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固定層蓄熱システムの評価技術の開発

  石川温士,橋場道太郎,和田大輔,劉 志宏,鬼塚久和

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石川  温士  技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換グループ 主査 博士(工学)
橋場 道太郎  技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換グループ
和田  大輔  技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換グループ
劉   志宏  技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換グループ 主査 博士(工学)
鬼塚  久和  技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換グループ 主査

カーボンニュートラルの実現に向けて,再生可能エネルギー由来のグリーン電力の普及に加えて,化石燃料に依存している熱利用プロセスの脱炭素化が重要である.熱利用プロセスの脱炭素化に向けて,短期的なアプローチとしては機器の省エネ化を推進すること,中長期的なアプローチとしてはCO2を排出しない燃料に切り替える燃料転換や,プロセスの電化とグリーン電力の利用などが挙げられる.IHIでは,省エネ化促進に対する取組みとして,熱機器からの高温排ガスの熱を回収,貯蔵(蓄熱)して,熱利用するシステムの評価技術を開発した.蓄熱材は砕石や鋼球といった高温熱を貯蔵可能な材料を用いて要素実験を実施した後,実際に稼働する発電設備の排ガスによる実証試験を行い,システムの有効性を確認した.

To realize carbon neutrality, it is important to decarbonize heat utilization processes that currently depend on fossil fuels, in addition to spread of green power derived from renewable energy. A short-term approach to decarbonize heat utilization processes is to promote energy-saving equipment, while a medium- to long-term approach is to switch fuels that do not emit CO2, electrify processes, and use green power. As an effort to promote energy-saving, IHI has developed an evaluation technology for a system that recovers and stores the heat of high-temperature exhaust gas from a power plant and utilizes it. After conducting basic experiments using materials that can store high-temperature heat, such as crushed stones and steel balls, IHI conducted demonstration tests using exhaust gas from power generation equipment that was actually in operation, and confirmed the effectiveness of the system.


1. 緒言

社会的背景として,世界的にカーボンニュートラルの実現への取組みが進められるなか,化石燃料から再生可能エネルギー (以下,再エネ) へ,エネルギー源のシフトが加速している.日本では,政府が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し,資源エネルギー庁が中心となり2021年6月にグリーン成長戦略を策定した.

カーボンニュートラルの主力電源となる再エネ電源 (太陽光発電,風力発電) は,大規模・大量生産によって発電コストの低下が著しいが,地域特性に依存し,発電量や発電時間の変動が大きいという欠点をもつ.そのため,再エネ電源を活用するには,出力を一定にさせる必要がある.こうした再エネ電源の活用には,エネルギー貯蔵装置が有効だが,カーボンニュートラルの実現に必要な要素でありながら,さまざまな要因から普及が進んでいない.

一方で,カーボンニュートラルの実現には,電力のグリーン化とともに,既存設備の省エネによるCO2排出量の削減が求められる.特に,工業炉やボイラなどの化石燃料を消費する設備に対しては,CO2排出量の削減が強く要請されている.こうした設備のCO2排出量を削減するには,設備から排出された熱エネルギーを利用する方法がある.しかし,このような熱エネルギーは,さまざまな場面で有効に使えるにもかかわらず,無駄に捨てられている.その理由として,排熱源と熱利用先の熱量,温度,熱を送受するタイミングなどを一致させることに加えて,現実的な投資回収年数となる設備費用を導入可能な価格に抑えることの困難さが大きな障壁となっている.

これらの障壁を低くする技術として,蓄熱技術への期待が高まっている.そのうえ,日本における省エネやグリーン電力の活用の促進に関する政策や,世界的なカーボンプライシング (気候変動の主因である炭素に価格を付け,排出者の行動を変容させる政策手法) の広まりといった,カーボンニュートラル実現に向けた動きは,排熱利用の設備導入の経済的なハードルを下げる効果があるといえる.

一般的に実用化または研究開発されている蓄熱システムには,温度帯や用途によって,水 (冷水,温水,熱水) ,熱媒油,溶融塩,相変化蓄熱材,化学蓄熱材,砂,岩石,コンクリートなどさまざまな蓄熱材が用いられている.本研究では,短期的なアプローチである省エネ化促進に対する取組みとして,工業炉やボイラ・発電機などから排出される高温熱を回収し,必要なときに,必要な場所で熱利用できる固定層蓄熱システムを開発した.高温熱を対象にするため,蓄熱材には,高温でも安定して使用できる固体を選定した.固体の蓄熱システムとしては,固定層や流動層,移動層といった方式が用いられる.本研究ではシステムの設備・運転費用を抑えるため,蓄熱槽に可動部がなく,耐久性やメンテナンス性に優れる固定層の方式を採用した.固定層とは,固体と流体を接触させるため,固体粒子を容器に充填した層のうち,特に静止した固体粒子層を示す.

