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脱炭素社会の鍵!
燃料アンモニアに期待される可能性や課題を解説

燃料アンモニアとは?

アンモニアエネルギー01

アンモニアは燃焼してもCO₂を排出しないカーボンフリー燃料です。
アンモニアは肥料などの原料として世界中で使われており、製造や輸送・貯蔵の技術も確立しているため、これまでのインフラを活用できるのが特徴です。

火力発電の燃料にアンモニアを使うことができれば、大幅にCO₂排出量を抑えることが可能です。アンモニアは、早期の実用化が見込まれる次世代エネルギーです。

燃料アンモニアへの期待

脱炭素社会実現に向け、世界各国がCO₂排出量の大幅削減を急ぐ中、燃焼時にCO₂を排出しないアンモニアは次世代エネルギーの有力候補と位置づけられています。
日本政府によるエネルギー基本計画で、2030年の電源構成のうち、1%程度を水素・アンモニアにすると掲げており、アンモニアの使用量は、現状の110万トン(肥料等での原料利用が主)から、2030年には300万トンの需要を目標として設けています。

アンモニアを燃料にするメリット

燃焼時にCO₂を排出しない

日本は、化石燃料による発電への依存度が高く、化石燃料は燃焼時にCO₂を排出しますが、アンモニアは炭素を含まないため、燃焼させてもCO₂が発生しません。そのため、石炭や石油、LNGの代わりの燃料としてアンモニアを利用することで、CO₂排出量を抑えることができます。

運搬・貯蔵がしやすい

アンモニアは水素よりも高い温度で液化できるため、運搬や貯蔵がしやすいという利点があります。例えば、大気圧下において、水素の液化には-253℃の極低温にする必要がある一方、アンモニアは-33℃で液化することができます。-33℃はプロパンガスと同じくらいの温度です。

既存インフラを活用できる

アンモニアは現在、肥料や化学製品の原料として世界中で流通しており、製造・貯蔵・輸送において、水素と比較して既存の設備などを流用しやすいという利点があります。

また、アンモニアを燃料とした発電は、発電所の既存の設備を改良(ボイラのバーナやガスタービンの燃焼器を交換)して使用することが可能です。

こうした転用性の高さは、コスト面の負担を抑えながら短期間での導入拡大を図ることができ、様々な企業や国からの注目を集める一つの要因となっています。

燃料アンモニアが抱える課題やデメリット

燃料アンモニアは、次世代エネルギーとして導入するにあたりメリットがある一方、燃焼時の窒素酸化物(NOx)の排出や製造過程でのCO₂排出などの課題があります。また大規模供給に対応できるインフラ(輸送・貯蔵機能)を整える必要もあります。 これらの課題をいかに克服するかが、アンモニアを燃料として普及するための重要なポイントです。

燃焼時のNOx排出の抑制技術

アンモニア燃焼時の懸念点としてあげられるのが、高温下で窒素と酸素が結合して発生する窒素酸化物(NOx)の存在です。

このNOxには、CO₂の300倍の温室効果を持つものや、光化学スモッグや酸性雨を引き起こす要因の一つとして知られているものがあり、環境や健康に対して影響を及ぼす点が問題視されています。

こうした課題に対処するため、NOxの発生を抑制しながら アンモニアを安定燃焼させる技術や、排ガスからNOxを低減する触媒技術の開発が進んでいます。

私たちIHIグループは、2024年4月のアンモニア燃焼実証実験で、燃料アンモニア転換前(従来燃料)と比較して、NOxを同等以下に抑えることに成功しました。 NOx排出の課題を解決し、 脱炭素社会の実現に向け、大きく前進する技術的成果が得られたといえます。

アンモニア製造過程でのCO₂排出を抑制する技術

アンモニアの原料となる水素を化石燃料から製造する場合、製造工程でCO₂が排出されます。そこで、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って作ったグリーン水素を原料として使った「グリーンアンモニア」が注目されています。

現在、太陽光発電や風力発電などさまざまな再生可能エネルギーの導入が進められていますが、時間により発電量が不安定なうえ、大規模にその電力を貯めておくことが難しいという問題があります。グリーンアンモニアを、再生可能エネルギーを使用して製造することで、再生可能エネルギーの余剰分を貯める役割を担うことができます。

IHIは、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を使いCO₂フリーのグリーンアンモニアを製造する装置の開発に成功しました。将来的な大型化・商用化に向けて研究開発を加速しています。

