ジオポリマーコンクリート「セメノン®」の開発
聶 菁,吉田有希,木作友亮,鈴木広也,井川舜也

聶 菁 技術開発本部技術基盤センター材料・構造技術部
吉田 有希 技術開発本部技術基盤センター材料・構造技術部
木作 友亮 技術開発本部技術基盤センター材料・構造技術部 主査 博士(工学) 技術士(建設部門)
鈴木 広也 株式会社IHI建材工業 技術本部開発部 課長
井川 舜也 株式会社IHI建材工業 技術本部開発部
土木・建築分野のカーボンニュートラル実現に向けて,CO2排出量を大幅に削減できるジオポリマーが注目されている.IHIグループでは,ジオポリマーコンクリート「セメノン」を開発し,機械的性質(強度,静弾性係数,線膨張係数),施工に関連する性質(流動性,空気量),耐久性に関連する性質(マクロ組織,pH,耐酸性,透水性)などを把握してきた.構造物への適用に向けた下水道シールドセグメントの試作では,鋼製型枠への付着に注意すれば製作に大きな問題はないことが分かった.また,静的4 点曲げ載荷試験では,セメントコンクリートと同等の構造性能が得られることを確認した.
In recent years, geopolymer has drawn attention for its significant reduction of CO₂ emissions, which contributes to the achievement of the carbon neutrality in civil engineering and architecture fields. The IHI Group has developed its own geopolymer concrete “CEMENON” and has determined its mechanical properties (strength, elastic modulus, and thermal expansion coefficient), properties related to casting (fluidity and air content), and durability indicators (macrostructure, pH, acid resistance, and water permeability). Regarding the structural applications, a full-scale prototype of shield segment was manufactured, and no major problems were found in the manufacturing process, while attention to reduce high adhesive strength between geopolymer and formwork. Static four-point bending test on the shield segment revealed that geopolymer concrete provides equivalent structural performance to that of cement concrete.
1. 緒言
1.1 背景
2050 年ごろまでに,温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル目標に向けて,各国の動きが加速している.これに関連して土木・建築分野では,セメント製造で石灰石を高温焼成する際に大量の二酸化炭素 ( CO₂ ) が排出されることが問題となっている.そのため,カーボンニュートラルに寄与するコンクリートの開発競争が激しくなっている.例として,セメントの一部を産業副産物である高炉スラグ微粉末やフライアッシュに置換した環境配慮型コンクリート ( 1 ),CO₂を固定化したカーボンネガティブコンクリート ( 2 ),CCU ( Carbon dioxide Capture and Utilization ) やCCUS ( Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage ) 技術を活用したコンクリート ( 3 ) が挙げられる.そうした中で,セメントコンクリートと同等以上の性質を持つジオポリマーコンクリートが近年注目されている.
ジオポリマーは,アルミナシリカ粉末(活性フィラー)とアルカリ溶液の縮重合反応で生じる非晶質のポリマー固化体の総称であり,1988 年にフランスの材料技術者Davidovitsによって発明された.本研究では,ペーストマトリックスをジオポリマーペースト ( GPP ) と略し,GPPに細骨材(砂)を加えたものをジオポリマーモルタル ( GPM ),粗骨材(砂利)と細骨材の両方を含むものをジオポリマーコンクリート ( GPC ) と呼ぶことにする.第1図にセメントコンクリートとジオポリマーコンクリートの主要材料を示す.ジオポリマーの反応機構を第2図に示す.ジオポリマー中のアルカリ成分が,アルミナシリケートの化学結合を切断し,けい素やアルミニウムを含むモノマーが生成される.これらのモノマーが,脱水縮重合反応時にカリウムやナトリウムを取り込み,ネットワークを形成してジオポリマー硬化体となる ( 4 ) ~ ( 6 ).ジオポリマーは,全くセメントを使用しない新たな脱炭素新材料として,土木・建築分野への活用が期待される.


GPCは,すでに実構造物への適用事例がある.オーストラリアのクイーンズランド大学内に建てられたGCI buildingは,主要構造部材としてGPCを使用した世界初の事例である ( 7 ).同国には,50,000 m2超の空港滑走路,排水溝,排水タンク,傾斜パネル,フーチングなど,さまざまな使用実績があり,炭素排出量の大幅削減に貢献している ( 7 ).オーストラリア,マレーシア,ドイツにおいて,トンネルセグメントの製造試験に成功したことが報告されている ( 7 ).硫酸による化学的浸食が問題になる下水道施設においては,コンクリートに比べて耐酸性が優れるGPCの適用が向いており,そうした提案も実際になされているようである ( 7 ).ただしGPCは,長い歴史を有するセメントコンクリートに比べて,技術的な知見が限定的である.本研究では,IHIグループで開発したGPCが,セメントコンクリートの代替材料として,構造物に適用可能であるかを確認することを目的とする.まずは,GPCとセメントコンクリートの材料物性の差異を把握する.次に,下水道シールドセグメントを対象とし,載荷試験によってGPCの構造性能を確認する.
1.2 「セメノン」の開発体制
IHIグループは,アドバンエンジ株式会社,国立大学法人横浜国立大学との共同研究で,独自のGPC「セメノン」を開発した ( 8 ).セメントを全く使用しないことから,材料の名称を「セメノン」と命名し,独自のキャラクターも考案した(商標登録第6776860号).第3図にキャラクターの「セメノン」を示す.現在,特に国内においては,フライアッシュと高炉スラグ微粉末をベースとしたGPCが主流となっている ( 9 ).セメノンは,メタカオリンを主要な活性フィラーとしており,カルシウムをほとんど含まないことから耐酸性の向上が期待される.

