第64巻 第2号(2024年12月発行)
特集 持続可能な未来を支えるエネルギーとスマート技術

表紙デザイン
東北芸術工科大学 グラフィックデザイン学科
久々宮 帆華 氏
IHIが長年にわたり培ってきた伝統と技術の力強さを具現化するシンボルとしてエネルギーの化身である鳳凰をモチーフに採用しました.力強く羽ばたく鳳凰は,IHIが創り出す持続可能なエネルギーが,私たちの暮らしをより良い未来へと導いていく様相を象徴しています.
IHIは東北芸術工科大学(TUAD)と締結したビジネスパートナー協定に基づき,IHI&TUAD産学共創プロジェクトを進めております.
巻頭言
特集 持続可能な未来を支えるエネルギーとスマート技術
Cover Message
特集記事 記事1
特集記事 記事2
特集記事 記事3
特集記事 記事4
特集記事 記事5
てくのすこーぷ
特集論文および工事報告
特集記事 技術論文1

水素およびアンモニアガス製造プロセスの化学的判別
- 室伏祥子,中居真之介,神戸貴史,高橋克巳
現在,気候変動対策として,燃焼時に二酸化炭素を発生しないアンモニアが次世代燃料として注目されている.この燃料アンモニア普及に向け,そのバリューチェーン(製造,供給,利用)構築に向けた各種技術開発が進められている.その製造プロセスにおいて二酸化炭素の発生がないグリーンアンモニアは環境性が高いため,特に普及が望まれる.そのため,グリーンアンモニアとそれ以外のアンモニアを化学的に判別する技術は,グリーンアンモニアの環境価値保証や流通経路の透明性確保に寄与し,グリーンアンモニア普及の一助となる.そこで,アンモニア製造プロセスの違いにより変化する水素同位体比に着目し,その化学的分析方法がアンモニア製造プロセス判別に適用可能か検討を行った.その結果,アンモニア原料である水素が製造プロセスの違いにより,同位体比に差異が生じることを確認した.続いて合成されるアンモニアにも水素同位体比分析技術を用いた本化学的判別技術が適用できる見込みを得た.本稿では,当該技術の概要と分析結果を含む取組状況を説明する.
特集記事 技術論文2

プラント稼働データを活用した運転効率向上手法
- 茂木 悠佑,松田 一真,鈴木 由宇,河野 幸弘
IHIでは,設備の稼働データの活用に取り組んでおり,この一環としてMT法(Mahalanobis Taguchi method)を用いたデータ分析も実施している.一般的なMT法は,正常状態は一つの群(単位空間)を成すという前提のもと,「正常」と「正常以外」の1クラス分類を行う手法である.このため,設備の動作モードや外気温など動作環境の変化によって「正常」状態が変化する場合は,誤検知や未検知を生じることがある.この問題に対応するため,時々刻々と動作環境が変化する設備であっても,その環境に適した正常データ群を動的に選ぶことによって高い精度で分類を行うことができる動的単位空間を用いたMT法(以下,動的MT法)を開発した.本稿では,この動的MT法を応用し,発電プラントや生産設備の運転効率の向上を実現する手法の概要と模擬データを用いた検証結果を紹介する.
特集記事 技術論文3

宇宙太陽光発電実現に向けた発送電一体型パネル地上評価モデルの開発
- 小川誠仁,田中直浩,小澤雄一郎
天候や昼夜の影響を受けない宇宙空間で,温室効果ガスを発生しない太陽光発電を行い,得た電力を地球上へ無線送電することで,安定かつクリーンな電力を得ることが可能な宇宙太陽光発電システム(SSPS)に関する研究が世界中で進められている.株式会社IHIエアロスペースはSSPS実現に向け,日本における研究開発の初期の段階から継続的に携わってきた.その一環として,地上実証の次のステップとして計画されている低軌道(LEO)宇宙実証に向け,発電と送電の両方の役割を担う発送電一体型パネル地上試験用動作モデルの開発と評価を行い,目標どおりの機能・性能を実現していることを確認した.本成果により宇宙実証機開発開始に向けてフェーズを進めることに貢献した.
特集記事 工事報告1
特集記事 工事報告2

「小型メタネーション装置」を用いた実証設備の導入
— バイオガス由来のCO2 を活用したe-methane 製造および国内初の都市ガス原料への利用 —
箸休め
記事
記事1 我が社のいち押し製品・技術
技術論文および解説
技術論文1

