第63巻 第1号(2023年6月発行)
特集 バリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現
表紙デザイン
東北芸術工科大学 デザイン工学部 グラフィックデザイン学科
佐野 萌美 氏
小さな水滴が大きな波紋となり広がっていくように,小さなきっかけは大きな変化になります. カーボンニュートラルの実現に取り組むIHIの技術が私たちの街に浸透し,クリーンな世界が広がっていくイメージを表現しました.
IHIは東北芸術工科大学(TUAD)と締結したビジネスパートナー協定に基づき,IHI&TUAD産学共創プロジェクトを進めております.
巻頭言
特集 バリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現
特集記事 記事1
特集記事 記事2
特集記事 記事3
特集記事 記事4
特集記事 記事5
特集記事 技術論文1
CO₂を原料とした低級オレフィン類および持続可能な航空燃料(SAF)の合成技術
- 鎌田博之,水上範貴,橋本卓也,辻川 順,佐藤研太朗
地球温暖化の主要因であるCO₂の排出量を抑えてカーボンニュートラル社会に移行するうえで,回収したCO₂を有価物に変換して利用するカーボンリサイクルは重要な選択肢である.IHIグループではCO₂と水素から触媒を使って,樹脂・プラスチックの原料である低級オレフィン類および持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel:SAF)を合成するプロセスの開発に取り組んでいる.カーボンフットプリントの低減可能な,これらの技術の社会実装が進み,炭素循環を実現させ,従来は困難と考えられてきた化学原料や液体燃料の分野においても,カーボンニュートラル化が進むよう貢献していく.
特集記事 インタビュー1
CO₂を使わないのはMOTTAINAI
- 株式会社IHI
IHIグループは,従来の化石燃料と比較して二酸化炭素(CO₂)の排出量を大幅に削減できる持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel:SAF)の合成技術の研究開発を進めている.SAFの製造にはさまざまな方法があるが,IHIグループでは,大気中から直接CO₂を回収し,そのCO₂に水素(H₂)を直接化学反応させてSAFを作ることに取り組んでいる.この方法は,中間生成物を経由する必要がなく製造工程がシンプルであるため,高いコスト競争力を実現できる.SAFは今後需要拡大が見込まれており,その合成技術はIHIにとってキーテクノロジーの一つになると考えている.今回は,SAFの開発者である弥富部長,佐藤主任研究員に話を聞いた.
箸休め
記事
記事1 我が社のいち押し製品・技術
論文
技術論文 論文1
新型ディーゼル機関25AHXの環境対応技術
- 三村敬久,加藤尚次
地球温暖化防止をはじめとした地球環境の改善として,二酸化炭素(CO₂)を代表とした温室効果ガスの削減およびカーボンニュートラルへの取組みが急務である.地球温暖化防止への取組みとして,株式会社IHI原動機(IPS)は代替燃料対応機関,ハイブリッドおよび電気推進システムを実用化してきた.また一方で温室効果ガスの削減に加えて,窒素酸化物(NOx)をはじめとした大気汚染物質の削減も引き続き必要である.IPSは地球温暖化防止に直結する燃料消費率(燃費)を従来機関よりも改善しつつ,NOxを現状の国際海事機関(IMO) Tier II規制よりも約30%低減し,中国船舶排ガス規制に対応した25AHX機関を開発した.今後,本機関がベースとなり,カーボンフリー燃料焚き機関としても展開する予定である.本稿では本機関でのNOx低減および燃費削減の技術とその効果について紹介する.
技術論文 論文2
高速回転タービン試験による冷却タービン空力性能評価
- 谷光玄行,浜辺正昭,田中 望,佐藤博紀
将来の民間航空機用エンジンへの適用を目指して,翼面冷却が必要な高圧タービン(以下,冷却タービン)の世界最高レベルの空力性能実証を国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究で進めている.冷却タービンは主流部にタービン翼冷却空気やディスク前後のパージ空気が混入する複雑な流れ場となっており,空力設計同様,冷却タービンの空力性能試験・計測もほかのエンジン要素に比べて難易度が高い.本稿では,プロジェクト最終実証試験に向けて冷却タービンの性能計測および評価の健全性確認を目的とした高速回転タービン試験を実施したので,その内容と結果を紹介する.
技術論文 論文3
セラミックス基複合材料中の繊維-マトリックス近傍における界面強度特性評価
- 金澤真吾,岸 朋紀,久布白圭司
ジェットエンジン高温部材への適用が本格化してきているセラミックス基複合材料(CMC)の強度特性は,繊維-マトリックス近傍の界面強度特性に大きな影響を受ける.CMCに使用される繊維の直径は10mm程度であり,金属基複合材料など,そのほかの複合材料に使用される繊維と比較すると小径である.そのため,CMCの界面強度を精度良く評価する手法は技術的に難易度が高く,確立された報告例はほとんどない.本稿では,界面強度試験の一つであるPush-out試験に着目し,適切な試験装置,圧子形状,試験片厚さを検討することで,繊維-マトリックス近傍の界面強度を精度良く取得することを目的とした.種々試験片を用いたPush-out試験の結果,位置決め精度の高いナノインデンターおよび先端が球形のRound end cone圧子を用いることで,116mmまでの厚さのCMCについては,界面せん断剥離応力を取得可能であることを見いだした.ただし,試験片厚み方向に対する繊維の垂直度を考慮できていないなど,定量評価手法とするには課題も残る.
技術論文 論文4
吹付けコンクリートにおける新規な粉じん低減対策の検証
- 山本光彦,伊藤祐二,杉山彰徳,井上 哲
「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」(1)が2020年7月に改正され,2021年4月に施行された.これによって,コンクリート吹付け時に発生する粉じんの目標濃度レベルが引き下げられた.そこで,本稿では,新規な粉じん低減対策として新型粉じん低減剤の有無および分割練混ぜ方法との組合せを提案し,実大模擬トンネルによって施工性および強度特性を検討した.その結果,新型粉じん低減剤の添加による粉じん低減効果および吹付けコンクリートの強度特性に影響を及ぼさないことが確認された.特に,設計基準強度18N/mm2程度のコンクリートでは,新型粉じん低減剤と分割練混ぜの併用によって顕著な粉じん低減効果が検証された.