まず,蓄熱システムのコンセプトについて説明する.システムの構成要素は第1図に示すように,システムの上流側から熱源とのインタフェース,熱交換器,ブロワ,蓄熱槽があり,下流側に熱交換器と熱利用先とのインタフェースがある.作動状態は,ChargeモードとDischargeモードの二つがある.Chargeモードでは,熱源からの排ガスの熱を,熱源側の熱交換器で回収し,回収した熱を蓄熱槽に貯蔵 (蓄熱) する.一方,Dischargeモードでは,蓄熱槽に空気を供給し,熱を取り出して,ユーザ側の熱交換器を介して熱利用する.

第1図 蓄熱システムのコンセプト
Fig. 1 Concept of thermal energy storage system

2. 実験的アプローチ

2.1 実験装置

固定層蓄熱装置の性能評価技術を構築するため,要素実験を実施した.主な評価項目は,蓄熱材と空気の熱伝達特性,蓄熱装置の放熱ロスなどである.

実験装置の概要図と写真を第2図および第3図に,仕様を第1表に示す.実験装置の流路構成要素としては,蓄熱槽の上流に,空気ブロワ,流量計,電気ヒータ (熱源に相当) ,下流に熱交換器,排気ダクトがある.蓄熱槽は,槽内に充填した蓄熱材の周囲に,空気が均一に流れるようにするため,底部に分散板を配置している.また,蓄熱槽の外表面は,断熱材で覆った.Chargeモードでは,電気ヒータを使って加熱した空気を蓄熱槽に流して,蓄熱材に蓄熱する.Dischargeモードでは,電気ヒータを使わず常温空気を蓄熱槽に供給し,高温の蓄熱材から熱を奪い,熱交換器を用いて熱利用する.

第2図 固定層蓄熱装置の概要図
Fig. 2 Schematic diagram of packed bed thermal energy storage system
第3図 固定層蓄熱装置 (写真)
Fig. 3 Picture of packed bed thermal energy storage system
第1表 固定層蓄熱装置の仕様
Table 1 Specifications of packed bed thermal energy storage system

Table 1 Specifications of packed bed thermal energy storage system

要素実験に使用した蓄熱材を第2表に,実験条件を第3表に示す.蓄熱材としては,熱容量が大きく均一な形状の鋼球と,鋼球と比べて熱容量が小さく,不均一形状で表面積が大きな砕石を用いた.これらはともに安価で入手性が良く,経済性の面からも適している.温度計測は,入口と出口の空気温度に加えて,蓄熱槽の固定層内の主流方向に3断面 (上流,中流,下流) ,半径方向に3点 (槽中心,中間,槽壁近傍) の計9か所に熱電対を挿入して計測した.

なお,圧力損失について,分散板には中島の式(1)を,充填層にはErgunの式(2)を用いて,装置を設計した.

第2表 蓄熱材
Table 2 Thermal energy storage media
第3表 実験条件
Table 3 Experimental conditions

2.2 複数蓄熱材の実験結果

入口の空気と蓄熱槽内 (9か所) における温度履歴を第4図に示す.いずれの図においても,入口空気温度の変化に続いて,上流側の3点が温度変化し,続いて中流の3点,最後に下流の3点の温度が変化している.実験で得られた結果を以下に示す.

  • Charge/Dischargeモードの温度経時変化は上下を反転したような曲線になっている.
  • 鋼球と砕石を比較すると,鋼球の熱容量が大きいことから,熱応答は遅くなっている.
  • 砕石4号と砕石6号を比較すると,砕石6号の方が温度の立上りおよび立下りが急しゅんになっており,蓄熱槽内の高温側と低温側に挟まれた,温度勾配が生じる領域 (サーモクライン) が狭くなっている.