製鋼スラグからの黄リン製造における低温化プロセスの検討
- 岸田拓也,室伏祥子,望月恭輔
工業上重要資源である黄リンはその供給をすべて輸入に頼っており,安定供給のため国内製造が望まれる.しかし,①日本国内では原料となるリン鉱石が採掘できないこと,②リン鉱石を含むさまざまなリン資源からリンを回収しようとすると従来法では莫大な消費電力が必要であること,この2点が課題である.この課題解決のため,国内最大の未利用リン資源である製鋼スラグを原料とし,シリコン(ケイ素,Si)を還元剤として従来法より低温条件での黄リン生成方法を検討した.還元剤として従来法のコークス(C)に代えてシリコン(Si)を用いることで1,273Kの低い温度条件で,スラグからのリンの脱離が確認できた.また,表面分析(SEM-EDS,元素分析)により,本低温化プロセスにおける,スラグ中のリン酸(P2O5)がSiの拡散により還元されるメカニズムを検討した.
技術論文2

ジオポリマーコンクリート「セメノン®」の開発
- 聶 菁,吉田有希,木作友亮,鈴木広也,井川舜也
土木・建築分野のカーボンニュートラル実現に向けて,CO2排出量を大幅に削減できるジオポリマーが注目されている.IHIグループでは,ジオポリマーコンクリート「セメノン」を開発し,機械的性質(強度,静弾性係数,線膨張係数),施工に関連する性質(流動性,空気量),耐久性に関連する性質(マクロ組織,pH,耐酸性,透水性)などを把握してきた.構造物への適用に向けた下水道シールドセグメントの試作では,鋼製型枠への付着に注意すれば製作に大きな問題はないことが分かった.また,静的4点曲げ載荷試験では,セメントコンクリートと同等の構造性能が得られることを確認した.
技術論文3

H3ロケット1段エンジンLE-9ターボポンプの開発
- 本村泰一,三原 礼,鈴木啓介,四宮教行
LE-9エンジンは,高い信頼性および性能と低コストを武器に,衛星打上げ市場への参入を目指して開発中のH3ロケットの1段用液体酸素・液体水素エンジンである.LE-9エンジンの開発は,暫定的な仕様での実運用を行いながら最終的な開発目標を達成する計画となっている.H3ロケットは2024年2月に暫定的な仕様のLE-9エンジンを搭載した試験飛行2号機の打上げに成功した.LE-9エンジンの推力はH-ⅡAロケットの1段用LE-7Aエンジンの1.4倍弱となる1,500kNレベルであるが,低コスト化のためにエンジンサイクルとしては2段燃焼サイクルからエキスパンダブリードサイクルに変更されている.そのため,ターボポンプとしては設計仕様が大きく異なり,タービンの翼振動を含むさまざまな技術課題に直面している.本稿では,LE-9エンジン用ターボポンプの設計仕様や技術的特徴と開発の状況について説明する.
技術論文4

航空機電動化とハイブリッド電動推進の技術開発
- 関 直喜,蛭間 厚,小林敏和
2050年の航空輸送脱炭素化を達成するために,航空産業はあらゆる選択肢を追求する必要があり,よりエネルギー効率の高いシステム導入が不可欠である.その手法の一つが航空機の電動化であり,IHIは,経済産業省が造成したグリーンイノベーション基金事業として,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け,ハイブリッド電動推進と航空機システムの電動化についての研究開発を行っている.本稿では,IHIにおける航空機電動化システムの開発に関するコンセプト,期待される効果,技術的課題,ならびにIHIの強みである高耐熱技術および高速回転機械技術を活かした技術開発の取組みについて述べる.
技術論文5

CMCへのSiC高速成膜プロセスの開発
- 久保田渉,田中康智,福島康之,小谷正浩
セラミックス基複合材料(CMC)は,軽量性と優れた高温特性を有することから,航空機エンジンの高温部材などへの適用が望まれている.CMCの母材(マトリックス)を形成するプロセスの一つである,化学気相含浸(CVI)プロセスはSiCマトリックスに優れた高温特性を付与するが,プロセス時間が長いことが問題である.本研究では,従来のCVIとは異なる反応メカニズムを利用した高速成膜が可能なCVIプロセスを開発し,CVIプロセスとして必要な機能について評価を行った.その結果,高い成膜速度を持ちながら成膜均一性を維持する条件を確立し,膜の結晶性,組成およびCMCの力学特性において良好な結果が得られた.