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二酸化炭素削減を実現した発電所が稼働中
天然ガスおよび水素を燃料とするガスタービンコンバインドサイクル発電所

株式会社IHI原動機   

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株式会社IHI原動機 ( IPS ) は,住友共同電力株式会社に新居浜北火力発電所を納入した.
高い発電効率と負荷追従性を有した発電設備の構成と,それらを実現するための技術を紹介する.

新居浜北火力発電所外観( 写真左側:排熱回収ボイラ,右側:ガスタービン発電装置)

はじめに

2022 年11 月,愛媛県新居浜市にて,住友共同電力株式会社向けに納入した新居浜北火力発電所が運転開始された.

この発電所は,天然ガスを燃料として高い発電効率と負荷追従性を有した航空エンジン転用型ガスタービンに,蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクルである.さらに,助燃燃料として水素も利用可能な排熱回収ボイラから発生する蒸気は,プロセス蒸気としても供給可能な熱電併給(コージェネレーション)機能も備えている.これらの特徴をもつガスタービン発電所の概要を紹介する.

新居浜北火力発電所の構成

住友共同電力向けの新居浜北火力発電所(以下,本設備)は,住友化学株式会社愛媛工場新居浜地区内(以下,工場内)に建設され,石炭などと比較して二酸化炭素 ( CO₂ ) 排出量の少ない天然ガスを主燃料とする火力発電とすることで,環境負荷低減を実現した発電所となっている.本設備を構成する3 台のガスタービンと2 台の蒸気タービンの発電出力合計は147 800 kWで,2019 年に納入した隣接する特別高圧変電所を通して工場内の需要家へ供給されるとともに,商用電力系統への送電も可能となっている.

ガスタービンは,航空エンジン転用型ガスタービンLM6000PFを3 基採用している.LM6000シリーズはB747などの大型旅客機に搭載されているGE社のジェットエンジンCF6-80C2を発電用に転用した,現在実用化されている40 MW級ガスタービンのなかで世界最高レベルの性能を発揮する高効率ガスタービンである.さらに,ガスタービンの排熱で発生させる蒸気を使って発電を行う蒸気タービンを設置することで,発電効率に優れたコンバインドサイクル発電方式となっている.蒸気タービンは,低圧蒸気での運用が可能な設計であり,本設備で発生した蒸気だけでなく,工場内の化学プラントで生成された副生蒸気も利用可能で,工場全体のエネルギー有効利用に貢献できる設備である.

ガスタービンの排気系統に設置した排熱回収ボイラで発生させる高圧蒸気は,蒸気タービンでの発電利用と併せて工場内の需要家へプロセス蒸気としても供給され,本設備はコージェネレーション機能も併せもつ.また,排熱回収ボイラには,高温のガスタービン排気ガスをさらに加熱するための助燃バーナを備えており,蒸気需要に応じて蒸気発生量を増加させることが可能である.さらに,別途設置した強制通風ファンを運転することにより,ガスタービンを停止した状態でもボイラ単独で蒸気を供給することが可能となっている.

ガスタービンの燃料は工場内に新設された液化天然ガス ( LNG ) 基地から供給される天然ガスを用い,助燃バーナの燃料には天然ガスのほかに工場内の化学プラントで発生する副生ガスの水素が使用可能である.また,冷却水は工業用水を使用し,冷却塔を介して循環させている.海水を冷却水として使用する場合は,使用後に沿岸の海水温度上昇につながる温排水として海に排出しなければならないが,本設備は工業用水を利用することによって,温排水の排出はなく,使用燃料によるCO₂削減と合わせて環境負荷の低い設備となっている.

新居浜北火力発電所 発電設備概念図
新居浜北火力発電所 発電設備鳥かん図

需要の高速変化に対応できる設備の構築

本設備で採用した航空エンジン転用型ガスタービンは,高速での起動停止や負荷追従が可能という特徴をもっている.また,LM6000シリーズは部分負荷での発電効率も高い2 軸型構造であり,さらに,本設備ではガスタービンの特徴である気温上昇時の出力低下を抑制するための吸気冷却設備を設置している.3 台あるガスタービンの運転台数や出力を制御することで,幅広い出力帯および環境下において,電力需要の変化に迅速に追従する高効率な運転が可能である.

