CO₂から全ての燃料や化学原料をつくる
株式会社IHI
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IHIグループは化石資源依存からの脱却を目指してCO₂を有価物に変換するカーボンリサイクル技術の開発に取り組んでいます.化石資源から製造されている全ての燃料や化学原料をCO₂から生産することを目指しています.そして,CO₂を循環利用できる未来の実現に貢献していきます.
CO₂を燃料,化学原料に変換する新たなアプローチ
私たちの暮らしを支える都市ガスやガソリンなどの燃料,樹脂やプラスチックなどの素材・化学製品は,その大部分が化石資源から作られています.その一方,地球温暖化の主要因とされている二酸化炭素 ( CO₂ ) 排出量の約85%は化石資源由来であるといわれ,化石資源の使用量を減らすことが喫緊の課題となっています.発電分野での主な対策としては,再生可能エネルギーの拡大や燃やしてもCO₂を発生させないグリーン水素,アンモニア燃料を用いた電力方式が挙げられます.急ピッチでこのような対策が進められる一方で,同様の方法では対策を採ることが困難な分野があります.それは高いエネルギー密度が必要な燃料や材料,化学原料を使用する分野です.これらの分野では,化石資源を原料に水素と炭素で構成される炭化水素類といわれる物質が作られており,電化による代替が原理的に非常に困難とされてます.
このような背景から,IHIグループでは現在,化石資源に代わりCO₂から炭化水素類を合成する技術の開発に注力しています.CO₂を燃料や化学原料に変換することができれば,化石資源に頼ることなく,さまざまな産業で必要とされる炭化水素類を製造することが可能となります.
カーボンリサイクル技術の可能性
CO₂は燃料の使用時や樹脂,プラスチックを使用した後の焼却処理で発生する最終的な生成物です.この最終生成物であるCO₂を回収して資源として循環利用するのがカーボンリサイクル技術です.これにより,製造過程や使用時,そして焼却処理時に発生するCO₂排出量を相殺し,製品のライフサイクル全体でのカーボンフットプリントを大幅に低減することが可能になると考えています.さらに大気中のCO₂を回収する技術(直接空気回収技術,Direct Air Capture)を適用すれば,大気中に放出されるCO₂量よりも大気から吸収するCO₂量の方が多い状態であるカーボンネガティブを達成する可能性も見えてきます.
このカーボンリサイクル技術でIHIグループが特に力を入れているのは,メタネーションおよびフィッシャー・トロプシュ反応(FT反応)による燃料,化学原料の合成技術です.
メタネーション:CO₂をエネルギー源に変える
メタネーションは,CO₂を原料として天然ガスの主成分であるメタンを,合成メタン ( e-methane ) として製造する技術です.メタンは,発電燃料や家庭用の都市ガスとして利用されるほか,さまざまな産業分野の製造工程で熱源として使用されており,それらの分野でのカーボンニュートラル化に貢献することが期待できます.
IHIグループのメタネーション技術は,独自に開発した耐熱性に優れる触媒により適用範囲が広いと考えています.例えば,セメント製造時に排出されるCO₂や,下水汚泥から発生する消化ガス中に含まれるCO₂をe-methaneに変換して燃料として有効利用することが検討されています.また地域コミュニティバス「おでかけミニバス(福島県相馬市)」へのe-methane供給事業など,モビリティ向け燃料としても実用化されています.
フィッシャー・トロプシュ反応(FT反応):CO₂から炭化水素類を作りだす
FT反応は本来,水素と一酸化炭素 ( CO ) から構成される合成ガスを原料として,素材や液体燃料のもととなる炭化水素類を合成する反応プロセスです.IHIではCOの代わりにCO₂を原料としてFT反応の原理を使った炭化水素類の合成技術の開発に取り組んでいます.メタネーションが炭素数1のメタンを選択的に合成するのに対し,FT反応でCO₂を直接水素化することで,炭素数2以上の炭化水素も合成することが可能となります.IHIグループは,この反応を効率良く進行させる触媒とプロセスの開発に力を入れています.IHIグループが開発した鉄系触媒を用いることで,CO₂から炭化水素類,特に樹脂やプラスチックの原料となる低級オレフィンを選択的に合成できます.また合成した低級オレフィンをさらに処理することで液体燃料として利用可能な重質な炭化水素も合成することができるため,持続可能な航空燃料 ( SAF ) としての利用も視野に入れています.さらにBTXと呼ばれるベンゼン,トルエン,キシレンなど芳香族炭化水素の合成にも取り組むことで,多くの化学製品の原料を作りだし,将来的には化石資源由来の製品を全てCO₂由来に変えていきたいと考えています.
おわりに
IHIグループは,CO₂を有価物に変換するカーボンリサイクル技術の開発に取り組んでいます.これにより,化石資源依存から脱却し,化石資源から製造されている全ての燃料や化学原料をCO₂から生産することを目指しています.
IHIグループの研究はまだ実現に向けての途上にありますが,新たな技術開発をつうじて,地球環境を守りながら,人々の生活を支える素材やエネルギーを生みだすことを目指し,日々全力で取り組んでいきます.