2. 試験評価
2.1 セメノンの材料特性試験
2.1.1 強度
セメノンは,適切な使用材料,配合比率,養生条件などを選定することで100 N/mm2程度の圧縮強度が得られることから,土木・建築構造物の一般的な設計基準強度の範囲を網羅できる.また,硬化メカニズムの違いから,セメノンはセメントコンクリートとは異なる変形特性を示す.これまでにIHIグループが収集したセメノンの圧縮強度と静弾性係数のデータを第4図に示す.第4図には,公益社団法人土木学会が発行したコンクリート標準示方書 ( 10 ) に掲載されているセメントコンクリートの圧縮強度と静弾性係数の関係も併記した.セメノンにおいては,静弾性係数がセメントコンクリートよりも小さく,圧縮強度と静弾性係数との間に線形関係が認められることが明らかとなった.

2.1.2 フレッシュ性状
練り上がった硬化前の状態(フレッシュ状態)のセメノンの性質を確認するため,流動性(正確にはコンシステンシー)の代表指標であるスランプおよびスランプフローと空気量を測定した.コンクリートを詰めた高さ300 mmのスランプコーンを引き抜き,コンクリート頂端が下がった距離のことをスランプと呼ぶ.スランプの計測が難しい流動性の高いコンクリートは,円形に広がったコンクリートの直径(スランプフロー)を計測する.第5図に示すように,セメノンは中流動セメントコンクリートと同等の流動性(スランプ24.5 cm,スランプフロー390 mm)を有していた.本配合は,コンクリートの凍結による劣化のリスクが低い地中構造物への適用に向けたものであり,微細な空気泡を連行して凍結による劣化への抵抗性を高めるAE ( Air Entraining ) 剤は使用していない.計測した空気量は1.9%であり,AE剤を使用しないセメントコンクリートと同程度の空気量であった.

2.1.3 耐酸性
材料の耐酸性を評価するため,下水道コンクリート構造物の評価基準 ( 11 ) に基づき,セメノンとセメントコンクリートの円柱供試体(φ100 × 200 mm,各3体)を5%硫酸水溶液に112 日間浸漬(せき)し,侵食による質量変化率を測定した.セメントコンクリートの供試体は,硫酸による浸食速度が大きく,3 体の平均質量減少率は47.7%であった.一方,セメノンの質量減少率は3.4%と僅かであり,セメントコンクリートに比べ約14 倍高い耐酸性を有することが確認できた.第6図に耐酸性の比較を示す.

