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DXを支えるツール展開と社内データアナリスト育成 デジタルトランスフォーメーションに向けたデータ活用環境の展開

株式会社IHI   

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IHIグループでは,お客さまに適した価値を迅速に創出するために,データ活用を容易にするマイクロサービスの整備・開発と,データを分析し価値に変える人材の育成を推進している.

デジタルトランスフォーメーションの推進支援イメージ

はじめに

昨今,お客さまのニーズの急速な変化・多様化に対し,いかにお客さまに寄り添ったサービスを提供できるかが重要になってきている.お客さまの価値向上を支援し実現することによって,自社の事業価値と収益が上がり,それによってさらにお客さまに新しい価値を提供するという,カスタマーサクセスと呼ばれる顧客志向のビジネス改革を実現することが社会貢献につながっていく.

IHIグループでは,カスタマーサクセスの実現に向け,デジタル技術を活用した変革,デジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation:DX) に取り組んでいる.DXの源泉となるデータを集め,意味のある情報として見える化する.さらに人工知能 (Artificial Intelligence:AI) を活用したデータ分析による課題解決や新しい発見をとおして価値を創出する.この「データを価値に変える」サイクルを回すことが,カスタマーサクセスの実現に向けた取り組みの一つである (図参照) .

IHIグループではDXを推進するために,データ活用環境の展開におけるマイクロサービスの整備・開発を行っている.マイクロサービスとは,IoT (Internet of Things) やAI技術を活用して,アプリケーションがもつそれぞれ独立した機能を提供する機能群,およびそれらの集合体で構成されたシステムと定義している.また,事業変革を実現するDXリーダーおよび自分たちの業務に関わるデータを分析・活用できる社内データアナリストなど,DXを推進する人材の強化を図っている.本稿ではその取り組みを紹介する.

DXの目的

データ活用環境の展開に向けた取り組み

データを活用した迅速な価値創出を行うためには,製品・サービスをはじめ,お客さまをよく知る事業部門内にDXを推進する人材を育成することが重要である.価値をタイムリーに提供するためには,IT担当部門だけでなく事業部門のエンジニアが自ら分析できるようにする必要がある.ただし,事業部門ごとにデータ分析ツールを準備するのは効率が悪いため,社内標準のデータ分析ツールを整えることが重要である.また,これらのツールを用いて分析を行った際に,分析結果を正しく解釈し業務に活用できるようにするために,統計や機械学習,データ分析に関する知識も必要になる.

IHIグループでは上記を実現するために,これまで培ってきたデータ分析技術をテンプレート化した,社内標準のシステムであるマイクロサービスを開発している.また,それらのマイクロサービスを活用できるよう,データ分析の進め方,データの可視化,集計手法,予測モデルの作り方など,基本的な知識を身に付けるためのデータアナリスト研修を行っている.さらに,データ分析の実践の場として,参加者に課題を与えて分析結果の精度を競う社内コンペも始めた.

次に,データ活用環境の展開に向けた取り組みについて具体的に説明する.

マイクロサービスの整備

IHIグループにおけるマイクロサービスは,自社で開発したツールや他社ツールなどで構成されている.そのうちの一つとして,事業部門におけるマイクロサービスの展開を図るために,手軽にデータ分析を行うツールを社内標準として提供している.ここではそのツールと活用について紹介する.

(1) ノーコード・ローコードのデータ分析ツール
一般的にデータ分析にはプログラミングが必要となる.事業部門のエンジニアは,製品・サービスを熟知し課題も把握しているが,必ずしもプログラミングに習熟しておらず,データ分析プログラムを用意できるとは限らない.近年はアプリケーションの開発ツールとして,プログラミング言語なしで実装可能なノーコードツールや,簡単なプログラミングで実装が可能なローコードツールが注目を集めている (独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2021」参照) .IHIグループでも,こうしたノーコード・ローコードのデータ分析ツールであるRapidMinerを社内に展開し,事業部門におけるデータ分析の迅速化に貢献している.このRapidMinerでは,さまざまな処理を実現するオペレータ (データの処理方法を定義した箱) をつなげることで,さまざまな分析処理を作ることができる.これによって,データ可視化,モデリング,評価,運用まで,高度な分析業務をプログラミングなしで行うことができるのが大きな特長である.データ分析ツールの導入により,データ分析専門部署の担当者が関与することなく,生産部門の担当者などが自ら業務データ分析に活用し始めている.
(2) 業務分析のテンプレート
標準的なデータ分析手法だけでなく,IHIグループのお客さまへ提供する価値に沿ったオリジナルの分析手法を実現するために,IHIグループの業務のなかで多用されると考えられる分析内容をテンプレート (処理内容をまとめたプログラム) として整備し,事業部門へ提供できるようにした.すでにテキスト分析用,在庫最適化用といったデータ分析用テンプレートを提供しており,事業部門におけるデータ分析が,より迅速に,より効率的になることが期待される.IHIグループで導入したデータ分析ツールRapidMinerでは,こうした業務に応じたカスタマイズも容易にできる.
データ分析用テンプレートの例

データ分析人材の育成

前述のマイクロサービスを整備・開発した後は,データ分析の進め方,データの可視化,集計手法,予測モデルの作り方など,データ分析ツールを活用できる人材を育成する.データ分析ツールを有効活用するためには,データ分析の知識,業務知識,アイデアの三つが必要とされる.

