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第63巻 第2号(2023年12月発行)
特集 社会課題の解決を支える基盤技術の進化

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表紙デザイン

東北芸術工科大学デザイン工学部プロダクトデザイン学科 4年
井嶋 桜子 氏

IHIグループが保有する基盤技術の進化を表現するために,その形跡を足跡に見立て制作しました.足跡の中にある立体物は,これまでの実現してきた取り組みを具体的に表現しており,カラフルな従業員はIHIの皆さんや他の企業や大学が協業している様子を象徴しています.

IHIは東北芸術工科大学(TUAD)と締結したビジネスパートナー協定に基づき,IHI&TUAD産学共創プロジェクトを進めております.

巻頭言

特集「社会課題の解決を支える基盤技術の進化」発刊に寄せて

  • 執行役員 技術開発本部 副本部長
  • 福岡 千枝

特集 社会課題の解決を支える基盤技術の進化

寄稿

カーボンニュートラルのための環境予測技術に向けて
-二酸化炭素とIoTデータのリサイクル-

  • 東北大学材料科学高等研究所 教授
  • 安東 弘泰

Cover Message

社会に新しい選択肢を増やす研究開発

  • 株式会社IHI 常務執行役員 技術開発本部長
  • 久保田 伸彦

特集記事 記事1

「小型メタネーション装置」による 回収CO₂の有効利用
二酸化炭素と水素からその場でメタンを合成してカーボンリサイクル

  • 株式会社IHI

お客さまの試験運用,または二酸化炭素(CO₂)排出源や余剰の再エネ水素源のある事業所(オンサイト)における合成メタン(e-methane)製造といった要望に応えるため,小型メタネーション装置の販売を2022年10月より開始した.パッケージ化・標準化によって省スペース・短納期を実現し,12.5Nm3/hのe-methaneが製造可能である.

特集記事 記事2

グリーンエネルギーの地産地消を支える電力安定供給システム
電源安定化と耐災害性を両立するマイクログリッドの制御技術

  • 株式会社IHI

日本では,2023年の夏の平均気温偏差が+1.76℃となり,過去最高を更新した.CO₂を排出しないグリーンエネルギーの比率を高めることは温暖化対策として必要かつ有効であるが,一方でその安定化が課題である.グリーンエネルギー安定供給とともに耐災害性にも寄与するIHIのマイクログリッドの電力安定供給システムの制御技術を紹介する.

特集記事 記事3

シミュレーション技術で熱帯泥炭地の保全・管理を実現
熱帯泥炭地の地下水位を可視化するシミュレーション技術

  • 株式会社IHI

インドネシアの熱帯泥炭地で行う植林事業において,森林の育成,二酸化炭素(CO₂)排出の抑制などの観点から,地下水位を常に一定に保つ管理が求められる.そこで熱帯泥炭地の計測・観測データ,管理設備の操作・運用の模擬を基に,地下水位を推定する技術を開発し,社会に貢献することを目指している.

特集記事 記事4

環境にやさしい日本初の次世代電気推進船システム
CO₂排出量を30%削減できるシステムインテグレーション

  • 株式会社IHI原動機

株式会社IHI原動機は,推進を電動機,電力をバッテリーと発電機のセットで賄うシリーズハイブリッドにDC(直流)電圧グリッド方式を採用することで,従来船と比べて二酸化炭素(CO₂)排出量を大幅に削減した.

特集記事 記事5

二酸化炭素削減を実現した発電所が稼働中
天然ガスおよび水素を燃料とするガスタービンコンバインドサイクル発電所

  • 株式会社IHI原動機

株式会社IHI原動機(IPS)は,住友共同電力株式会社に新居浜北火力発電所を納入した.高い発電効率と負荷追従性を有した発電設備の構成と,それらを実現するための技術を紹介する.

特集記事 記事6

再利用可能なモーター制御ソフトウェア開発資産の構築
モーター制御ソフトウェア開発の効率化と多機種対応の実現

  • 株式会社IHI

IHIグループは,電動機種向けの制御ソフトウェア開発を効率化すべくソフトウェアプロダクトライン開発を行っている.また,ソフトウェアの設計・実現・試験の工程では,モデルベース開発を適用することで開発効率の向上に取り組んでいる.

特集記事 記事7

デジタル技術で生産性を上げる完全自動&遠隔半自動溶接技術
スマートファクトリー化の早期実現で溶接工程を省人化

  • 株式会社IHI

従来の溶接工程を発展させた新技術として,完全自動溶接技術および遠隔半自動溶接技術を紹介する.完全自動溶接では,溶接品質の安定化やトレーサビリティーの強化に加えて,夜間実施が可能となることで工期短縮および夜間電力使用によるコスト低減を図ることができる.それに対して,遠隔半自動溶接技術は,溶接士の溶接作業現場への移動にかかる時間や費用を大幅に削減することが可能となる.

