前編に続き、熱処理と表面処理の技術、その可能性について、将来の社長が、熱・表面処理SBUの渕上主幹、IHI機械システム 設計統括部の河本次長にお話を伺いました。
将来の社長
時間を忘れて集中するのも大事だけど、適度な休憩を入れるのも大事ね。
お茶して頭がすっきりしたわ。
河本次長
それでは、全体熱処理の説明の続きをします。
加熱して溶かして冷やすことで金属の結晶構造を均質にする「⑨固溶化」「⑩溶体化」、硬さのむらがある素材を高温で焼いて急冷する「⑪焼きならし」があります。
将来の社長
「焼きならし」って言葉、面白いわね。
河本次長
例えるなら、岩が凸凹と出ている土地を、歩きやすいよう滑らかに整えるようなことです。
岩を焼いて砕き、それを均質な砂にして平らにならすと、引っかからずに前へ進めるようになりますね。
また、日本刀の刀身で説明した"ゆっくり冷やす"ことをさらに利用したのが「焼鈍」や「焼きならし(なまし)」です。
製鉄所から鉄が生まれて機械加工され、素材形状になるまでの間に成分の偏りが生じたり、歪みが入ったりすると、素材の硬さにムラができます。
ムラがあると、加工をする時に滑らかに加工できません。
そこで、ゆっくり冷やす「焼鈍」や「焼きならし(なまし)」を行い、均質かつ加工に適した硬さにならします。
将来の社長
まさに!焼いて、ならすから、焼きならしなのね!
熱処理って、本当にいろいろとあるのね。
IHIグループが得意とする熱処理は何かしら?
河本次長
ひとつは「⑥拡散接合」です。
これは薄い金属板同士を加熱しながらプレスすることで、一体化していく技術です。
金型や、プラントなどで利用される熱交換器など、複雑な内部構造を持つ部品の製造に使われています。
将来の社長
金属や材料を削ってつくるのが難しい部品も、拡散接合で何十層も積み重ねることでつくれるようになったということね?
河本次長
そうです。例えば、内部に複雑な冷却水路が必要な金型は、切削加工が難しく、拡散接合は新たな製造方法として注目されています。
将来の社長
製造というプロセスに新たな可能性をつくる技術なのね!
新しいこと、好き!
河本次長
そうです。IHIグループでは、拡散接合ができる装置を製造・販売しており、お客様からいろいろな相談やリクエストが寄せられます。
それらに応えるため、異種金属同士の接合や、金属とセラミックスの異種材料同士の接合なども検証して、そのノウハウを蓄積している最中です。
将来の社長
性質が異なる金属とセラミックスが引っ付くなんて、水と油が混ざるみたいね。
これまでになかった素材がつくれるなんて、可能性は無限大ね。
河本次長
そうですね。
もう1つの我々が得意とする熱処理は3,000度の高温で行う処理です。
一般的な熱処理の温度は,高くて1,000度から2,000度ぐらいです。
リチウムイオン電池の負極材料製造に使う黒鉛の場合は、3,000度程度の高温処理が必要です。
そして、高温処理された黒鉛は電気の通りが良くなり、電気自動車をはじめ、電池が使われる分野すべてに関係します。
蓄電池の質が高まるので、脱炭素にもつながります。
将来の社長
熱処理は、製造全体になくてはならない技術というのがよく分かったわ。
これからもどんどん進歩させてね!
河本次長
はい!
渕上主幹
では、ここからは、「表面処理」について説明します。
将来の社長
お待たせしたわね。どんな話がきけるのか、楽しみ!
渕上主幹
表面処理は、部品の表面に薄い膜をつくることで、滑りやすくしたり、摩耗しにくくしたり、腐食に強くしたりする特性を加えます。
また、人体にやさしい特性にすることもできます。
将来の社長
人体にやさしい特性って、どういうこと?
渕上主幹
金属を体内に入れた時に、拒絶反応やアレルギー反応が起きにくくすることです。
例えば、膝関節や歯のインプラントは長期間、体内にとどまるので、金属に敏感な人の場合、金属から体内に放出される金属イオンの影響で炎症や拒絶反応などが生じることがあります。
それを防ぐために、表面処理をして金属を薄い膜で覆います。
それにより金属イオンの放出を抑え、アレルギー反応が軽減されます。
将来の社長
金属アレルギーの人には朗報ね!
渕上主幹
このような表面処理は歯科工具や手術道具などの医療器具にも使われています。
また、薄い膜を施すことで、医療器具が摩耗しにくくなり、すぐに破損して捨てていた器具を洗浄して繰り返し使えるようになります。
長く使うことが可能になれば、器具の調達コストを下げられますし、環境にもやさしくなれます。
将来の社長
すごい、目から鱗よ!医療以外では、どんな場面で使われているの?
渕上主幹
工具や金型、自動車のエンジン部品をはじめ、半導体製造装置、航空機の部品などに使われています。
また、水栓金具や高級時計などの装飾用品でも利用されています。
将来の社長
わたしの好きな装飾用品!?
渕上主幹
そうです。これまでのメッキ塗装に代わり、多彩な色を表せるようにもなるので、新しいデザインが生まれます。
そして、素材と一体化する膜によって、摩耗にも強く、ぶつけた時の色剥がれなども減ります。
将来の社長
この前、ママがお気に入りのキッチンの蛇口に物をぶつけて、「メッキが剥がれちゃった...」としょげていたけれど、そういうことも減るのね?
渕上主幹
はい。長く使えるようになるので、環境にも優しい技術として注目されています。
将来の社長
使える色が増えて新しい装飾のデザインが次々と生まれるなんて、医療とは違った意味で、人を幸せにする技術ね!
渕上主幹
多彩な色をつくれるので、医療分野でも色による器具の識別に役立っています。
将来の社長
そういう色の使い方もあるのね!
色々な話を聞けたので、ここらへんで、Tea Timeを入れましょう!
〈後編に続く〉
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