大規模な輸送・貯蔵の技術

アンモニアを燃料として広く利用するためにはアンモニアのサプライチェーンの確立が必要です。今後のアンモニアの用途拡大のためにも、受入・貯蔵のためのインフラは必要不可欠です。

そこでIHIは、これまで培ったアンモニア受入・貯蔵技術を拡充し、アンモニアを効率的に受け入れするインフラを、早期にかつ低コストで確立させるべく、大型アンモニア受入基地の開発を進めています。

燃料アンモニアの利用方法

燃料アンモニアは様々な分野のエネルギーとして利用可能と見込まれており、石炭火力やガスタービンなどの火力発電、船舶用燃料、工業炉などで実証が進行中です。

石炭火力発電での利用

石炭火力発電では、燃料アンモニアと石炭を一緒に燃やすことで、CO₂排出量を削減できます。 この際、大掛かりな設備改修は必要なく、既存設備の改修により燃料転換ができる利点があります。

たとえば、石炭の20%を燃料アンモニアに置き換えて一緒に燃やせば、発電用大型ボイラ一基で約100万トン/年のCO₂排出削減が見込まれます。仮に国内の大手電力会社の石炭火力発電全体で燃料の20%をアンモニアと転換するとするならば、約4000万トン/年のCO₂排出削減効果が試算されています。日本のCO₂総排出量は10億トン前後のため、約5%に近い分の排出を抑えることができます。

また、発電所内のボイラのバーナを交換することで既存の設備を活かせるのも利点です。将来的にはアンモニアだけを燃料として使用する発電設備の研究も進んでおり、火力発電の脱炭素化を加速する切り札として注目が集まっています。

IHIは、 火力発電所における燃料アンモニアへの転換実証試験をすすめています。20%の燃料転換は既に完了しており、本実証の結果を、国内外の火力発電所に展開していくことで、燃料アンモニアによるグローバルな脱炭素化に貢献します。

ガスタービン発電への応用

ガスタービン発電とアンモニア燃焼を組み合わせることで、CO₂排出を大幅に削減する取り組みが進んでいます。

高温高圧環境下での安定燃焼技術や NOxの低減が課題となりますが、 これらの技術的ハードルをクリアできれば、既存のガスタービン発電施設に燃料アンモニアを導入できる可能性も開け、脱炭素社会実現を加速する取り組みとなります。

IHIはガスタービン発電にアンモニアのみを燃料として使用する、CO₂フリー発電を世界で初めて実証しました。 オリジナルの燃焼器を開発し、アンモニアの安定燃焼と、NOxや燃え残ったアンモニアの排出低減の両立を目指しています。

さらなる耐久試験を実施し、今後大型ガスタービンへの応用や、実用化に向けた開発を続けていきます。

船舶用燃料としての可能性

国際海事機関(IMO)において、国際海運における「2050年頃までにGHG排出ゼロ」を目指す目標が合意されました。現在、船舶燃料は重油に大きく依存していますが、国際物流のカーボンニュートラル化に向けカーボンフリーな船舶燃料への転換などが求められます。
IHIグループは、これまで蓄積された技術を活用しアンモニア燃料エンジンを世界に先駆けて開発することに成功しました。このエンジンを搭載したタグボートは、3カ月の実証航海を経て、世界で初めて商用利用されています。航海中の温室効果ガス排出量を従来よりも大幅に削減することが可能となり、船のカーボンニュートラル化に貢献しています。

工業炉や高温プロセスでの活用

鉄鋼・セメントなどの産業は、熱エネルギーの使用や化学反応によるCO₂排出が多いため、アンモニアを燃料として導入すれば、従来燃料を置き換えて大幅な排出削減が可能になると考えられています。

IHIグループはナフサ分解炉用アンモニアバーナを開発し、既存燃料の約2割をアンモニアに切り替えて実証を行い安定燃焼可能であることと、 NOxを排出規制値以下まで低減できたことなどから環境性能においても問題がないことが確認できました。 今後この技術を他の工業炉などにも展開し、脱炭素化に貢献します。

まとめ

アンモニアは、燃焼時にCO₂を排出しないという特性があり、脱炭素社会の実現を支える重要な選択肢として脚光を浴びています。

既存インフラを活かせる利点や、水素にくらべ運搬がしやすい点などから、火力発電・船舶用燃料・工業炉など多岐にわたる利用が見込まれます。

NOx排出の低減、製造過程で発生するCO₂の制御、輸送・貯蔵の仕方、供給量や安全対策などの課題を乗り越えれば、アンモニアは脱炭素社会実現の大きな原動力となる可能性を秘めています。

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