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第64巻 第2号(2024年12月発行)
特集 持続可能な未来を支えるエネルギーとスマート技術

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表紙デザイン

東北芸術工科大学 グラフィックデザイン学科
久々宮 帆華 氏

IHIが長年にわたり培ってきた伝統と技術の力強さを具現化するシンボルとしてエネルギーの化身である鳳凰をモチーフに採用しました.力強く羽ばたく鳳凰は,IHIが創り出す持続可能なエネルギーが,私たちの暮らしをより良い未来へと導いていく様相を象徴しています.

IHIは東北芸術工科大学(TUAD)と締結したビジネスパートナー協定に基づき,IHI&TUAD産学共創プロジェクトを進めております.

巻頭言

特集「持続可能な未来を支えるエネルギーとスマート技術」発刊によせて

  • 執行役員 営業統括本部長
  • 田畑 正太朗

特集 持続可能な未来を支えるエネルギーとスマート技術

Cover Message

未来を切り拓くIHI の挑戦

特集記事 記事1

商用発電所でのアンモニア燃焼実証試験成功!
碧南火力発電所4号機でのアンモニア20%燃焼実証試験結果

  • 株式会社IHI

IHIグループは,燃焼させても二酸化炭素(CO₂)を排出しないアンモニアを火力発電のカーボンニュートラル化の有効な手段と捉え,微粉炭焚きボイラやガスタービンの燃料として導入する取り組みを進めている.アンモニアの特性により安定かつ低窒素酸化物(NOx)燃焼が課題となり,これを克服するための燃焼技術の開発を行ってきた.その集大成として,碧南火力4号機でのアンモニア20%燃焼実証試験を成功裏に完了し,社会実装への第一歩を踏みだした.


特集記事 記事2

-160℃のLNG冷熱でCO2を削減する
世界最大規模のLNG冷熱発電設備を納入

  • 株式会社IHIプラント

株式会社IHIプラント(IPC)は,中国,上海液化天然気有限責任公司向けにLNG冷熱発電設備を納入した.中国では1号機となる本設備の導入により,CO₂の排出量を年間最大1万t削減することが可能となった.本稿では,冷熱発電プロジェクトの概要と納入した設備仕様を紹介するとともに,プロジェクトを通して得られた知見およびその運転実績を紹介する.


特集記事 記事3

太陽光を無駄なく利用する再エネ熱利用システム
余剰の直流電力をフル活用して,カーボンフリー蒸気を生成

  • 株式会社IHI

太陽光発電所の余剰電力として,需給アンバランスに伴って発生するものの他に,過積載と呼ばれる成分が存在する.これらはいずれも,太陽電池が発電する直流成分のまま,交流変換されることなく,未利用電源となっている.この直流成分を熱変換し蓄熱・利用することにより,未利用電源の利用を促進する技術を紹介する.

特集記事 記事4

配水管理を経験と勘からデータに基づく管理に変革
農業用水の管理を適正化する配水支援ツール「配水マイスター®」

  • 株式会社IHI

IHIが開発した配水マイスターは,水田エリアにおける支線単位での配水の不均等量を可視化し,不均等状態を解消する方法を提示するツールである.管理者は,このツールで導き出された結果を使用して,農業用水の配水を適正化し,水の無駄を削減することができる.


特集記事 記事5

高度化したAIによるダウンタイム削減
機械の異常を早期に検知し,適切な対策を提示する故障予兆検知システムおよび異音検知システムの開発

  • IHI運搬機械株式会社

IHI運搬機械株式会社(IUK)では,AI技術を活用して,機械の故障予兆や異常を早期に検知し,原因解析に基づく適切な対策をタイムリーにユーザーに提示するシステムの開発に取り組んでいる.このシステムは,機械のダウンタイム(稼働できない期間)の削減に貢献する.

てくのすこーぷ

てくのすこーぷで視たアンモニア燃焼利用技術の発明

特集論文および工事報告

特集記事 技術論文1

水素およびアンモニアガス製造プロセスの化学的判別

  • 室伏祥子,中居真之介,神戸貴史,高橋克巳

現在,気候変動対策として,燃焼時に二酸化炭素を発生しないアンモニアが次世代燃料として注目されている.この燃料アンモニア普及に向け,そのバリューチェーン(製造,供給,利用)構築に向けた各種技術開発が進められている.その製造プロセスにおいて二酸化炭素の発生がないグリーンアンモニアは環境性が高いため,特に普及が望まれる.そのため,グリーンアンモニアとそれ以外のアンモニアを化学的に判別する技術は,グリーンアンモニアの環境価値保証や流通経路の透明性確保に寄与し,グリーンアンモニア普及の一助となる.そこで,アンモニア製造プロセスの違いにより変化する水素同位体比に着目し,その化学的分析方法がアンモニア製造プロセス判別に適用可能か検討を行った.その結果,アンモニア原料である水素が製造プロセスの違いにより,同位体比に差異が生じることを確認した.続いて合成されるアンモニアにも水素同位体比分析技術を用いた本化学的判別技術が適用できる見込みを得た.本稿では,当該技術の概要と分析結果を含む取組状況を説明する.