ここでデータ分析人材に求められる知識を,データ分析の流れとともに示す.データ処理の前には,目的の設定や仮説の立案を考えるため,製品知識・業務知識が重要とされる.データ処理では,統計解析や機械学習の知識が重要である.データ処理の後には,結果に基づいて,レポート (意思決定) を行う必要がある.ここでも製品知識・業務知識といったベースは重要である.こうした幅広い知識をもつ人材の育成が求められている.

データ分析の流れ

これまでIHIグループでは,事業部門のDXを推進するため,さまざまな人材育成に取り組んでいる.事業部門のAI・データ分析のスキル向上のために,2018年より外部企業と連携して,社内に導入したデータ分析ツールの利用方法に関する教育を実施している.また,AI・データ分析を積極的に活用する企業風土・文化づくりを推進するために,幹部層に向けたAI・データ分析人材の育成講座を実施している.そのほかにも,AI・データ分析講座では,データ分析の手法を実践的に学べる内容とし,職場で活用してもらうことを目的としている.2021年度には,さらにデータ分析手法だけでなく,データ分析プロジェクトの進め方や関連法規に関する知識の教育を行うなど,講座内容の改良も行っている.2021年度までのAI・データ分析講座の受講者は,IHIグループ全体の累計で650名となった.本講座の受講後に能力評価を行い,合格者は社内データアナリストとして認定している.本講座は今後も引き続き開催し,各事業部門から数百名程度の受講を計画している.また,既受講者同士で情報交換を行うことができるようなデータ分析人材のネットワークの構築や,ステップアップ講座の準備など,受講後のフォローアップも行っている.具体的には,データアナリストが交流するコミュニティーや,AI活用に関する相談を受け付けるAIポータルなどを運営している.

こうした取り組みを行ってきたにもかかわらず,受講者からは「AI・データ分析講座を受講しても,なかなか職場や事業の課題解決につなげられない」という声や,受講者の上司からは「実際の業務において,どういった部分でAI・データ分析講座の受講者に活躍してもらえばよいのか分からない」という声が上がっている.調査した結果,受講者に加え,受講者の上司にAI・データ分析の重要性について理解を深めてもらうことが課題であることが判明した.そこで2021年度は,受講者の上司にデータ分析の理解を促し,受講者と上司の意識合わせを行うことを目的としたワークショップを開催した.ワークショップでは,受講者にその上司も加えた約400名が参加し,AI・データ分析を実際の業務で有効に活用するための流れとポイントについての実習を行った.実習をつうじて,受講者と上司の間で職場におけるAI・データ分析の活用に向けた議論がなされたことで,事業部門におけるAI・データ分析の重要性について理解が深まった.

社内データ分析コンペの開催

IHIグループでは,社内データアナリストやデータ分析に興味がある人を対象に,データ分析を実践し交流する場として,社内データ分析コンペ (AIコンテスト) を実施した.AIコンテストは,これまで画像分析,テキスト分類,スペクトルデータ分析といったテーマで3回開催してきた.多様なテーマを扱うことで,データ分析のスキルを身に付けることを狙いとしている.特に第3回のスペクトルデータ分析では,ノーコードのデータ分析ツールを用いた分析手法を学ぶ場を提供することで,普段の業務でデータ分析を行っていない人でも気軽に参加できるように工夫した.

第1回には約30名,第2回には約50名,第3回には200名以上が参加した.回を追うごとにAIコンテストの参加者が増加しており,社員の意識がデータ分析に向いてきていることがうかがえる.また,各回の成績上位者には,課題を解決するために用いたデータ分析の手法について社内発表してもらい,その様子を動画にて公開することで,参加者のデータ分析手法への理解と興味を深めている.このように,IHIグループではAIコンテストを実施することにより,社内のコミュニティーが活性化し,知識や知恵を集結させて,データ分析の活用により課題解決に取り組む体制が整いつつある.

AI コンテスト表彰式の様子

おわりに

IHIグループ全体にデジタル技術を活用したビジネスの変革をもたらし,カスタマーサクセスを実現するためには,DXの推進と人材の育成が求められる.今回ご紹介した内容をもとに,データの分析・活用という観点で,マイクロサービスの整備・開発や社内データアナリストなどのデータ分析人材の育成に今後さらに力を入れていく.さらにお客さまへ新しい価値を提供するため,「データを価値に変える」サイクルを回し,カスタマーサクセスを実現させていく.