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特集「価値創造に向けたDXの挑戦」発刊によせて

常務執行役員 高度情報マネジメント統括本部長  小宮義則

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昨今,デジタルトランスフォーメーション (DX) は全ての企業にとって必須のものとなりました.ここ数年,デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルが,GAFAM (Google,Amazon,Facebook,Apple,Microsoft) のようなBtoCの世界のみならず,BtoBの世界にも現れています.今後,我が国の製造業において,どれだけビジネスや業務プロセスをデジタル技術の活用により変革できるかは,今後の生き残りの帰趨を決めるといっても過言ではありません.

IHIは,2020年に公表した「プロジェクト Change」において,ライフサイクルビジネスやインフラに係るバリューチェーン・サービスへの取り組みを宣言しました.これらはデジタル技術を使って,これまでのモノ売りからコト売りへと自身の変革を進め,顧客や社会の課題を踏まえて新ビジネスを創造することであり,DXそのものといえます.例えば,コト売りの具体化として,デジタル技術を用いて, (単なる部品売りではない) ライフサイクルビジネスを展開することやリードタイムの (カイゼンではなく) 劇的な短縮により顧客価値を創造することを進めています.また,新ビジネス創造の具体化のため,デジタル技術を駆使したカーボンソリューションや保全防災減災などを検討しています.

一方,IHIを含め我が国の製造業において,いまだDXに対する理解が十分ではない人もいるかもしれません.それは,DXという言葉を聞いたときに,「デジタル技術」に目が行き過ぎて,肝心の「トランスフォーメーション = 変革・改革」への理解と準備が不足しているからではないでしょうか.

我が国の製造業は,これまで「ものづくり」にこだわってきました.これが我が国の高度成長に寄与したことは紛れもない事実ですが,デジタル化が高度に進んだこれからの時代において,顧客価値を創造し社会課題の解決を進めるためには,これまでの「ものづくり」の考え方や仕組みだけでは不十分です.今後は,ものづくりに特有な「積み上げ思考」から顧客価値と社会課題を起点にした「デザイン思考・システム思考」への転換が必要であるのは言うまでもありません.そのためには,我が国の製造業に特有の組織のサイロ構造を超えて,自分の属する組織を超えてタテ/ヨコに広くデータを共有し,全員が同じデータを見て,組織一体となって課題に「突撃」していくことが必要です.

今回の技報は,IHIにおけるDXに係る技術に焦点を当てています.しかし,これらの技術を使いこなすためには,上述のように企業全体がトランスフォーメーションすることが必要で,企業文化や従業員一人ひとりの発想と行動様式も変えていくことが不可欠でしょう.読者の皆さま方におかれましては,単にそれぞれの技術の紹介として捉えるのではなく,IHIが取り組み始めたトランスフォーメーションのコンテクストの下で読んでいただくことを願ってやみません.