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EV船へ向けたZペラⓇ 電気推進システムの開発 舶用推進装置の電気推進化および再生可能エネルギーの活用を目指して

株式会社IHI原動機   

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舶用推進装置において,脱炭素化へ向けて電気推進システムの開発,再生可能エネルギーを活用したシステムの構築が進められている.システムインテグレータとしてのIHI原動機の取り組みを紹介する.

はじめに

船舶分野における脱炭素化への取り組みとして,IMO (国際海事機関) では,2050年までに2008年対比でGHG (温室効果ガス) 排出量を50%削減することが合意採択された.

脱炭素化へ向け,内燃機関において水素やアンモニアなど多燃料化の開発が進んでいるなか,市場では脱炭素化意識の高まりにより,電動化のニーズが強まり,さらに近年のバッテリー価格低減が後押ししている.また,バッテリーへの給電源として,再生可能エネルギー (再エネ) を利用すれば,完全な脱炭素化が可能となる.

株式会社IHI原動機でも,電気推進システムの実現および再エネの活用に向けて,各機器,システムの開発を進めている.その取り組み状況を紹介する.

Zペラ®の電動化対応

IHI原動機のZペラ

IHI原動機の主力製品として,主にタグボート向けに納入している全旋回式推進装置 (アジマスプロペラ) 商標登録Zペラがある.
タグボートは,港湾を管理する全長30 m程度の小型船で,全長数百 mもあるような大型船の港への離着岸をアシストするため押し引きし,時には沖合まで航路をエスコートする.そのため,タグボートには機敏な動きと大出力が求められ,それを可能にするのがZペラである.
Zペラは,機敏な操船を可能にするため,プロペラの推力方向を360度全方向に自由に変えられる構造をもつ,通常の舵かじを必要としない推進装置である.プロペラの周囲には,コルトノズルと呼ばれる翼断面をもつノズルが配置され,高い推力を発生させる.

電動モータ搭載Zペラ

市場要求の高まっている電動化に対応すべく,電動モータを搭載したZペラを開発した.従来の内燃機関直結式における上部ギヤボックスに替えて,推進用電動モータを立形に搭載した.
推進用電動モータには,回転子に永久磁石を用いたモータ (PMモータ) を採用した.従来電動モータの主流であった誘導モータと比較して効率が高く,サイズは小さい.PMモータを立形に搭載することで,上部ギヤボックスが省かれ,機械ロスを低減し,従来の内燃機関直結式と比べて高効率な推進装置を実現した.
電気推進化により,従来の内燃機関直結式で必要であった長い中間軸や上部ギヤボックスが不要となり,それに付随する潤滑装置・配管なども省くことができる.機器構成がシンプルになり省スペース化できるだけでなく,配管工事,軸の芯出し作業などが不要となるため,工数の削減も見込める.

電気旋回システム

推進システムの電動化に併せて,旋回システムも電動化を実現した.従来は,油圧ポンプと油圧モータによる油圧旋回方式であったが,これを汎用の誘導モータとインバータに置き換え,油圧旋回方式に比べて小型化,高効率化を実現した.
油圧旋回方式では油圧機器および配管類が複雑に配置されているのに対して,電気旋回方式では必要機器がインバータとモータのみとなり,シンプルな構成となる.推進システムの電動化同様に,配管施工の工数削減が見込める.
さらに,制御ロジックも油圧システムより簡素である.油圧旋回方式では,油圧ポンプとバルブ類を制御する複雑なロジックが必要であるのに対して,電気旋回方式ではインバータによる電動モータ制御のみとなる.インバータとモータは汎用機器を用いているが,電気であるため,油圧と比べて圧倒的に応答性が良く,制御調整が容易であることが特長である.

