている客室の圧縮空気からエネルギー回収ができる電動コンプレッサとしての応用が期待されています。
IHIでは,本コンプレッサが,①小型旅客機用の水素燃料電池推進システム,②機内使用電力用の燃料電池発電システム(ガスタービン発電機の代替として脱炭素化を実現),③現在運航している民間航空機の後継機となる200人乗り中型旅客機の空調の省エネ化などの実現を目的に搭載されることを想定しています。
今回の開発は,IHIが国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(理事長:斎藤 保,以下「NEDO」)の2020年度「航空機用先進システム実用化プロジェクト」の委託業務「次世代電動推進システム研究開発 電動ハイブリッドシステム」において実施したものです。
本開発においては,以下の取り組みにより電動ターボコンプレッサの大出力化と軽量・小型化を同時に実現させることに成功しています。
①ターボコンプレッサに搭載されるモータの超高速化と回転部分の徹底した軽量化,新開発の大容量空気浮上式ガス軸受の組み合わせにより,大型の永久磁石モータの回転子(ロータ)やコンプレッサの大出力羽根車(インペラー)を空気浮上させることで,超高速回転を可能としました。
②超高速回転による大出力化とモータの小径(小型)化のため,永久磁石モータのNS磁極の大幅な多極化で磁石の利用効率を最大化(※2)。
同時に,独自開発の高速インバーター(※3)により回転時に生じる発熱を押さえることに成功し,従来の技術では実現が難しかった発熱による磁石の利用効率低下の課題を解決しています。
IHIでは,引き続き航空機の電動化に向けた電動推進システムや航空機発電システムの水素転換にむけた開発に取り組み,2030年代の実用化を目指すとともに,航空機システム全体の電動化・最適化にも取り組んでいきます。
※1 空気浮上式電動モータ : モータが高速回転するときに周囲に発生する空気層を利用して回転体を自立浮上 させるIHI独自の技術(空気(ガス)軸受)を採用した電動式のモータ。
※2 永久磁石モータのNS磁極の大幅な多極化(小さいNS磁石を多数配列)を可能にする高密度磁石配列に基づく配置とすることで,磁石の利用効率を最大化している。
高密度磁石配列とは,ハルバッハ配列と呼ばれる永久磁石の特別な配置方法。
※3 独自開発の高速インバーター:70kWのモータの正弦波交流電力に対し,毎秒7万回以上の精密なデジタル制御を実現。モータ発熱の原因となる電流波形の歪を抑え,より理想的な滑らかな正弦波電流を供給する技術の適用することで開発に成功。