IHIは、熱処理と表面処理の技術開発に力を入れています。この2つの技術は、医療や装飾関連のビジネスに新たな風を吹かせて、脱炭素社会にとっても欠かせないものです。
将来の社長が、熱・表面処理SBUの渕上主幹、IHI機械システム 設計統括部の河本次長にお話を伺いました。
渕上主幹 河本次長
将来の社長、よろしくお願いします!
将来の社長
よろしくね! 今回は2人なのね?
渕上主幹
「熱処理」と「表面処理」、2つの技術について、詳しく説明しますので、それぞれが担当します。
将来の社長
そうなのね。じゃあ、早速、聴かせて!
河本次長
はじめに、「熱処理」について説明します。
金属は高温に加熱してから冷却すると、金属組織が変化して、部材の強度や粘り強さが増します。
将来の社長
熱を加えたら、より強い金属になるってこと?
河本次長
そうです。熱処理した金属からつくる歯車などの部品は、摩耗も損傷もしにくくなります。
また、ドリルや金型などの工具では、寿命を延ばす効果もあります。
私たちの生活を支える機械のほとんどに利用されている、重要な技術です。
将来の社長
寿命が伸びるの?すごく良いじゃない!
熱処理って、どうやってやるの?
河本次長
例えば、高温の状態で、金属の表面に炭素や窒素などの非金属元素や、クロムやアルミニウムなどの金属元素を染み込ませ、硬度を高める方法があります。
表面と内部で染み込み具合に差が出るので、表面は硬く、中は柔らかいという性質が生まれます。どの元素を染み込ませるかで呼び名は異なり、炭素の時は①「浸炭(しんたん)」、窒素の時は「浸窒(しんちつ)」、クロムの時は「クロマイジング」、アルミニウムの時は「アルミナイジング」などと呼びます。
将来の社長
ご飯にタレをかけた時、上の方には多く染み込んで味が濃く、下に行くほど染み込まなくて薄くなるのと同じようなこと?
河本次長
さすがは将来の社長! 例えが絶妙です。
染み込み具合で味が変わるように、金属の場合はそれが性質として現れます。
他にも、窒素を染み込ませる方法として、「②窒化(ちっか)」があります。
これは、アンモニアが充満した高温の空間に部品を置くと、その表面に窒素化合物ができて、より強くなるというものです。
将来の社長
誰がそんなことに気づいたの?
河本次長
誰なんでしょうか...名もなき技術者でしょうか。
将来の社長
この世界は、名もなき人の仕事の集まりで、できているのね!
河本次長
本当に、そうだと思います。
他にも、材料や部品を温めて力を加えながら形を整えることで、特殊合金部品や半導体用セラミックス部品といった新しくて特殊な部品をつくり出す「ホットプレス」など、IHIグループには多彩な技術があります。
将来の社長
ホットプレスって、ヘアアイロンみたいなもの?
熱と押さえる力で自分の好きな髪型にするように、熱と圧で金属の形を整えていくの?
河本次長
分かりやすい例えですね! ホットプレスは、材料の特性や形状を変化させる処理「熱プロセス」の1種です。
将来の社長
他にはどんなものがあるの?
河本次長
接合する金属よりも低い温度で溶けるロウ剤を使い、金属をくっつける「③ロウ付け」、粉末状の材料を高温で加熱して固体にする「④焼結(しょうけつ)」やセラミックスなどの無機材料を固める「⑤焼成(しょうせい)」などがあります。
高温状態でプレスして、素材同士をくっつける「⑥拡散接合」という方法もあります。
河本次長
ここまで紹介した熱処理は、「熱プロセス」「金属熱処理」の大きく2つに分けられます。先ほど説明した表面熱処理は「金属熱処理」の1つです。金属熱処理には他にも「全体熱処理」と呼ばれる方法があります。
将来の社長
「熱処理」という漢字3文字の先には、こんなにたくさんの技術が隠れていたのね。
奥が深い世界ね。
河本次長
全体熱処理には、高温に加熱した後に急冷して硬さや強さを出す「⑦焼入れ」、高温に加熱して、ゆっくり冷やす「⑧焼鈍(しょうどん)」があります。
将来の社長
ゆっくり冷やすのは、なぜ?
河本次長
例えば、日本刀は硬い刃の部分を焼入れしています。
しかし、硬くした刃は、激しくぶつかった時にポキリと折れやすくなります。
焼入れ時に刀身の部分を粘土で覆うなどしてゆっくり冷やすと、刀身はあまり硬くなりません。
激しくぶつかった時にも、しなやかに曲って折れにくい刀になります。
将来の社長
人間と一緒ね。自分の意思を押し通して突破する強さもあり、相手の意見も受け入れて柔軟に対応できる人が、本当に強い人だもんね。
河本次長
深い!
将来の社長、おいくつなのですか?
将来の社長
レディーに訊くこと?わたし、子どもだから、ここまでの説明を理解するのだけで必死よ。ここらで、ちょっとTea Breakしない?
河本次長
はい。私もノドが渇いたところでした。
<中編に続く>
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