箸休め

歴史的景観となった建造物
国指定文化財に見るIHIグループの足跡

  • IHI技報編集事務局

技術論文および解説

特集記事 技術論文1

機械学習による金属の損傷形態推定

  • 宮澤優斗,千葉竜涼,大田祐太朗

構造材料は使用時に種々の損傷が生じ,劣化や破壊へとつながっていく.破壊を未然に防ぐ,あるいは再発を防止するためには損傷の要因を明確化することが必要である.しかしながら,従来の損傷調査では有識者の知識や経験に基づく推定がほとんどであり,その推定結果は属人的かつ不安定性を有するものであった.損傷材のミクロ組織画像に対して機械学習による画像分類手法を用いることで,このような問題の解決が期待でき,知識や経験によらない一般化された推定を行うことが期待できる.本稿ではクリープ/クリープ疲労/疲労の3種類の損傷が与えられた供試材のEBSD像を用いて機械学習を行い,約89%の精度での推定に成功した.これにより本手法によって損傷形態を高精度に推定できる可能性が示された.

特集記事 技術論文2

CMC冷却孔部寿命評価手法の開発

  • 佐藤速夫,春山大地,北村祥之,中村 寛,本田達人

セラミックス基複合材料(Ceramic Matrix Composites:CMC)は,Ni基合金に比べて耐熱性や比弾性率が高く,航空機タービンエンジン部品などへの適用拡大が望まれている.材料の耐熱温度を超える高温のガスにさらされる部品では,冷却のために部品表面に微小孔を空けるのが一般的であるが,微小孔を空けたことによるCMCの疲労寿命への影響を調査した先行研究例は僅かである.本研究では,この影響を調査するため,多種の冷却孔平板試験片を用いて冷却孔の形状と疲労強度の関係を調査した.その結果,単孔と複数孔では異なる破壊モードとき裂の進展様式が観察された.これらの異なる破壊モードを有する試験片の疲労強度を説明するために寿命評価モデルを検討し,強度パラメータの考えを導入した.強度パラメータは,有限要素解析(Finite Element Analysis:FEA)より予測された応力分布をCMCの単位領域(ユニットセルサイズ)で平均化することで算出し,疲労寿命を評価した.本評価手法により疲労寿命を評価した結果,孔のない平滑試験片について得られたS-N線図から多種の冷却孔形状を有する試験片の疲労寿命予測が可能であることを確認した.

特集記事 技術論文3

Ti-6Al-4V製ディスクの過回転バーストに至る終局限界評価

  • 北村優太,津乗充良,山田剛久,北村祥之,牛田博久

航空エンジンにおいて,ディスク過回転時のバースト回転数の予測精度を向上させてディスクを軽量化することが,競争力強化の観点から期待されている.構造解析によるディスクバーストの予測精度向上のためには,破断までの材料の終局挙動をモデル化することが重要となる.本研究では,Ti-6Al-4V製ディスクを対象にデジタル画像相関法によって取得した高ひずみ領域までの応力ひずみ関係を用いた構造解析と,応力状態に依存する破断ひずみに基づく延性破壊クライテリアを用いて過回転バーストに至る終局限界評価を実施した.

特集記事 技術論文4

ターボチャージャ部品の耐食性評価

  • 纐纈知己,榊原洋平,大宮正仁,高橋和臣,齋藤健大

ターボチャージャは多種多様な金属素材を組み合わせたものであり,腐食が発生し得る環境で用いられる.そのため,新規の材料を使う場合などは耐食性評価試験として複合サイクル試験(Combined Cyclic Test:CCT)を行う必要がある.しかしCCTは大掛かりなうえ1か月以上の時間がかかる.一方,電気化学測定は簡易なセットアップで迅速に行うことができるが,CCTとの相関性は不明であった.そこで,CCTと電気化学測定の相関性を示すことを目標に,双方のデータを取得することにより耐食性を表す指標を見いだし,この指標を用いてスクリーニングが可能になった.

特集記事 技術論文5

自動車車体軽量化に向けた鋼-CFRP 異材接合技術と 複合構造部材の開発

  • 兵間賢吾,森田花清,猪瀬幸太郎

二酸化炭素(CO₂)国内年間総排出量に占める自動車からの排出割合は大きく,その削減のために車体軽量化による燃費改善が求められている.その対策の一つとして物性の異なる材料を適材適所に配置するマルチマテリアルが注目されている.本稿では,自動車車体構造を想定し,軽量化と衝突エネルギー吸収性能の要求を両立しつつ量産に対応可能な鋼-CFRP複合構造とその接合技術の開発について紹介する.

特集記事 技術解説1

天然ガス熱分解による水素製造技術

  • 伊藤隆政,宮浦拓人

天然ガス熱分解による水素製造技術は,従来の技術に比べて水素生成に必要なエネルギーが小さく,また炭素を固体として回収できる.そのため,二酸化炭素(CO₂)排出量を抑制しながら低廉な水素を生産できる技術として期待されている.加熱方法や触媒の組合せによってさまざまな形式が提案されているが,IHIでは鉄鋼業界で使用されている安価で調達が容易な鉄鉱石を触媒として,鉄鉱石のハンドリングに流動層技術を適用したIHI独自の天然ガス熱分解システムを開発中である.本稿では,その技術の開発動向と商用化への展望について紹介する.