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未来を切り拓くIHI の挑戦

株式会社IHI   

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IHIは,技術を通じて社会の持続可能な発展と新たな価値創造に挑戦している.本稿では,エネルギー,AI,オペレーショナルテクノロジーといった多岐にわたる分野でIHIが注力する四つの革新技術をご紹介する.これらの技術は,地球規模の課題に応えるとともに次世代の産業基盤を構築するための鍵となる.

株式会社IHI 技術開発本部の公式チャンネル
https://www.youtube.com/@ihi931

天然ガス熱分解とメタネーション技術による脱炭素社会の実現

クリーンエネルギー源として温室効果ガス削減に貢献し,持続可能な脱炭素社会の実現に向けて,水素の直接利用と水素を活用したエネルギー開発が期待されている.IHIは,これに向けて「天然ガス熱分解による水素製造技術」と「メタネーション技術」の開発を行っている.

天然ガス熱分解技術は,メタンに少量の再生可能エネルギーと触媒を使用することで,効率的に水素を生成する(反応式:CH4 = H2 + C − 75 kJ/mol).この技術は,投入エネルギーに対して約6 倍のエネルギーを水素として生成できる.さらに,安価で調達が容易な鉄鉱石を触媒として使用することで,実用性が高い.また,同時に生成された炭素は環境に無害で,水質改善や土壌改質への適用が期待されている.

一方,メタネーション技術は,再生可能エネルギーを利用して生成された水素と二酸化炭素 ( CO₂ ) を反応させてメタンを製造する.このメタンはe-methane(合成メタン)と呼ばれ,既存の都市ガスインフラをそのまま活用することが可能である.さらに,の回収と再利用により,都市ガス燃料の脱炭素化を実現することができる.現在,福島県相馬市でe-methaneを燃料とした地域コミュニティバス「おでかけミニバス」が運行されている.今後も製造量の拡大や他技術との連携を進め,持続可能なエネルギー社会の実現に向けた技術開発を加速していく.

新たな水素製造とメタネーション技術の展開
https://youtu.be/I_L37dz7i_c

機械学習を活用した材料プロセスの効率化と高性能化

近年,世界的に材料の供給不安が増し,国際競争が激化している.IHIでは,長年培ってきた材料プロセスで他社と差別化・差異化を図り,強力な競争力を持つことを目指している.しかし,大量の実験と技術者の経験に頼る従来の最適化方法では,技術者の減少が避けられない現状に対応できず,競争力の衰退を招きかねない.また,設計・製造といったフェーズごとの最適化には時間がかかっていた.そこで,IHIは機械学習を活用したマテリアルズ・インフォマティクス ( MI ) とベイズ最適化をプロセス開発に導入することで,これらの課題を解決しようとしている.MIは,機械学習の応用により膨大な実験をAIが仮想的に行い,最適解を短時間で導きだす手法である.一方,ベイズ最適化は,複数のデータ集合から最適解を探索する手法であり,再現性が高く安定した材料プロセスを短期間で導きだすことが可能である.

これらの技術の導入により,リードタイムの短縮や再現性の向上,歩留まりの良い材料プロセス開発の実現が見込まれる.さらに,IHIグループ内でバリューチェーン全体の効率化を図ることで,競争力が強化される.また,これらの技術は金属に限らず非金属やその組み合わせにも応用が可能である.そして,誰でもMIを活用できるようにUI(ユーザーインターフェース)を整備し,アプリ化を行った.今後は,素材データベースやモノづくりに関わる工程全般の問題解決データベースの構築を目指す.

マテリアルズ・インフォマティクスの活用
https://youtu.be/3teUeijl5AQ

AI技術が進化させる製品やサービスの新たな可能性

IHIでは,製品やサービスの高付加価値化のため,さまざまなAI技術の研究開発に取り組んでいる.まず,プラント運用の省人化・自動化を目指し,AI技術を活用した効率的で最適なプラント運転・保守の実現に向けた技術開発を行っている.具体的には,突発的な変化を予測するための機械学習モデルを作成し,ボイラの蒸気漏えいを検知するシステムを開発した.このシステムでは,実測値補給水流量と機械学習で予測した補給水流量の差を利用して漏えいを検知する.現在,お客さまのプラントに実装を完了し,運用フィードバックを基にさらなる改良を進めている.この技術により,プラント運用の効率化と信頼性向上が期待されている.

住友林業株式会社との合弁会社である株式会社NeXT FORESTにおいて,東京大学と共同で熱帯泥炭地管理のための水理モデルを構築した.熱帯泥炭地は,植物の遺骸が水中で分解されずに堆積した土地であり,地下水位が下がり乾燥すると炭素を多く含む泥炭が分解・消失しやすく,非常に燃えやすい.このため,植林などの事業を行うには地下水位管理が極めて重要である.AI技術を活用して水理モデルの精度と実行速度を向上させ,現地となるインドネシアなどでの運用に適したツール化を目指している.また,熱帯泥炭地の水路運用やダム配置の検討にも応用展開を図っている.この取り組みにより,熱帯泥炭地の持続可能な管理と温室効果ガス排出削減に貢献することが期待されている.

AIがもたらすイノベーション
https://youtu.be/dCMS2vohqG0

オペレーショナルテクノロジーによる物流現場の変革

倉庫や荷役に係る物流の現場では,人材確保難による労働力の不足,E コマースの拡大,消費者ニーズの多様化,商品ライフサイクルの短期化など,市場や需要の拡大とともに急速な変化への対応が求められている.このようなニーズに対して,自律走行搬送ロボット ( AMR ) の開発や普及によるソリューション提供が始まりつつあるが,解決すべき技術的な課題が多い.

IHIは,AMRの技術的な課題を克服するため,オペレーショナルテクノロジーを活用し,「拡張性」,「可用性」,「柔軟性」,「相互運用性」,「安全性」の五つの項目をバランスよく両立するAMRシステムの開発を進めている.現在,ROS2 ( Robot Operating System Ver. 2 ) などのオープンソースソフトウェア技術を積極的に活用しながら,群制御アルゴリズムや障害物検知センシング,自己位置推定センシングなどの要素技術の開発と評価を実施している.さらに,5 ~10 台規模のAMR試作機による動作確認試験と,シミュレーションによる100 台規模の検証も進めている.将来的には,自動倉庫システムと統合し,群制御プラットフォームとしてインテグレートしたAMRによる高効率な物流システムの提供を目指す.また,機能安全のためのセンシング・制御技術やロボットの群管理・群制御技術を統合し,物流に限らず社会課題解決のためのロボティクスソリューションの提供を目指し,技術開発を進めていく.

(文責:技術企画部)

ロボットの群制御技術の開発
https://youtu.be/n5MbWXcJ5Zc