蒸気需要の変化に対しても,助燃バーナと蒸気タービンの出力を制御することにより,お客さま要求の変化速度に対応できる設備となっている.蒸気需要が増加した場合には,助燃バーナの燃料供給量を増やし蒸気発生量を増加させるとともに,本設備内の蒸気タービンでの消費蒸気量を減少させることで,需要家への供給蒸気量を増加させる.逆に蒸気需要が少なくなった場合は,逆の動作を行うことで供給蒸気量を減少させている.

これらの需要変化に対応した運転を可能とするため,ガスタービンに限らず,蒸気タービン,排熱回収ボイラを含めたプラント全体の制御をIPS製の制御装置CSI ( Control System of IHI ) にて実施している.CSIはガスタービンの制御用として自社開発した制御装置であるが,その後,制御範囲を排熱回収ボイラやプラント全体の補機・制御弁などまで広げ,発電設備の統合制御装置として発展させてきた実績がある.本設備では,蒸気需要変化への対応として,排熱回収ボイラと蒸気タービンを密接に連携させて制御する必要がある.これまでは,蒸気タービンメーカーから供給される専用の制御装置を組み合わせていたが,今回は蒸気タービン用に設計したCSIを開発し,蒸気タービンメーカーに持ち込み,蒸気タービンの工場試験時から調整を実施することで,製品化して本設備に採用している.蒸気タービン制御へのCSIの適用は,蒸気需要への迅速な追従を可能としただけでなく,主機(ガスタービン,排熱回収ボイラ,蒸気タービン)の制御装置を社内一体設計することによる設計作業の効率化・品質向上に加え,試運転期間の短縮にも効果があった.

助燃バーナ燃料としての水素の使用

先述のとおり,本設備の排熱回収ボイラは助燃バーナの燃料として,水素の使用が可能となっている.助燃バーナとして,ガスタービン出口(排熱回収ボイラ入口)のダクト内部で燃料を燃焼させるダクトバーナを設置している.ダクトバーナでの助燃燃料は通常ガスタービンと同じ燃料を用いるが,今回初めて燃焼時にCO₂を発生させない水素を適用した.ガスタービン排気の高温・高流速の条件下において,水素燃料の使用実績はこれまでなかった.また,本設備の仕様から,ダクトバーナはガスタービン運転中だけでなく,ガスタービン停止中に強制通風ファンから供給される常温・低流速の空気条件下での燃焼にも対応する必要がある.さらに燃料として水素だけでなく,水素と天然ガスの同時燃焼も考慮する必要があった.

設計にあたっては,燃焼用ダクトの形状,ダクトバーナの燃焼用ノズルの配置,強制通風ファンからの空気をガスタービン出口ダクトに注入するノズルの配置などについて,流体解析でのシミュレーションに基づいた設計を行った.燃焼試験設備で実際に水素および天然ガスを燃焼させることで,設計妥当性の確認を行った.現地試運転において調整作業は必要であったが,水素単独あるいは水素と天然ガスの同時燃焼において所定の性能が達成できることを確認した.

ダクトバーナに関する流体解析例

おわりに

商用運転開始以降,本設備は順調に稼働しており,お客さまおよび工場内の省エネルギーとCO₂排出低減に貢献している.また,ガスタービンに関しては長期メンテナンス契約を締結済みで,定期的なメンテナンスのみならずリモートモニタリングを用いた予防保全対応など,ライフサイクルでお客さまの運用をサポートしている.今後もカーボンニュートラルの社会実現を目指して,お客さまの脱炭素に貢献する優れた環境性能をもち,高い発電効率と信頼性を誇る発電設備の提供を行う.また,メンテナンスおよび運用支援サービスをはじめとするライフサイクルサポートをつうじて,脱CO₂・循環型社会と快適で安心な自律分散コミュニティの実現に貢献していく.