物資輸送のラストワンマイル ドローンによる重量物の長距離輸送を可能にするi-Gryphon®のハイブリッドシステム
株式会社IHIエアロスペース
株式会社IHIエアロスペースは,電池をエネルギー源とする電動マルチコプターでは実現困難だった,長時間滞空と重量物保持を達成するエンジン・電動のハイブリッドシステム搭載のドローンを開発している.
拡大するドローン (無人機) 用途
2010年代から,ホビー用途を中心に,安価で操縦が簡単なマルチコプター型のドローン (一般的に4~6枚のローターをもつ電動モーター駆動のドローン.以下,電動ドローン) が世界中に普及した.電動ドローンは,機体外縁に取り付けられた複数のローターを連動して駆動させることにより,浮上推力と姿勢制御力を得る.このローターそれぞれの回転数が,電動モーターで素早く制御されることにより,電動ドローンは自在に飛行することができる.
また近年,自律姿勢制御用演算装置とセンサーの小型軽量化が実現し,電動ドローンにも搭載できるようになった.これにより耐風性能や自律航行制御など,機体の安定性に関する性能が急速に向上したとともに,機体の大型化設計と積載能力向上も可能になった.このため電動ドローンは,ホビー用途だけでなく,高解像度カメラや高精度計測機器などを搭載したビジネス用途 (映像メディア,設備点検・計測・測量) へも適用され,マーケットは広がり続けている.
さらにeコマースの拡大や,日本社会の少子高齢化による輸送分野での人手不足に対しても,電動ドローンは省人化・無人化の切り札として,ビジネス用途を広げることが期待されている.しかし,バッテリーの性能限界により滞空時間を長くできず,近距離輸送に用途を絞った適用にとどまっているのが現状である.
株式会社IHIエアロスペース (IA) では,長距離輸送へのニーズに応えるべく,長時間滞空を可能とするハイブリッドシステムを搭載したドローンi-Gryphonの開発を2020年に開始した.IAでは防衛分野を主なターゲットとしつつ,民間で利用されることも想定している.
長時間滞空を実現するハイブリッドシステム
電動ドローンの多くが搭載しているリチウムイオン電池は,ほかのバッテリー (鉛蓄電池,ニッケル水素電池など) と比較して軽量であるが,長時間空を飛ぶドローンのためのエネルギー源として,十分な軽さといえないのが現状である.現在の一般的な電動ドローンの滞空時間は,軽量の荷物を満載した状態で数分~20分程度といわれている.滞空時間を長くするにはより軽いエネルギー源が求められる.例えばガソリンは,バッテリーの数十倍の質量エネルギー密度をもつ.このため,ドローンの大型化に伴って,また長時間飛行を行う用途として,バッテリーと比較して有利な,桁違いに軽いエネルギー源といえる.
ただし,ガソリン・レシプロエンジンでローター自体を駆動する場合,電動モーターに比べてローター回転数の制御の応答性が格段に低く,素早い回転数の変更ができない.このため,エンジンで直接ローターを駆動させることによるマルチコプター型の安定した飛行制御は実現されていない.レシプロエンジンを用いるドローンとして主流なのは大きな回転翼をゆっくり回すヘリコプター型であり,姿勢制御は回転翼の羽根角度を調整することで達成している.ヘリコプターで用いられる大きな回転翼は,込み入った場所では接触事故を起こしやすく,機体の制御もマルチコプター型に比べて難しい.このため,安全に活用できる場所がマルチコプター型に対して限られる.
i-Gryphonに搭載されるハイブリッドシステムは,レシプロエンジンで駆動される大出力ダクテッドファン2基と,電動プロペラ4式 (8基) を用いる.大出力ダクテッドファンは,同じ直径の電動プロペラの5倍以上の推力を発生させることができ,これを機体の浮上推力として用いる.また,エンジン出力で発電機を動かし電力を発生し,この電力で機体外縁に取り付けた4式の電動プロペラで機体の姿勢を制御する.
エネルギー源を質量エネルギー密度が高いガソリンとすることで,電動ドローンと比較して長時間の飛行を可能とした.また素早い応答が可能である電動プロペラによる姿勢制御で,電動マルチコプターのような安定した姿勢制御と操作性を確保した.
加えてi-Gryphonのダクテッドファンは,むき出しのヘリコプターのローターと異なり,回転部分がダクトで保護されており,周囲の電動プロペラもガードがあるため,回転部分との接触事故が起こりづらくi-Gryphonは広範囲にわたって安全に活用することができる.
無人機技術で少子高齢化社会の課題解決へ貢献
IAでは,2020年度にi-Gryphonプロトタイプ機によるデモフライトを行った.現在,お客さまからのご意見も反映して,新型機の開発を進めている.ハイブリッドシステムの開発だけでなく,ドローンとしての運用性の向上検討,安全を確保した自動航行技術の開発,最新の長距離通信技術の適用などを実施している.
日本社会の少子高齢化からあらゆる分野で省人化・無人化技術への取り組みが加速していくなかで,国の戦略としてドローン市場を拡大させ,ドローンの適用分野を拡大する政策が矢継ぎ早に打ち出されている.i-Gryphonの省人化・無人化技術が社会課題解決へ向けて貢献できるよう,製品開発,サービス向上を進めていく.