特集記事 技術論文2

プラント稼働データを活用した運転効率向上手法

  • 茂木 悠佑,松田 一真,鈴木 由宇,河野 幸弘

IHIでは,設備の稼働データの活用に取り組んでおり,この一環としてMT法(Mahalanobis Taguchi method)を用いたデータ分析も実施している.一般的なMT法は,正常状態は一つの群(単位空間)を成すという前提のもと,「正常」と「正常以外」の1クラス分類を行う手法である.このため,設備の動作モードや外気温など動作環境の変化によって「正常」状態が変化する場合は,誤検知や未検知を生じることがある.この問題に対応するため,時々刻々と動作環境が変化する設備であっても,その環境に適した正常データ群を動的に選ぶことによって高い精度で分類を行うことができる動的単位空間を用いたMT法(以下,動的MT法)を開発した.本稿では,この動的MT法を応用し,発電プラントや生産設備の運転効率の向上を実現する手法の概要と模擬データを用いた検証結果を紹介する.

特集記事 技術論文3

宇宙太陽光発電実現に向けた発送電一体型パネル地上評価モデルの開発

  • 小川誠仁,田中直浩,小澤雄一郎

天候や昼夜の影響を受けない宇宙空間で,温室効果ガスを発生しない太陽光発電を行い,得た電力を地球上へ無線送電することで,安定かつクリーンな電力を得ることが可能な宇宙太陽光発電システム(SSPS)に関する研究が世界中で進められている.株式会社IHIエアロスペースはSSPS実現に向け,日本における研究開発の初期の段階から継続的に携わってきた.その一環として,地上実証の次のステップとして計画されている低軌道(LEO)宇宙実証に向け,発電と送電の両方の役割を担う発送電一体型パネル地上試験用動作モデルの開発と評価を行い,目標どおりの機能・性能を実現していることを確認した.本成果により宇宙実証機開発開始に向けてフェーズを進めることに貢献した.

特集記事 工事報告1

八代バイオマス発電所建設と今後20年間のO&M —ITやIoT技術を用いた有効データ活用—

  • 田之上辰朗,細沼伸司,渡部芳和,伊藤和彦,前川一史

八代バイオマス発電所はカーボンニュートラルなエネルギー資源である木質ペレットや木質チップを燃料とした発電出力75,000kWの木質バイオマス専焼発電プラントである.設計,調達,建設業務を請け負うEPC工事が完了し,今後20年間にわたる運転・保守業務を開始した.本稿では,発電所建設工事における取組みおよび今後の運転・保守業務であるO&M事業における課題とその展望について報告する.

特集記事 工事報告2

「小型メタネーション装置」を用いた実証設備の導入
— バイオガス由来のCO2 を活用したe-methane 製造および国内初の都市ガス原料への利用 —

  • 諏訪部 巨斗,福島 直美,矢野 明久,遠藤 巧

カーボンニュートラルに向けたソリューションとしてIHIはメタネーションによるe-methane製造技術の確立,実装に取り組んでいる.お客さまのメタネーション実証試験の推進を目的に,小型メタネーション装置(e-methane製造量:12.5Nm3/h)の販売拡大を行っている.また,運転データを用いて,設備の運転状況のリモートモニタリングや環境価値管理ができるMEDICUS NAVI®の導入も推進している.本稿では小型メタネーション装置および周辺機器を納入し,MEDICUS NAVIを導入した工事について報告する.

箸休め

賢者の石とIHI

  • 技術開発本部 材料・構造技術部
  • 吉澤廣喜

記事

記事1 我が社のいち押し製品・技術

伝統機種の未来を切り開く
— XR や3D デジタルツイン技術で新たな価値を —

  • IHI 運搬機械株式会社

IHI運搬機械株式会社では,以前より3D-CADの活用範囲を広げる取り組みを行っている.近年は,3D設計モデルを基盤とし,XR(エクステンデッドリアリティ)や3Dデジタルツインなどの最新技術を組み合わせることで,設計・製造・販売・運用といった製品ライフサイクル全体に革新をもたらそうとしている.

