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ガス軸受で電動ターボ機械の軽量化を実現 油なしで高負荷,低圧などさまざまな条件で使用可能なガス軸受

株式会社IHI   

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油潤滑軸受では油を循環させる設備が必要となるが,ガス軸受はこれらの設備を必要としない.そのため,ガス軸受を使用することで,航空機や燃料電池自動車に搭載する電動ターボ機械の大幅な軽量化が可能である.IHIは高負荷・低圧など,さまざまな条件でも使用できるガス軸受を開発し,輸送機器のカーボンニュートラル実現に貢献する.

多種多様なIHI製ガス軸受と適用製品

ターボ製品の電動化への対応

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,輸送機器向けターボ機械の電動化が進んでいる.通常のターボ機械では回転軸を支持するために油を用いた軸受が使われる.しかし,油を循環させるポンプ・配管・タンクなどによりシステムが重くなることが問題であった.航空機や燃料電池自動車など,輸送機器の燃費向上のために電動ターボ機械の軽量化は大きな課題といえる.

IHIでは,空気などの気体で回転軸を支持するガス軸受 (スラスト軸受・ラジアル軸受) の開発に取り組んでいる.ガス軸受は油を一切必要とせず,油循環の機器が不要なため,ターボ機械の大幅な軽量化を実現できる.これまで,輸送機器の電動化に対応して,燃料電池システム向け電動ターボチャージャーや空冷システム向け高速電動ブロワなど,ガス軸受を適用した電動ターボ機械の開発を進めてきた.今後,輸送機器の電動化の進展に伴い,トラックなどの大型商用車や航空機の主要機器など,大きな出力が求められる適用先が想定される.

ガス軸受の特徴

ガス軸受の原理について説明する.ガス軸受はエアホッケーやホバークラフトと同じように,空気によって支持対象を浮上させる.エアホッケーはパックの底面に台の小穴から空気を送り込み,パックを浮上させて非接触・低摩擦な状態を実現している.ガス軸受も同様に回転軸との間に空気膜を形成するが,回転軸の回転により自ら空気を引き込んで空気膜を形成する動圧式であり,外部から空気を供給するポンプなどを必要としない.そのため,ガス軸受を用いることでシステムの重量を大幅に軽減できる.

一方で,ガス軸受は大きな荷重を支えることを苦手としている.一般的に軸受は流体の粘度が高い方が潤滑膜を維持しやすいが,ガス軸受では油と比較して粘度が1/1 000程度の空気を用いる.そのため,大きな荷重が掛かると空気の潤滑膜を維持できず,回転軸と軸受の接触を避けることができない.大出力の電動ターボ機械では回転軸が重く,作動圧力が高くなるため,ガス軸受にも高い耐荷重性が求められる.今後,大出力かつ軽量な電動ターボ機械を実現するために,ガス軸受の荷重支持能力の向上に取り組んでいる.

大出力モータへの対応に向けた取り組み

ガス軸受には空気膜を維持できる限界の荷重 (負荷容量) があり,電動ターボ機械の運用時にはその負荷容量を超える大きな荷重が瞬間的に掛かる可能性がある.大出力モータへの対応を考慮して以下の取り組みを実施した.

電動ターボ機械のモータは毎分数万回転の高速条件で運転しており,それに対応するガス軸受が搭載されている.市販の計測器では,高速回転させながら任意の負荷を与えて支持可能な荷重や損失を計測することは難しい.そこでまず,これらの性能を評価するための装置を開発した.本装置には軸の挙動を制御するための機構として磁気軸受が採用されている.磁気軸受は電磁石による吸引力を制御し,回転軸を非接触で支持する.この磁気軸受の制御によって,高速回転する軸を介して,ガス軸受に任意の時間や大きさの荷重を与えることが可能な仕様とした.この装置を用いて,ガス軸受が空気膜を維持できる限界の荷重 (負荷容量) を確認した.あわせて,空気膜の厚さや圧力分布を予測するツールを開発し,さらに大きな荷重を支持可能な軸受仕様に改良を行った.その結果,単位面積当たりで支えられる荷重は,一般的なガス軸受では140 kPa程度が限界といわれているが,本軸受は400 kPaの負荷容量を有することを確認した.

輸送機器向けの電動ターボ機械では,据え置き型の機械と異なり,輸送機器の急加速や外部からの衝撃などで瞬間的に大きな振動が発生する.そうすると,軸受には瞬間的に負荷容量を超える荷重が掛かる可能性がある.そこで,本装置により負荷容量を大きく超える荷重を瞬間的に与え,意図的に回転軸と軸受を接触させる試験を行った.その際,ガス軸受の焼き付きを防止し耐久性を向上させるため,耐熱性や耐摩耗性に優れる樹脂コーティングを採用した.試験の結果,数十ms程度の瞬間的な接触であれば,周速250 m/sで面圧800 kPaの過酷な条件下でも軸受が損傷しないことを確認し,輸送機器で生じる振動に対して高い耐性を有することが分かった.

軸受評価装置 (スラスト軸受評価形態)

カーボンニュートラル実現に貢献

このほかにも,さまざまな環境におけるガス軸受の設計技術の構築に取り組んでいる.その取り組みの一つとして,低空気圧条件での性能評価が可能な体制を整備し,評価に着手した.すでに,航空機の巡航高度に相当する0.2気圧程度において回転軸が支持可能なことを実証した.また,水分混入や凍結状態などといった要素に対する影響の評価も進めている.このようにさまざまな環境における設計技術を獲得することで,ガス軸受の適用により軽量化した電動ターボ機械を展開し,輸送機器の燃費改善によるカーボンニュートラルの実現に広く貢献していく.

本取り組みの一部は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の委託業務にて実施したものである.