キャッシュフロー管理を改善する建設工事の管理手法
WBS導入による原価・工程・入金データの連携とBIM/CIMへの展開でお客さまとの情報共有も実現
株式会社IHI
これまでプロジェクト( PJ )の原価管理に使用されてきた管理体系では,お客さまとの契約書にある設計数量( Bill of Quantity:BOQ )や工事工程の情報と連携できないため,キャッシュフロー ( CF )の効率的な管理に限界があった.そこで,IHIグループでは,WBS ( Work Breakdown Structure )の導入を検討し,CF管理の改善を図ろうとしている.PJの構成要素を細分化することで,原価・工程・入金のデータ連携が可能となり,さらに,お客さまが求めるBIM/CIM ( Building Information Modeling /Construction Information Modeling )への展開にも対応できるため,情報共有も容易になると期待できる.
独自のWBS
IHIグループでは,課題の多かったプロジェクト( PJ )のキャッシュフロー( CF )管理の改善を目指し,従来の管理体系(分番)に替わり,プラント建設業界では広く認知された管理手法であるWBS ( Work Breakdown Structure )の導入を検討してきた.これは,PJ全体を工事対象物であるモノと,それに対する作業であるコト,およびその作業で使用されるコスト要素(リソース)を明確に区別する仕組みで,モノおよびコトは階層的に構成要素(管理単位)へ細分化できる.各管理単位には個別のIDが割り振られ,同一のID(またはID群)を参照することで同一作業と認識し,PJ管理の各フェーズ(原価・工程・入金)間のデータ連携を可能にしている.WBSの体系としては,数多くの団体または委員会が種々多様な提案を行っているが,そのいずれもモノの階層構造がコストデータの構築やBIM/CIM ( Building Information Modeling/Construction Information Modeling )連携しづらいほか,コトの階層が積み上げ積算やデータ管理(特に事業主が直接雇用する直傭(ちょくよう)工事作業分)には適さず,独自の体系整備が必要であった.
IHIグループで考えるWBS体系では,一部の団体が提案するモノに対するPWBS ( Product WBS )とコトに対するFWBS ( Function WBS )での組み立ては維持しつつ,PWBSおよびFWBSのいずれも積み上げ積算単位かつ工程管理単位までモノとコトを細分化している.これにより,設計数量( Bill of Quantity:BOQ )からのブレークダウンとしてWBSを作成,管理することで工程,原価それぞれの管理を適切なメッシュで行うことが可能になる.さらに,ブレークダウンの階層を合わせる(工事管理フェーズ間の目線を合わせる)ことで,損益計算書( PL )の適切な管理および原価・工程・入金間のデータ連携による適切なCF管理が実現する.
工事の各作業( PWBS + FWBS )で使用されるLabor,Permanent Material,Temporary Material,Equipment,Consumableなどのコスト要素( Cost Element )が各WBSの構成要素として二次元マトリクスに展開され,見積もり(原価)を構築する.各Cost Elementはさらに,工程変動によりコスト変動が伴うものと,そうでないものを仕分ける目的で細分化している.例えばEquipmentであればProcured EquipmentやRental Equipmentおよび使用後の処分に使用するSalvageなどに分けられている.
一方,コトにひも付く間接費についてはFWBS内の項目として定義しており,項目別にIDが割り振られている.一例としては,現場事務所について,設営費としてのContractor Office_Fixedが,運営費としてのContractor Office_Runningを規定している.ネットワーク工程とのデータ連携により,前者は一時期に集中して,後者は工程に分配する形で適切に期別展開がなされる.
WBS割り振りシステム
本WBS体系は複雑であるため,IDの誤用のリスクがある.そこでIDの誤用回避と見積システムおよび原価管理システムとのスムーズなデータ連携の目的で,WBS自動割り振りシステムを株式会社アルファシステムズの協力を得て新たに開発した.本システムでは,担当者が入札案件のBOQからPWBSでのモノの詳細ブレークダウンと,FWBSでのそのモノに対するコトの詳細ブレークダウンを行う.次にシステムが独自に整理したコードブックに照らし合わせて,該当コードを自動的に付与する仕組みとなっている.運用時には担当者間で言葉の揺らぎ(表現の相違)が想定される.そのため,使用された用語とコードブック内表現の不一致がある場合には,都度本システムが提案する候補リストから担当者が選択指示をすることでシステムが学習し,以降の同一の揺らぎにはシステムが対処する機能も付与している.
