てくのすこーぷで視た鉄道向け支障物検知システムの発明
株式会社IHI
技術開発の現場で生まれた「 発明 」は,特許という知的財産になります.今回は,新幹線確認車に搭載して支障物を検知するシステムに関する特許のご紹介です.このシステムは走行中の列車前方の支障物をリアルタイムに検知する移動体センシング技術を用いています.(特許第6464673号)
昨今,ファミリーレストランの配膳ロボットや家庭用のロボット掃除機などの移動する機械を目にするようになりました.その様子をよく見ますと,進行方向に人や物があれば一時停止したり,避けたりと非常に賢い動きをしています.人間の操作を必要とせずに自動で移動する機械には,機械の「目」で支障物を見つけて安全に移動する移動体センシング技術が使われています.
機械の「目」となるセンサー類
センサーには用途に応じて多種多様な種類があります.移動体センシング技術の場合,移動する機械の前方や周囲にある支障物を見つけることが求められるため,カメラや赤外線センサー,三次元レーザレーダ ( 3DLR ) などのセンサーが用いられます.これらセンサーから得られたデータを解析処理することで,センサーを搭載した機械は支障物を検知して移動することができます.
新幹線確認車について
新幹線確認車は,新幹線の運行前に線路周辺の支障物確認を行うことで,日々の新幹線の安全な運行を担う専用車両です.
IHIグループでは,新幹線確認車に搭載する支障物検知システムを開発しています.支障物検知システムは,移動しながらリアルタイムに車両前方の支障物を検知することが求められており,2 台のカメラ(遠距離カメラ・近距離カメラ)と1 台の3DLRをセンサーとして用いています.センサーにより得られたデータから支障物を検知する処理には,物体検出や物体追尾などのアルゴリズムを採用しています.
支障物検知システムの検知方法
支障物検知システムでは,2台のカメラと3DLRが異なるタイミング,異なる精度で独立してデータを取得し,これらの結果を統合することで,前方監視を実現しています.この仕組みについて以下に解説します.
カメラから取得した画像データに対して,画像処理を行うことで支障物の特徴を抽出し物体検出を行います.得られる画像データは二次元情報のみであり,車両から支障物までの距離は直接把握することはできません.そこで,線路の距離・カーブ・傾斜などの軌道情報と,現在の車両の走行位置と照らし合わせることで画像上のレール位置を算出し,支障物のサイズや車両からの距離を推定します.
また,3DLRはレーザ光を用いて支障物の検知を行います.発射したレーザ光が支障物に反射して戻るまでの時間から支障物との距離を計測し,レーザ光の照射位置を立体的に変化させることで三次元の点群情報を取得し,支障物の位置・距離を計測しています.
精度の高い検知を行うために
支障物検知システムでは方式の異なるセンサーとして,カメラおよび3DLRを用いることでお互いの苦手とする状況を補完し検出精度を向上させています.トンネル出口周辺などの明暗差が大きく変化する場合や対向車の照明によりカメラ画像に白飛びが発生する場合には3DLRが,支障物の材質などによりレーザ光が反射しにくい場合にはカメラが支障物を検知します.
さらに,カメラおよび3DLRにより得られたデータに対して,それぞれの誤差モデルを使用することで,統計処理により高精度に支障物を推定します.具体的には,カメラは画像として高分解能,高精度ですが,奥行き方向は低精度です.逆に3DLRは画像として捉えた場合に低分解能ですが,奥行き方向では高精度となります.性質の異なる2 種類のセンサーに対して誤差モデルを用いて統合することで,最終的に高精度に支障物を判定することができます.
しかし,検出した結果を全て支障物として扱うと,過剰な検出となり,支障物検知システムとしては成立しません.そこで,支障物の存在を確率事象として扱うことで,安定性を向上させることができます.例えば,繰り返し検出できた物体の場合は支障物としての確率が高いと判断し,ちらちらとしか検出されない物体は無視します.ここで問題となるのが,移動しながら支障物を見つけようとすると,車両に対する支障物の位置関係は刻一刻と変化することです.これに対し,IHIグループの支障物検知システムでは,検出された支障物の位置を車両の動きに基づいて予測し,その支障物を追尾することができます.このように,移動しながらの追尾の問題を解決しています.
移動体センシング技術とは,誤差のあるセンサーデータを統計や確率を用いて的確に処理して障害物を見つけるもので,安全な運行に欠かせない技術です.IHIグループの支障物検知システムでは,異なる種類の複数のセンサーで得られたデータに対して,誤差モデルを用いた統合処理を行うことで,走行する車両から支障物を安定して検出することを実現しています.
(文責 高度情報マネジメント統括本部セキュリティプロジェクト部)