再生部品を利用した車両用ターボのリマニュファクチャリング 資源の再利用と品質信頼性を両立するリマニターボチャージャ

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株式会社IHIターボサービス 　　

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近年，社会全体における環境意識の高まりやSDGsによる持続可能な社会を実現するための取組みが活発化している．このような社会やお客さまのニーズに応えるために株式会社IHIターボサービスが提供するリマニターボチャージャを紹介する．

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IHIターボサービス

株式会社IHIターボサービス (ITSJ) は，アフターマーケット向け車両用過給機の製造，販売に特化する会社として2014年4月に設立された (設立当時社名：株式会社クローバーターボ，2021年4月に現社名に変更) ．世界的なリユース，リサイクルの機運の高まりを受けて，自動車部品のリマニュファクチャリング (中古品の再生，以下，リマニ) 市場が拡大してゆくなかでの会社設立であり，同市場への積極的参入を図るため，リマニターボチャージャの製造・販売を事業の柱の一つと位置付けた．ITSJはIHIグループで唯一リマニターボチャージャの製造・販売を行う企業であり，IHIのライフサイクルビジネスの拡大とSDGs達成に向けての活動に貢献している．

ITSJ本社はIHI横浜事業所内にあり，同事業所内に製造と倉庫・出荷機能をもつ横浜サービスセンターを有しており，IHIの車両過給機事業の一端を担う者としてより高い付加価値を提供すべく体制を整えている．

アフターマーケットとは

アフターマーケットとは，消費者が製品を購入した後に発生する種々のサービスの総称である．自動車メーカー以外の企業が提供するサービスや製品で形成される市場がアフターマーケットとして広く認知されている．

自動車のアフターマーケットは二つに分類することができる．一つは，消費者が自動車を維持するうえで必要となる製品やサービスを提供する補修市場，もう一つは，自動車の性能向上やドレスアップを楽しむ消費者に対し，製品やサービスを提供するカスタマイズ市場である．前者は景気による影響が少なく比較的安定した市場だが，消費者のニーズが低価格傾向にあるため，価格が重要視される市場である．後者は趣味嗜好しこう品のため景気による影響は大きいが，消費者は高品質や高性能な製品を求める傾向にあるため，付加価値やブランドが重要視される市場である．

ITSJでは，このどちらの市場に対しても製品を提供している．補修市場においては，新品で提供する製品と中古品を再生して提供する製品がある．後者の製品のことを再生品やリビルド品，リマニュファクチャード品 (以下，リマニ品) などと呼び，自動車・産業機器業界においては古くから存在する．一方，カスタマイズ市場においては，スポーツタイプの乗用車を所有，維持していく愛好家を対象にIHIの設計・製造技術を流用したハイパフォーマンスターボチャージャ (主に大風量化ターボ) を提供している．

アフターマーケットの展望

世界中で急加速するカーボンニュートラルの流れのなかで，自動車業界は非常に大きな転換点に立たされている．各国の主要な自動車メーカーが2030年以降の完全電動化を目指しており，その流れはさらに加速していくと考えられている．一方で，電動化においてはまだまだ解決すべき課題も多く，特にトラックやバスなどの大型商用車においては，航続距離を確保するためのバッテリーの大容量化や充電時間の短縮化など，実用的な普及に至るまでにはさまざまな技術革新が必要な状況である．

そのなかで，ディーゼルエンジンとターボチャージャの組み合わせは，環境と性能の両立から当面必要不可欠な技術とされており，乗用車の電動化が進み始めても，商用車においては引き続き高い需要が見込まれる．また先にも述べたアフターマーケットは，消費者が製品を購入した後に発生する市場であり，特に自動車の補修市場は，車両の購入からおよそ8年後にその機会が発生するとされている．そのため徐々に電動化が進むなかでも，アフターマーケットにおけるターボチャージャの需要は当面継続すると考えられる．

リマニ事業について

リマニ品は，故障して取り外された中古品を回収して修理・再生を行い，補修市場において再び消費者に販売するサイクルを繰り返している．新品と比較すると性能や耐久性はやや劣るものの，一般的に価格は5～7割程度に抑えられるため，修理費用を低く抑えたい消費者のニーズにもマッチし，低価格傾向にある市場において成長を続けている．また近年では，社会全体における環境意識の高まりやSDGsによる持続可能な社会を実現するための取組みもリマニ品の成長を後押ししている．

