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EFBペレットの地産地消でサステナブル発電 バイオマス燃料の地産地消発電サイクル確立への第一歩 マレーシアでEFBペレット製造・石炭火力発電利用

株式会社IHI   

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パーム搾油工場から排出されるパームヤシ空果房 (EFB) は,ほとんど有効利用されず,パーム農園に放置され,腐敗によりメタンを大気中に放出している.これをペレット化し,マレーシアの石炭火力発電所で初めて混焼実証を行い,バイオマス燃料の地産地消発電サイクル確立への第一歩を踏み出した.

IHI Power System Malaysia Sdn. Bhd.
IHI Transport Engineering Malaysia Sdn. Bhd.
IHI Solid Biomass Malaysia Sdn. Bhd.

EFBペレット地産地消発電サイクル

EFBのペレット燃料化と利用

パームオイルは,パーム果実から,搾油工場にて蒸解と圧搾のプロセスにより生産される.このプロセスから排出される副産物は,主にパームヤシ殻 (Palm Kernel Shell:PKS) とパームヤシ空果房 (Empty Fruits Bunch:EFB) がある.生産されるパームオイル量に対して,重量比でPKSは30%程度,EFBは100%程度が排出される.つまり,生産されるパームオイルと同じ量のEFBが副産物として排出されている.PKSは含有水分量が少なく重量当たりの発熱量も高いことから,バイオマス燃料として利用が進んでいる.一方で,EFBは含有水分量が多く,繊維状でかさ比重が小さいため輸送効率も悪く,ほとんど利用されていない.IHIグループでは,2004年ごろより,この大量排出されるEFBに着目し,燃料として利用する方法を研究してきた.EFBが搾油工場でどのように排出されるかなどの現地調査を行うとともに,それぞれの搾油工場から石炭火力発電所までの輸送方法や取り扱いのしやすさ,また,粉砕や燃焼といった利用方法を,その形状と性状に主眼を置いて比較してきた.そのうえで,最終的にペレット化を選択し,さらに灰分の低減化のために洗浄する工程を組み込んだプロセスを構築した.このプロセスを用いて,2018年にIHI Solid Biomass Malaysia Sdn. Bhd. (ISBM) を設立して,EFBペレットの商用生産を開始した.

EFBペレット生産は,EFB受入,破砕,洗浄,乾燥,細断,造粒の工程で構成している.EFBには,ナトリウムやカリウムといったアルカリ成分が多く含まれており,特にカリウムは,燃料燃焼過程で酸化され,低温で溶融する酸化カリウムとなる.これは,ボイラ伝熱面 (蒸発管,過熱器,再熱器など) に付着し,伝熱障害を引き起こすことが知られている.そこで,主にカリウム量に着目して洗浄試験を重ねて洗浄条件を検討し,生産設備の設計基準を決定した.

一方,利用側である石炭との混焼技術については,EFBペレット化研究と並行して,IHI保有の燃焼試験設備で,粉砕と燃焼の特性確認を行ってきた.粉砕に関しては,数パーセント以下の低混焼率であれば,問題なく粉砕できることを確認した.燃焼に関しては,未洗浄のEFBでは,溶融した灰が炉壁に付着,流下することを実際に確認した.

こうして,パームオイル生産が盛んなマレーシアでのEFBペレットの生産,マレーシア国内の石炭火力発電所での利用という地産地消サイクル確立の見通しを得るために実証試験を行った.

EFBペレット生産プロセス

Kapar石炭火力発電所

EFBペレット混焼実証試験は,マレーシアのKapar Energy Ventures Sdn. Bhd. (KEV) の3号機 (KEV-3) で2022年7月に実施した.KEV-3は,1988年に運転を開始した300 MWの発電設備で,ボイラをIHIが供給している.石炭,天然ガス,重油をそれぞれ燃料とすることが可能な三元燃料発電設備であるが,燃料費の安さから石炭で運用されることがほとんどである.

石炭火力発電所は,蒸気タービンと発電機の系統およびボイラ系統で構成される.今回のEFBペレット混焼実証試験では,燃料を石炭から石炭+EFBペレットに変更するため,ボイラ系統の監視が必要である.KEV-3のボイラは対向燃焼方式を採用し,全5台のミルと20本のバーナー (缶前12本,缶後8本) を装備している.通常時のミル運転台数は4台で,1台は予備ミルとなっている.混焼実証試験中は,ボイラ・ミルとも調整は行わず,現状設定での状態比較を行った.