砕石の熱応答が早い理由としては,球形の鋼球よりも凹凸のある砕石の方が蓄熱材の表面積が大きくなる.さらに,砕石表面の凹凸は,周囲空気の乱れによる伝熱促進効果が考えられる.そのため,同一の熱量に対して蓄熱槽のサイズを小さくするには,鋼球が適している.一方で,応答性が求められる運用方法については,砕石が適している.

サーモクラインが狭くなっている理由としては,砕石6号の粒子径が小さいことが起因する以下の2要因が考えられる.

  • 総伝熱面積が大きく,サーモクライン上流の伝熱が促進 (十分に熱交換) される.
  • 単位長さ当たりの粒子と粒子の接触回数が増加し,熱抵抗が大きくなることで,蓄熱材全体の見かけの熱伝導率が小さくなる.その結果,固定層内の熱拡散が抑制されて,主流方向の狭い範囲で急しゅんな温度変化が生じたものと考えられる.
第4図 温度履歴
Fig. 4 Temperature history of experimental results

固定層蓄熱槽の性能を評価するうえでは,サーモクラインの幅が重要になる.第5図-(a)に蓄熱槽の温度分布と-(b)にChargeモードでの温度履歴のイメージを示す.サーモクラインの幅が狭い状態が形成されると,Chargeモード終盤において,蓄熱槽下流の蓄熱材が高温になるまで出口空気温度は上昇しない.その結果,排気に持ち去られる熱量が少なくなり,蓄熱性能は良くなる.一方,サーモクラインの幅が広い状態では,蓄熱槽下流の蓄熱材が高温になる前に出口空気温度が上昇し,排気に持ち去られる熱量が生じることから,蓄熱性能は悪くなる.なお,第5図-(b)において,サーモクラインの幅はCharge/Discharge前後の遷移時間として現れる.つまり急しゅんな温度履歴であるほど,サーモクラインの幅が狭いことになる.

なお,(2) の影響によって,上流・中流・下流の各温度計測断面でのばらつきが大きくなる傾向も見て取れる.そのため,蓄熱槽を設計する際には,良好なサーモクラインを形成するとともに,半径方向 (主流に垂直方向) の温度分布についても,分散板や外部放熱を考慮して蓄熱槽内の温度分布を予測する必要がある.

第5図 固定層蓄熱槽のサーモクラインのイメージ
Fig. 5 Image of thermocline of packed bed thermal energy storage tank

3. 解析的アプローチ

3.1 熱解析モデル

固定層蓄熱装置の性能を予測・評価するために,要素実験と並行して熱解析モデルを構築した.熱解析は,熱回路網法の汎用ツールを使用した.第6図および第7図に熱解析モデルの概要図を示す.空気と蓄熱材の熱伝達率は,充填層に用いられる熱伝達率のRans-Marshallの式(3)を基に,今回の実験結果を反映して補正した値を用いた.補正係数は,熱伝達率と表面積の積に乗じる倍数であり,鋼球に対しては1.0を,砕石については3.0を用いた.砕石の補正係数には,砕石の表面凹凸に起因する伝熱面積の増加と,空気の乱れの増大による熱伝達率の増加の双方の影響が含まれている.なお,砕石の平均粒子径は,第8図に示すように砕石の投影図を撮影し,画像解析によって個々の投影面積を求め,統計学的に十分なサンプル数となる400以上のデータを取得して,その平均値から求めた.その結果,次の実測値を得た.

  • 砕石4号の平均粒子径:φ26.6~28.2 mm
  • 砕石6号の平均粒子径:φ9.48~10.6 mm

蓄熱槽内に充填した蓄熱材の半径方向と高さ方向の見かけの熱伝導率は,八木・国井の式(4)を使用した.半径方向の有効熱伝導率は,充填層の流体が静止した状態での値である.一方,高さ方向の有効熱伝導率は,充填層の流体が流動する状態での値であり,半径方向の有効熱伝導率よりも大きな値となる.

第6図 熱解析モデル (蓄熱槽内)
Fig. 6 Thermal flow network model of thermal storage tank
第7図 熱解析モデルの構成要素
Fig. 7 Components of thermal flow network model
第8図 砕石の投影写真 (計測例)
Fig. 8 Picture of crushed stones

3.2 実験と熱解析の比較検証

蓄熱槽の出口空気温度の履歴について,実験と解析の比較結果を第9図に示す.Charge/Dischargeモードともに定性的に一致している.次に,蓄熱槽の出口空気温度が,槽内の温度履歴を総合的に評価する値と捉え,定量的に評価した.第10図に示すように,Charge/Dischargeモードの前後で温度が99%変化する時間幅を基準時間として,この区間の温度差 (絶対値) の平均値を評価した.今回の実験条件の範囲では,第11図に示すとおり,約150~220℃の静定温度差に対して,実験と解析の平均温度差はおおむね5%以内であり,十分な精度で予測できることが確認された.