一方で，需要の拡大とともに多くの事業者が参入し，なかには粗悪なリマニ品を安価に販売する事業者も存在する．粗悪なリマニ品を装着した車両が，故障で走行不能に陥るケースも多く，市場全体の課題にもなっている．高品質でリーズナブルなリマニターボチャージャが広く求められるのには，このような背景がある．

リマニターボチャージャについて

1.　ターボチャージャ構成部品

ターボチャージャは自動車の排気ガスでタービンインペラに動力を伝え，同軸上のコンプレッサインペラを回すことで圧縮空気をエンジンに供給する装置である．

ITSJのリマニターボチャージャの主力製品であるガス流量調整用可変ノズル機構 (VGS) 付きターボチャージャの主要構成部品を下図に示す．

これらのインペラを有する回転体はセンターセクション (⑩) と呼ばれる部品に組み込まれ，排気ガスを流すタービンハウジング (②) と空気を流すコンプレッサハウジング (①) が装着される．また，ガス量を調整する可変ノズル機構をもつシュラウドASSY (③) やそれを制御するための電動アクチュエータ (⑤) を有する．

2.　リマニターボチャージャ生産プロセス

リマニターボチャージャを製造するうえで必要不可欠なのが「コア」と呼ばれる中古ターボチャージャである．
このコアを入手するため，リマニターボチャージャをリーズナブルな価格でお客さまに提供する代わりに，役目を終えたコアを返却いただき，再生して新たなリマニターボチャージャを生産し，また別のお客さまに供給するというサイクルになっている．

お客さまより回収したコアは分解され，再生対象として定めている部品が選別される．再生対象として選別された中古部品は，洗浄・ブラストといった工程 (部品によって異なる) を経て，再生部品に生まれ変わる．再生部品は，IHI量産ターボチャージャの設計思想に基づいて決められた部品再生基準に従って検査が行われ，合格した部品のみが生産に使用される．

組立には，再生された部品と合わせて，一部IHI純正の新品部品が使用される．高速回転体であるセンターセクション，製品品質に影響が大きい締結関連部品，および不足部品の補充がそれにあたる．

生産プロセスおよび生産時の各種基準は，基本的にIHI量産基準を踏襲することで高品質を維持しつつ，アフターマーケット向け少ロット生産，および再生部品使用という特殊要件に即すため最適化が図られている．
これらの再生作業によって，一度役目を終えたターボチャージャは新品同様に再生され，再びお客さまに出荷される．

3.　ITSJ製リマニターボチャージャの優位点

IHI製ターボチャージャは多くの量産車両に採用されており，アフターマーケットにおいても品質信頼性への高い評価をいただいている．そのコア技術となっているのが，高速回転するインペラを含むセンターセクションである．

市場のリマニ品には，各社の独自理論と再生手法によってコピー部品が製作され組み付けられ販売されているものが存在し，特にセンターセクションにおいて寿命が全く想定できないという不安点がある．「安い再生品を購入したが装着してすぐに故障した」というケースは少なくない．

一方，ITSJでは高品質なIHI純正新品センターセクションをリマニターボチャージャに使用することによって，消費者の再生品に対する不安を解消し，かつ新品同様の製品寿命を付加価値として提供することができる．またIHIの量産ターボチャージャの設計思想に基づいた部品再生や制御ユニットの初期設定を行っているので，自動車メーカー向けの製品と同等の信頼性を担保できるものとなっている．

リマニターボチャージャのニーズは，走行距離が長く業務に使用されている商用車に多く見られる．現在ITSJは商用車向けターボチャージャを主体にリマニ品を生産しており，今後さらなるラインナップの拡充を進め，広くお客さまのニーズに応えていく．
IHIグループの車両過給機は世界各所に生産拠点をもち，自動車メーカー向けにターボチャージャの生産を行っている．各地域にてアフターマーケット向けのターボチャージャ製造販売を行っているが，新品の取扱いに限られている．ITSJは今まで培ってきたノウハウを活かして省エネ・省資源・環境保全につながるリマニ事業を各海外生産拠点と連携して展開していく．

　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　 　 　 　 　

第61巻　第3号 特集 産業インフラの
新しい価値の創出を目指して