中編に続き、表面処理の技術とその新たな用途について聴いた将来の社長が、熱・表面処理SBUの渕上主幹、IHI機械システム 設計統括部の河本次長と将来に向けて決意を新たにします。
将来の社長
リフレッシュしたわ!さぁ、再び、表面処理について教えてね。
渕上主幹
はい。IHIグループでは、表面処理は主に2つの方法で行われています。
1つは、物理蒸着法です。
真空の中で熱やプラズマを使って、コーティング材料を気体化、イオン化します。
そして、部品を回転させることで、気体やイオンをムラなく部品の表面に届かせて、薄い膜をつくっていきます。
将来の社長
綿菓子をつくるようなイメージ?くるくる回しながらつくっていくの?
渕上主幹
わかりやすい例えです!今度から使わせていただきます。
もう1つは、化学蒸着法です。
真空の中で材料ガスを加熱して活性化させて、部品の表面に薄い膜をつくっていきます。
将来の社長
うなぎの蒲焼をつくるのに似てるわね。
秘伝のタレに何度もくぐらせて、炭火でじっくり焼いて、表面にしっかりと味をつけていくみたいに?
渕上主幹
さすがです!その例えも使わせていただきます。
将来の社長
IHIグループが得意とする表面処理は何かしら?
渕上主幹
2つあって、1つは、「水素燃料電池や水電解装置への適用」です。
これらの主要部品であるセパレータなどの電極部品に対し、電気を流しやすくしたり、腐食しにくくしたりするための高品質コーティング技術を開発しています。
セパレータとは、燃料電池においては原料である水素や空気から電気を、また水電解装置では電気を使って水から水素と酸素をつくり出すために必須の部品であり、効率を左右する特に重要な部品です。
燃料電池はEVでは困難な長距離/重量輸送でのカーボンフリー動力源として、水電解は燃料電池が必要とするグリーン水素製造用の装置として期待されています。
将来の社長
あのね、急に社長みたいなことを訊くけど、それはビジネスになるの?
渕上主幹
はい。オランダにあるグループ会社のIHIハウザーテクノコーティング社では、次世代燃料電池セパレータ向けPVDコーティング装置を開発しました。
月に数十万枚の部品をコーティングするために、高速で成膜する『インライン式PVDコーティング装置』です。
ボックスが横一列に並び、レールに乗せた部品をその中に通すことで、コーティングされる仕組みです。
高速で、高精度なコーティングをすることが可能です。
水電解装置向けコーティング技術も、スイスに本社があるグループ会社のIHIイオンボンド社と共同開発中です。
将来の社長
世界中で稼げる技術なのね! 社長として、安心したわ。
使える技術をどんどん開発してちょうだいね!
渕上主幹
はい。技術は使ってもらって、なんぼですから。
我々が得意にしているもう1つは、「航空機向け複合材料への適用」です。
スイスにあるIHIベルネックス社は、繊維強化複合材料の製造で、繊維の中に材料をしっかり染み込ませる技術を持っています。
この技術により、飛行機の翼や胴体が軽くて頑丈になって、耐熱性も向上し、燃料効率の改善にも役立ちます。
将来の社長
IHIは国内だけでなく、世界中のいろいろな拠点でも技術開発に取り組んでいるのね。
熱処理も表面処理も、どちらも部品や製造方法を新しくするためになくてはならないものというのがよく分かったわ。
渕上主幹
私たちは、医療や装飾関連の事業を『ライフビジネス』と位置付け、成長分野として注力しています。
将来の社長
えっ、医療と装飾を一緒にしちゃうの?
渕上主幹
医療機器や装飾品は一見、異なるように見えますが、人々の快適な生活に密接に関係しているという共通課題があります。
表面に薄い膜を形成することで、体に優しく、耐久性の高い製品をつくることができます。
将来の社長
これまでになかった色のインテリアや時計、早く見てみたいわ!
そして、早く身につけたいわ!
渕上主幹
私たちは、医療も装飾も人々の暮らしを支える重要な分野だと考えています。
命に直結する分野だけでなく、心を豊かにする分野までを含め、『ライフビジネス』とすることで、皆様の暮らしに役に立つ技術と製品を生み出していきたいと思います。
将来の社長
人を幸せにする技術。夢があって、やり甲斐があるわね!
河本次長
はい。さらに、脱炭素の視点で見ると、熱処理や表面処理を通じて部品の耐久性や潤滑性を高めることは、製品や部品を長持ちさせ、交換部品の製造に使われるエネルギーを減らすことにもつながります。
その結果、製品のライフサイクル全体でのCO₂排出量削減ができます。
将来の社長
製品が生まれるところから役目を終えるまでのスパンで考えないと、間違えた選択をしてしまうわね。
河本次長
さすが将来の社長!先のことまで見ていらっしゃる。
将来の社長
近視眼的につくられたものは、きっと人も地球も幸せにはできないと思う。
渕上主幹
私たちも技術者として、気をつけないといけません。
私たちはこれから、水電解装置や燃料電池といった新しい分野でも、これまでの実績を活かし、産業のカーボンニュートラルを加速させていきます。
将来の社長
2050年のカーボンニュートラルな社会の実現まで、残り25年しかないわよ。
急ぎましょう!でも、しっかりと1歩ずつ!
渕上主幹 河本次長
はい!丁寧に、急ぎます!
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