2.1.4 線膨張係数
温度変化に応じたセメノン内部のひずみを計測することにより,線膨張係数を算出した.具体的には,材料の膨張・収縮に伴う圧力や摩擦抵抗を低減するため,内部にフッ素樹脂シートとポリスチレンフォームを貼り付けた角型の鋼製型枠 ( 100 × 100 × 400 mm ) を用意し,中央部に埋込み型ひずみゲージを配置してセメノンを打設した.硬化後に雰囲気温度を20℃から70℃の範囲で変化させ,昇温時における硬化体の内部温度とひずみとの関係から線膨張係数を求めた.ジオポリマーコンクリートの線膨張係数は,9.5 µ/℃であり,一般的なセメントコンクリートの10 µ/℃と同程度もしくは僅かに小さい結果を示した.
2.1.5 pH
一般的なセメントコンクリートのpHは12 ~13 ( 12 ) であり,アルカリ環境下であることから,鉄筋の表面に不動態被膜が形成されて鉄筋の発錆(はっせい)が抑制される.セメノンを構造物に適用する場合,セメントコンクリートと同様に,鉄筋で補強することが想定されることから,鉄筋保護の観点でジオポリマーのpHを測定した.セメノンペーストとセメントペースト(水セメント比46%)の硬化体を75 µm以下の粒径に粉砕し,固液比1:1の割合で純水を加えて液相をpH計で測定した.セメントペーストのpHが13.4であったのに対して,セメノンペーストのpHは13.1であり,セメノンペーストのpHはおおむねセメントペーストと同程度であることが分かった.
2.1.6 マクロ組織
セメノンのマクロ組織を理解するため,円柱供試体 ( φ100 × 200 mm ) を縦方向に切断し,セメントコンクリートと共に切断面をデジタルマイクロスコープで観察した.切断面は,鏡面研磨した後に赤染料を塗布してから溶剤で拭き取ることにより,欠陥部を染色した.観察対象は,スランプ8.0 ~12.0 cmの普通セメントコンクリート(単位水量155 kg/m3,水セメント比62%),スランプ21.0 cm程度の中流動セメントコンクリート(単位水量170 kg/m3,水セメント比46%),セメノンの3 種類とした.セメントコンクリートでは,単位水量や水セメント比が骨材周囲の状態に影響を及ぼす.そこで本試験では,実際の普通セメントコンクリートと中流動セメントコンクリートの配合は工場などの実績から決定した.各供試体を拡大倍率500 倍で観察した結果を第7図に示す.普通セメントコンクリートでは,気泡や骨材を結ぶようなひび割れが認められ,気泡内部にも多数のひび割れが発生していた.コンクリートは,材料密度の違いによって,骨材の沈降や水の浮上(「ブリーディング」と呼ばれる)が発生する.骨材の下面には,浮上した水がたまりやすく,空隙を形成することがある.中流動セメントコンクリートの供試体は,相対的にひび割れは少なかったが,ブリーディングや遷移帯の影響による骨材周囲の欠陥が観察された.一方,本研究の観察方法と拡大倍率の範囲においては,セメノンのペースト部,骨材周囲,気泡周辺に欠陥や脆弱(ぜいじゃく)部は確認できず,均一なペーストマトリックスが形成されていた.一宮ら ( 13 ) は,同様な材料とGPMの細孔分布を比較し,GPMの最頻値の細孔径はセメント系モルタルより小さいが,GPMの細孔容積合計は必ずしも少なくないことを示す実験データを提示している.このことから,マクロ組織の観察だけで,セメノンの物質透過性が低いと断定することはできない.

2.1.7 透水性
セメノン組織の緻密性を間接的に確認するため,透水試験でセメノンと中流動セメントコンクリートの透水性を比較した.水の浸透深さと加圧条件から透水係数を求めるインプット法を採用し,5.0 kg/cm2の水圧を2 時間加えた.コンクリートの拡散係数は58.9 × 104 cm/s2であったのに対し,セメノンは12.5 × 104 cm/s2であり,コンクリートの1/5程度であった.割裂後の供試体断面を第8図に示す.コンクリートでは,骨材周囲などで局所的に深く浸透する領域が確認されたが,セメノンの浸透深さは場所によらず一定であった.これらの結果から,セメノンにはセメントコンクリートと同程度の骨材周囲の欠陥はなく,透水性は低いことが示された.

2.1.8 付着強度(金属)
セメノンの補強材として鉄筋を使用する場合,セメノンと鉄筋の付着強度が重要となる.そこで,セメノンと鋼板界面の付着強度を建研式接着力試験器で測定した.その結果,セメノンと鋼板との界面(引張)付着強度は4.97 N/mm2であった.セメント系材料の場合は,付着強度を得やすいポリマーセメントモルタルとコンクリート界面の場合でも,付着強度は2.0 N/mm2程度である ( 14 ).セメノンの付着強度は,セメント系材料よりも高い傾向にあり,セメノン内では鉄筋の重ね継手長さを短くできる可能性がある.一方で,鋼製型枠を用いてセメノンの2 次製品を製作する場合,この高い付着強度が障害となるため,適切な剥離剤を選定することが重要である.鋼板に種々の剥離剤を塗布し,セメノンとの界面付着強度を同様に測定した結果,鉱物油系の剥離剤で界面付着強度を3.80 N/mm2まで抑制でき,塗膜系の剥離剤を用いることで0.19 N/mm2まで低下することを確認した.
2.2 下水道シールドセグメントの静的4 点曲げ載荷試験
2.2.1 試験概要
セメントコンクリートと材料特性が異なるセメノンは,一般的なRC構造の評価手法を適用できるとは限らない.そこで,第9図に示すシールド工事用の標準セグメント ( 15 ) を試作し,静的4 点曲げ載荷試験を実施した.本試験では,構造物の耐力,変形特性,ひび割れの発生状況に注目した.試験体の長さは1,976 mm,幅は1,000 mm,有効高さは105 mmである.

