CO₂を使わないのはMOTTAINAI
株式会社IHI
IHIグループは,従来の化石燃料と比較して二酸化炭素 ( CO₂ ) の排出量を大幅に削減できる持続可能な航空燃料 ( Sustainable Aviation Fuel:SAF ) の合成技術の研究開発を進めている.SAFの製造にはさまざまな方法があるが,IHIグループでは,大気中から直接CO₂を回収し,そのCO₂に水素 ( H₂ ) を直接化学反応させてSAFを作ることに取り組んでいる.この方法は,中間生成物を経由する必要がなく製造工程がシンプルであるため,高いコスト競争力を実現できる.SAFは今後需要拡大が見込まれており,その合成技術はIHIにとってキーテクノロジーの一つになると考えている.今回は,SAFの開発者である弥富部長,佐藤主任研究員に話を聞いた.
CO₂からジェット燃料を作る循環システムを構築する
— SAFの技術開発を始めたきっかけについて教えてください.—
弥富:これは技術者としての私の持論ですが,“この世の中にムダなものはない.すべてのものは,何かにとって良いものになるはずだ.そして,自分たちが今いるところは,過去からつながってきた流れのなかの一点であり,自分たちで終わりなのではなく,この先の未来につなげていく.そうして,次やその次,そのまた次の世代の人々が,豊かに笑顔で暮らせるために,技術者として何をすべきか”という考えがベースとしてあります.
地球温暖化防止のためにCO₂はムダなものとして扱われることが多く,その削減方法の一つとして,CO₂を地中に埋めて固定化する方法を知ったとき,まるで“わるいもの”は埋めてしまおうとしているようで,もったいないと思いました.このCO₂をどうすれば“よいもの”に変えられるのかを考えるところから,SAFの技術開発が始まりました.
IHIでは航空機のジェットエンジンを製造しています.ジェット燃料を燃やすことは,CO₂を大量に発生させることにつながります.このCO₂をどうにかしてジェット燃料として作り替えることができれば,CO₂を“わるいもの”から“よいもの”に変えられるのではないかと考えています.自然界と同じようにCO₂を循環させるシステムを作っていきたいですね.
この世にはない新しいものを生み出すことに挑戦し続けてきたIHIのこれからにとって,SAFの技術開発は重要な取り組みの一つとなっていくでしょう.
触媒開発力とエンジニアリング力の掛け合わせで早期の社会実装を目指す
— SAFの技術開発は,どのように進めているのでしょうか.—
弥富:まず,CO₂を何か価値あるものに変えていくという点では,SAFの合成技術よりも先に,メタネーション技術や低級オレフィン製造技術で触媒の技術開発を進めてきました.その技術開発をシンガポール科学技術研究庁 ( A*STAR ) 傘下の研究機関であるISCE² ( Institute of Sustainability for Chemicals, Energy and Environment ) とともに取り組んでいます.ISCE²は世界トップクラスの触媒開発力を有しており,IHIから派遣した研究者とISCE²の開発者とが直接議論しながら触媒開発を進めています.また,IHIは,これまで多くの化学プラントを製造してきたエンジニアリング力を有しており,開発初期の段階から実用化プロセスを彼らと一緒に考えながら進めることができています.両者の力を掛け合わせることで,早期の社会実装を実現できるのではないかと考えています.
地球温暖化防止などの社会課題は,IHIグループだけで解決できるものではありません.技術的に強みをもつ企業や研究機関の方々と協力しながら進めていくことが,これからの技術開発に必要であると考えています.
機械学習を使って効率的に触媒の組成を探す
— SAFの技術開発で工夫している点などありますか.—
佐藤:自分たちが望む化学物質を,高い収率で合成することは中心的な課題です.触媒は,さまざまな金属の組み合わせでできており,最適な触媒の組成を探す必要があります.ここに機械学習を使うことで,人が経験値から探すよりも,早く,効率的に結果を得ることができます.
— これからのSAFの技術開発計画について教えてください.—
弥富:2022 年からISCE²と共同開発を進めていたH₂とCO₂を直接反応させるSAF合成触媒では,世界トップレベルの性能をもつ触媒の開発を実現しました.今後は,実用化に向けて,まず2024 年に小規模のテストプラントを立ち上げる計画があります.そのプラントをSAFの利用を検討している企業や研究機関の方々に公開し意見を求め,ISCE²の技術者たちとディスカッションを重ねて,さらなる開発を進めていきます.また,パートナーとなり得る企業や研究機関と協力関係を結び新たな知見を得ながら,2030 年の実用化を目指し,着実にステップアップしていきたいと考えています.
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