見積・原価管理システムおよびCF管理
- (1)見積・原価管理システム
- PJ管理では世界中でさまざまなシステムが使用されている.数年にわたる調査・検討の結果,見積・工程・原価管理間のデータ連携とIHIグループの行う原価管理手法の実現という観点から,米国のContruent社(旧ARES社)のContruent Enterprise(旧PRISM)というシステムを選定し,導入を進めている.同システムでは,まず見積ソフト(英国のNomitech社製のCostOS)にて積み上げ積算を行い,データ連携にて原価管理ソフトへコスト情報としてデータ移行する.原価管理は,IHIグループで使用している会計システムから原価の実績データを毎月取り込みながら行われる.また,EVM ( Earned Value Management )機能も実装しており,数量進捗およびコスト実績に基づく的確な将来予測により,確実性を高めた原価管理が可能である.WBS単位で蓄積されたデータは見積ソフトにデータベースとしてフィードバックされ,実効性のある見積データとして新規PJの入札に有効活用される.
- (2)CF管理
- 原価管理ソフトに渡されたコストデータはCostファイルとしてMicrosoft Project(米国Microsoft社製)やPrimavera P6(米国Oracle社製)などのネットワーク工程管理システムとデータ連携される.各作業の順序や依存関係を工程管理システムの中で可視化しながら,該当コストが期別に適切に展開される.今回の取り組みでは,入金についても別のPriceファイルを作成し,元請け契約に従った入金条件の登録や契約変更も同システムで管理することにした.これにより,Priceファイルで元請け契約条件が,Costファイルで下請け契約条件がそれぞれ異なるものとして適切に設定される.それぞれのファイルを工程管理システムとデータ連携し,適切に期別展開された入金・出金のデータをつなぎ合わせることで,正しいCF管理が可能となる.
- (3)変更管理および契約管理
- 契約上のイベント(条件変更)に伴う原価変動について,IHIグループでは対策未了として管理している.同管理では,PJの進捗に伴う各イベントのステータス変更により,原価管理上の取り扱い(予算に組み込むか否か)を変えていく.Contruent Enterpriseにあらかじめ実装された機能でも,同様の原価管理方法を維持できることや変更履歴が適切に残されることを確認している.
一方,契約管理について,従来手法では契約交渉で求められる証跡の収集はマニュアル作業になっていた.そのため,情報の取りこぼしや,論拠が乏しくなるケースが見られ,お客さまの納得感を得ることに難点があった.それに対して,Contruent Enterpriseでは,契約イベントのステータスおよび関連する原価・プライスの変動が連動されており,ステータス変更とコスト変動は時間情報とともに記録される.したがって,契約交渉時に求められる資料も説得力ある形でまとめることが容易となり,お客さまに納得いただきながら交渉を進めることが可能となる.
- (4)PJ横断の原価改善
- 本WBS体系では,PJによらず同じモノに対する同じコト(例えば,橋梁鋼桁工事での添接板の高力ボルト締付作業)には同一のWBS IDが割り当てられる.これによりPJ横断で該当原価のApple to Appleの比較(同一目線での比較)が可能となる.PJの作業ごとの原価悪化が早期に発見できるほか,とあるPJの原価改善対策が数値として顕在化され,他のPJの原価改善のヒントとして展開することが可能となる.
BIM/CIMへの展開
WBS管理は,データ連携によるCF管理やデータベースの構築など,これまで抱えてきたさまざまな課題の解決策として大いに期待できる.また,さまざまなお客さまが使用される多種多様なWBS体系に対応可能なようにモノの細分化を行っているため,BIM/CIMで求められる構成部材単位でのコトデータの集積が可能である.これにより,3Dモデルでの設計・製作・施工作業の可視化に加え,工程・コスト管理の効率化を目指したBIM/CIM 5Dの実現につながるほか,引き渡し後のお客さまによる維持管理のための情報として有効活用していただくことができる.
現状抱えているCF管理上の課題や,時代の変化に応じたお客さまニーズへの対応として,今回提案するPJ管理手法の深化は,より大きなメリットをもたらすものであり,今後ますます重要となる.