第9図 蓄熱槽出口空気温度の履歴についての実験と解析の比較結果
Fig. 9 Comparison results of air temperature history at thermal storage tank outlet between experiments and calculations
第10図 実験結果と解析結果の蓄熱槽出口空気の平均温度差
Fig. 10 Average temperature difference of air at thermal storage tank outlet between experimental results and calculated results
第11図 実験結果と解析結果の比較による予測精度の評価
Fig. 11 Evaluation of prediction accuracy by comparing experimental results and calculated results

4. 実証試験

実際に稼働する発電設備 (株式会社IHI原動機製4 MWガスエンジン,IHI横浜事業所内(5)) の排ガスを利用した蓄熱システムの実証試験を実施した.第12図に試験設備の詳細を,第4表に排ガス試験の仕様を示す.2章に示す実験装置の熱源を電気ヒータから排ガスの熱源に切り替えるため,排熱回収用の熱交換器,ダクト,ブロワを追加した.蓄熱材は,熱容量の大きさと作業性の観点から鋼球を採用した.

第12図 試験設備の詳細
Fig. 12 Details of test facility
第4表 ガスエンジンの排ガス試験の仕様
Table 4 Specifications of actual flue gas demonstration of thermal energy storage

実証試験の結果を第13図に示す.第13図-(a)から,排熱回収用の熱交換器では,排ガス入口温度は約300℃,出口温度は180℃になっている.一方の空気は,常温から180℃に昇温している.熱交換器で昇温した空気によって,蓄熱材が130℃程度まで上昇した.第13図-(b)では,常温空気の流入によって,蓄熱槽上流から順に温度低下している.

第13図 排ガス蓄熱試験結果
Fig. 13 Result of thermal energy storage test

本実証試験の装置設計では,前述の要素実験および熱解析モデルの開発により構築した評価技術を用いた.本実証試験によって,高温の排ガスから熱を回収し,貯蔵し,利用する一連のプロセスを設計どおりに運転できることを確認した.この結果から,固定層蓄熱システムの評価技術の有効性を確認した.

5. 結言

要素実験および熱解析モデルの開発によって,固定層蓄熱システムの評価技術を構築した.そして,構築した評価技術を用いて,実際の発電設備の排ガスを利用した実証試験の装置を設計し,実証試験を行い,想定どおりの性能を得られた.これにより,固定層蓄熱システムの評価技術の有効性を確認したことから,さまざまな場面で需要が高まっている排熱利用による省エネ対策に対し,適切な固定層蓄熱システムの設計に寄与できる状態になった.現在,熱源と熱利用先の要求仕様を満たす蓄熱システムを提案するため,第14図に示すイメージのツールを開発している.今後,当該ツールを活用して,スケールアップの装置仕様を検討するとともに,コスト試算も実施する.また,お客さまの省エネ化促進の一つのオプションとして,蓄熱システムの導入を検討いただくための提案活動に活かすことも検討している.

第14図 提案イメージ図
Fig. 14 Proposal material image of thermal energy storage system

本結果をもって,今後IHIグループとして,蓄熱を必要とするお客さまへの技術コンサルタントに活用することで,省エネ化の促進と脱炭素化社会の実現に貢献する.

参考文献

  • 堀尾正靭・森 滋勝:流動層ハンドブック,日本粉体工業技術協会編,培風館,1999年3月,p.
  • 堀尾正靭・森 滋勝:流動層ハンドブック,日本粉体工業技術協会編,培風館,1999年3月,p.
  • 堀尾正靭・森 滋勝:流動層ハンドブック,日本粉体工業技術協会編,培風館,1999年3月,p.
  • 日本機械学会:伝熱工学資料改訂第5版,丸善出版,2009年5月,pp. 185-
  • 黒岩隆典,安里権也,安藤和則,松山良満:高効率型火花点火方式リーンバーンガスエンジン28AGSを用いたCO2削減に向けたコージェネレーション発電プラント,IHI技報,Vol. 61,No. 2,2021年6月,pp. 50-57