KEV-3 全景
石炭火力発電所の設備構成例

EFBペレット混焼実証試験

今回の混焼実証試験は,試験統括・評価をIHI Power System Malaysia Sdn. Bhd. (IPSM) ,EFBペレット生産をIHI Solid Biomass Malaysia Sdn. Bhd. (ISBM) ,EFBペレット供給設備をIHI Transport Engineering Malaysia Sdn. Bhd. (ITEM) が担当した.2022年7月21日から27日に行い,仮設のEFBペレットバンカーおよびフィーダーを設置し,EFBペレットは,フレキシブルコンテナバッグを移動式クレーンで吊り上げて,EFBペレットバンカーに投入した.投炭コンベヤーの送炭量は300 t/h程度であり,混焼目標とする1 cal.%を実現するために,4.5 t/hのEFBペレット供給量を目標とした.実際の混焼率は,投炭時の総投炭量と総EFBペレット量から算出し,1.4 cal.%となった.また,EFBペレットは水分に弱いため (吸水すると形状が崩れる) ,フレキシブルコンテナバッグ置き場には仮設の建屋を設置し,雨水を防いだ.

石炭バンカーへの投炭は2回/日行っており,混焼時は,この投炭時のコンベヤー上の石炭に,EFBペレットを供給することで目標の混焼率を得た.1週間の混焼実証試験では,EFBペレットバンカー上方は開放,投炭コンベヤーへのEFBペレット投入部も開放としたため,粉じんの発生が多かった.商用運用では吸じん装置などの粉じん対策が必要である.

混焼実証試験中の石炭およびEFBペレットの代表的な性状を比較した結果,EFBペレットの窒素 (N) 分,硫黄 (S) 分,灰分が石炭に比べて少なく,窒素酸化物 (NOx) ,硫黄酸化物 (SOx) ,灰量の低減が期待できる.混焼実証試験期間中の石炭は,銘柄同一の瀝青炭であったが,7月25日以降は船便番号が異なる石炭を使用している.

燃料性状

ボイラ状態

混焼実証試験期間中は,マレーシアの電力需要に合わせて,ボイラ負荷を300 MWまたは160 MWに設定し運用した.その期間は,マレーシア全体での電力需要が低く,低負荷での運転が長くなった.それぞれの負荷において,EFBペレットが入っていない専焼時と,EFBペレットが含まれる混焼時節炭器 (ECO) 出口ガス温度,煙突部でのNO2濃度およびSO2濃度を比較した.火炉を含む伝熱面に灰が付着すると,ボイラ火炉や後流の対流伝熱部の収熱量が低下し,ECO出口ガス温度が上昇するため,EFBペレット混焼による影響の有無判断ができる.

EFBは石炭に比べてN分やS分が少ないため,計算上はNO2,SO2ともにEFBペレット混焼で低減するが,実際にはEFBペレット混焼の有無でのボイラ状態トレンドの変化はみられず,燃料性状の変動に隠れた形となった.2022年7月25日に同一銘柄であるが石炭船便の変更があり,SO2は同日以降,徐々に増加している.160 MW条件でのECO出口ガス温度についても,ごくわずかの上昇の後,7月26日以降,一定となり,変動が認められない.石炭は同一銘柄であっても,採炭時期によって性状が変化するため,その影響が現れた形となった.

主蒸気温度・主蒸気圧力は,EFBペレットの混焼実証試験期間中をとおして安定しており,影響がないことを確認した.

ボイラ状態トレンド

ミル状態

石炭とEFBペレットを同時にミルに投入し,そのまま粉砕するため,EFBペレットの影響が直接的に現れると予想され,ミル差圧とミルモーター電流の増加を想定していた.EFBは繊維状のため,石炭に比べて粉砕性が良くなく,ミル内部での循環量が増えることでミル差圧の増大を招く.また,この粉砕性は,粉砕動力の増加につながり,ミルモーター電流の増大に現れる.ミル内部部品の摩耗状態などがミルごとに異なるため,ミル差圧とミルモーター電流の静定値に差異があるものの,実際にはEFBペレットの有無によるミル状態トレンドの変化は,ボイラのトレンド同様にみられなかった.これは,300 MWおよび160 MW状態ともに,粉砕能力に余裕があるものと判断でき,混焼率をさらに増大できることを示唆している.

ミル状態トレンド

まとめと今後

今回のEFBペレット混焼実証には,KEVオーナーはもちろん,マレーシアエネルギー省や環境省の視察もあり,注目度の高さがうかがえた.マレーシアは世界第2位のパームオイルの生産国であり,これは,EFBの排出量も世界第2位であることを意味し,EFBペレット生産のポテンシャルが大きい.混焼実証試験では,マレーシア国内のEFBを利用した地産地消発電プロセスの確立ができた.今後は,引き続きIPSM,ISBM,ITEMが協力して,次の二つの目標に向かって対応を加速させる.

①EFBペレットの生産量拡大
②バイオマス発電のインセンティブ制度確立

②については,政府関係機関にて行う内容であるが,例えば日本の事例などを紹介しつつ,関係機関に働きかけていく.