電動化システムインテグレーション

推進システムインテグレータとして

電動モータ駆動ハイブリッドシステム

内燃機関駆動ハイブリッドシステムは,内燃機関が中間軸を介してプロペラに直結しているため,内燃機関の特性により,ある負荷領域以上になると効率が高い.これは電動モータ駆動と比較して,大きなメリットとなる.対して,中間軸があることにより,機器配置に制約が生じてしまうデメリットがある.
この中間軸を廃止し,船内配置の自由度を向上できるのが,電動モータ駆動ハイブリッドシステムである.また,電動モータ駆動の特長として,モータと船内の電源に多様な機器が接続可能で,船主の要望に応じたカスタマイズが容易な点が挙げられる.従来は電源の集合配電盤はAC (交流) であったのに対して,現在主流となりつつあるDC (直流) の集合配電盤を採用しており,発電機,バッテリー,燃料電池など,将来可能性のあるさまざまな電源を容易にハイブリッドさせることが可能となる.
また,船種や稼働形態・要望に基づき,機器の出力バランスを柔軟に変更することもできる.タグボートを例にすると,稼働時間の長短,負荷の高低によって,主発電機の出力・台数,バッテリーの容量を最適化することができる.

(1) ハイブリッドシステムの運用
IHI原動機では,Zペラを搭載したタグボートの稼働データを分析し,推進システムの開発にフィードバックしている.分析結果によれば,1回当たりの稼働の多くは短時間で,そのほとんどを低負荷が占め,高負荷となるのは作業時のごくわずかな時間に過ぎない.
低負荷運転かつバッテリーに余力があるときは,バッテリーのみで駆動することで,船からのGHG排出ゼロを実現する (ゼロエミッションモード) .
低負荷運転かつバッテリーに余力がないときは,発電機を駆動してバッテリーを充電する.このとき,発電機の運転台数,運転条件を最適化することで,効率の高い状態を維持することができる (低負荷モード) .
負荷が高い作業時などは発電機を運転し,かつバッテリーからも充放電をして必要な電力を供給する (高負荷モード) .
このように,ハイブリッドシステムを採用することによって,各負荷パターンに適した,効率的な稼働を実現することができる.

(2) バッテリーおよび電気機器のタグボート船内配置
現在流通する多くのバッテリーは,性能を最大限引き出すことと寿命を考慮し,温度を25℃以下とする必要がある.現状冷却方式の主流は空冷であり,バッテリー専用ルームを設けてエアコンにより冷却することとなる.
電気機器は配置自由度が高く,船内配置に制約が少ないため,船体形状の最適化を図ることもできる.電気推進システムの採用によって,推進システムのみならず,船舶全システムをとおしての高効率化が可能となる.

港湾の再エネ利用とオール電動化

タグボートはその運用形態上,全バッテリー化が適した船種であるといえる.しかし,コストの面でみると,現在のレベルでは全バッテリー化は高価であり,現実的とはいえない.バッテリー技術のさらなる進化をもって,初めて実現可能になると考える.
バッテリーへの給電方法としては,帰港した際に陸上設備からまかなうのが一般的だが,ここで太陽光発電や風力発電といった再エネを活用することができれば,脱炭素化を進めることができる.
また,陸上の再エネ設備だけでなく,洋上に設置された風力発電や潮流発電,さらには太陽光発電設備を搭載した船からの給電が可能となれば,充電のために帰港することなく,作業と作業の合間の余剰時間を利用して充電することも可能となる.

全電動モータ駆動型ハイブリッドシステム運用想定図

現在さまざまなバッテリーを搭載した船が建造されつつあるが,バッテリーの充電切れを嫌い過剰な容量を搭載している.そこで,IoT技術を駆使し,給電・稼働の管理を適切に行うことで,稼働効率を高めることができる.過剰にバッテリーを搭載する必要がなくなり,価格メリットに反映されれば,バッテリー船の普及への後押しとなる.その先には港湾のオール電動化が可能となる.

全バッテリータグボート機器配置例

まとめ

電気推進システムを構成する機器の技術は年々開発が進み,採用例は着々と増えてきている.より一層の低価格化,高効率化が進むことで,電気推進システムが一般的となる日は確実に近づいている.
電動化が広まる背景には,環境負荷低減に関する規制や世間の声の高まりがある.それらに応えていくためには,我々システムインテグレータが常に市場をリードして,新たな技術を提案し続けていく必要がある.
全バッテリー船をいち早く実現し,さらにその電源としてグリーン水素,グリーンアンモニアを燃料とした発電システムや再エネを用いることで,真のゼロエミッションが実現可能になる.Zペラを中心とした電気推進システムによって,脱炭素化を大きく前進させていきたい.

問い合わせ先

株式会社IHI原動機
技術センター ZP開発部
電話 (0276) 31-8112

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