技術論文および解説

技術論文1

製鋼スラグからの黄リン製造における低温化プロセスの検討

  • 岸田拓也,室伏祥子,望月恭輔

工業上重要資源である黄リンはその供給をすべて輸入に頼っており,安定供給のため国内製造が望まれる.しかし,①日本国内では原料となるリン鉱石が採掘できないこと,②リン鉱石を含むさまざまなリン資源からリンを回収しようとすると従来法では莫大な消費電力が必要であること,この2点が課題である.この課題解決のため,国内最大の未利用リン資源である製鋼スラグを原料とし,シリコン(ケイ素,Si)を還元剤として従来法より低温条件での黄リン生成方法を検討した.還元剤として従来法のコークス(C)に代えてシリコン(Si)を用いることで1,273Kの低い温度条件で,スラグからのリンの脱離が確認できた.また,表面分析(SEM-EDS,元素分析)により,本低温化プロセスにおける,スラグ中のリン酸(P2O5)がSiの拡散により還元されるメカニズムを検討した.

技術論文2

ジオポリマーコンクリート「セメノン®」の開発

  • 聶 菁,吉田有希,木作友亮,鈴木広也,井川舜也

土木・建築分野のカーボンニュートラル実現に向けて,CO2排出量を大幅に削減できるジオポリマーが注目されている.IHIグループでは,ジオポリマーコンクリート「セメノン」を開発し,機械的性質(強度,静弾性係数,線膨張係数),施工に関連する性質(流動性,空気量),耐久性に関連する性質(マクロ組織,pH,耐酸性,透水性)などを把握してきた.構造物への適用に向けた下水道シールドセグメントの試作では,鋼製型枠への付着に注意すれば製作に大きな問題はないことが分かった.また,静的4点曲げ載荷試験では,セメントコンクリートと同等の構造性能が得られることを確認した.

技術論文3

H3ロケット1段エンジンLE-9ターボポンプの開発

  • 本村泰一,三原 礼,鈴木啓介,四宮教行

LE-9エンジンは,高い信頼性および性能と低コストを武器に,衛星打上げ市場への参入を目指して開発中のH3ロケットの1段用液体酸素・液体水素エンジンである.LE-9エンジンの開発は,暫定的な仕様での実運用を行いながら最終的な開発目標を達成する計画となっている.H3ロケットは2024年2月に暫定的な仕様のLE-9エンジンを搭載した試験飛行2号機の打上げに成功した.LE-9エンジンの推力はH-ⅡAロケットの1段用LE-7Aエンジンの1.4倍弱となる1,500kNレベルであるが,低コスト化のためにエンジンサイクルとしては2段燃焼サイクルからエキスパンダブリードサイクルに変更されている.そのため,ターボポンプとしては設計仕様が大きく異なり,タービンの翼振動を含むさまざまな技術課題に直面している.本稿では,LE-9エンジン用ターボポンプの設計仕様や技術的特徴と開発の状況について説明する.

技術論文4

航空機電動化とハイブリッド電動推進の技術開発

  • 関 直喜,蛭間 厚,小林敏和

2050年の航空輸送脱炭素化を達成するために,航空産業はあらゆる選択肢を追求する必要があり,よりエネルギー効率の高いシステム導入が不可欠である.その手法の一つが航空機の電動化であり,IHIは,経済産業省が造成したグリーンイノベーション基金事業として,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け,ハイブリッド電動推進と航空機システムの電動化についての研究開発を行っている.本稿では,IHIにおける航空機電動化システムの開発に関するコンセプト,期待される効果,技術的課題,ならびにIHIの強みである高耐熱技術および高速回転機械技術を活かした技術開発の取組みについて述べる.


技術論文5

CMCへのSiC高速成膜プロセスの開発

  • 久保田渉,田中康智,福島康之,小谷正浩

セラミックス基複合材料(CMC)は,軽量性と優れた高温特性を有することから,航空機エンジンの高温部材などへの適用が望まれている.CMCの母材(マトリックス)を形成するプロセスの一つである,化学気相含浸(CVI)プロセスはSiCマトリックスに優れた高温特性を付与するが,プロセス時間が長いことが問題である.本研究では,従来のCVIとは異なる反応メカニズムを利用した高速成膜が可能なCVIプロセスを開発し,CVIプロセスとして必要な機能について評価を行った.その結果,高い成膜速度を持ちながら成膜均一性を維持する条件を確立し,膜の結晶性,組成およびCMCの力学特性において良好な結果が得られた.


技術解説1

微小サンプルによる材料評価技術

  • 中原庸裕,木村尭弘

微小サンプルを用いた材料評価技術は,原子力・火力発電プラントの劣化評価から始まり,溶接継手や生体材料の評価など多様な産業分野へと応用されている.特に,スモールパンチ試験は,微小サンプルからの試験片の加工が比較的容易であり,さまざまな機械特性の評価に有効である.本稿では,スモールパンチ試験の手法,基本原理,および有用性を概説する.