2.2.2 材料特性
セメノンのフレッシュ性状の試験結果は2. 1. 2 項に示したとおりであり,良好な流動性(スランプ24.5 cm)を有しており,空気量(1.9%)も一般的な値であった.載荷試験日(材齢16 日)の圧縮強度平均値は73.1 N/mm2,静弾性係数は26.8 N/mm2,割裂引張強度は4.4 N/mm2,ポアソン比は0.174であった.セグメントに配置する鉄筋は,D16 ( SD345 ) とD10 ( SD295 ) を使用した.
2.2.3 載荷試験体の試作
セグメント用の鋼製型枠にセメノンを打設し,型枠バイブレータで締め固めた.第10図に示すように,熱風発生機とテントを使用して加温養生を実施した.本試験では,養生温度を制御し,2 時間で60℃まで昇温し,48 時間加温し続けた後に室温に戻した.付着強度の抑制効果が高い塗膜系の剥離剤を使用したことにより,セメントコンクリートと同様にセグメントを脱型することができた.第11図に試作した載荷試験体を示す.よって,鋼製型枠への付着を考慮して適切な剥離剤を使用すれば,セメノン構造物の製作に大きな問題はないことが分かった.


2.2.4 載荷条件と計測項目
本試験では,アーチアクションによる軸力の影響を低減するため,両支点とも回転と水平移動を許容するピンローラーとした.載荷点スパンは300 mm,支点間スパンは1,724 mmとし,載荷ジグを介して試験体中央の2 点を鉛直下向に単調載荷した.載荷初期は荷重で制御し,荷重の増加が見られなくなった時点から変位制御に移行した.
計測項目は,荷重,支間中央の鉛直変位,セグメント上面(S1,S2:試験体の周方向),上側主鉄筋(S3,S4:材軸方向)のひずみである.
2.2.5 結果と考察
荷重と支間中央たわみの関係を第12図に示す.載荷初期に,一時的な荷重低下が複数回見られた.下水道向けのシールドセグメントであるため,セグメント表面から鉄筋までの距離(かぶりと呼ばれる)を確保したうえで,耐久性向上のためにさらに内面側に50 mmの防食被覆層(下水道内で発生した硫酸によって溶けてもよいとみなす層)が設けられている.通常よりも深い位置に鉄筋が配置されていることが,初期の荷重低下に影響していると推測される.荷重が152.2 kNに達した際に下側主鉄筋が降伏し,183.1 kNでセグメント上面のセメノンが圧縮破壊に至った.2. 2. 2 項に示した材料特性を用い,セメノンの引張抵抗を無視して平面保持の仮定に基づき,セグメントの曲げ耐力を試算した.試算された曲げ破壊荷重 ( 151.7 kN ) は,本試験の降伏荷重と同程度であり,最大荷重に比べて17%小さかった.よって,今回のような破壊形態である場合,セメントコンクリートの設計式で予測すると,セメノン構造体の曲げ耐力が安全側に評価できることが確認できた.

セグメント上面および上側主鉄筋のひずみの計測結果を第13図に示す.上側主鉄筋 ( S3,S4 ) は,初期に圧縮領域で推移したが,徐々に引張側へ移行し,下側主鉄筋が降伏した152.2 kN付近(第12図参照)で引張ひずみが急増した.また,圧縮破壊に至る前に,引張ひずみがミルシートから求めた降伏ひずみ( 2,030 µ )を超えた.セメントコンクリート構造体が曲げ破壊する際の構造体上面の圧縮ひずみは一般的に3,000 ~4,000 µである.セメノンセグメント上面の圧縮ひずみ( S1,S2 )は,約3,100 µであり,セメントコンクリートと同程度であった.試験終了後の試験体のひび割れ状況を第14図に示す.載荷初期の段階で,支間中央付近の下面側から数本の曲げひび割れが発生し,最終的にセグメント上面が圧縮破壊した.この破壊過程は,セメントコンクリート構造体と同様であり,一般的な破壊形態(曲げ引張破壊)として分類できるものである.


3. 結言
IHIグループ,アドバンエンジ株式会社,横浜国立大学が開発したGPC「セメノン」について,基本的な材料物性と構造性能に関する試験結果を紹介した.セメノンは,一般的な構造物の設計基準強度を網羅しており,良好な流動性も有していた.セメントコンクリートに比べて,約14 倍高い耐酸性を有しており,鉄筋の保護性能に影響するpHもセメントコンクリートと同等であった.また,マクロ組織が均一で緻密となっており,セメノンは透水性がセメントコンクリートより低い特徴があり,観察の範囲ではマクロ組織は均一であまり欠陥が見られなかった.ただし,セメノンはセメント系材料よりも高い付着強度を持つため,鋼製型枠を使用して構造物を製作する際には適切な剥離剤の選定が必要である.下水道シールドセグメントの静的4 点曲げ載荷試験では,破壊形態がセメントコンクリートと類似しており,セメントコンクリートの予測式で曲げ耐力を安全側に評価できた.
セメノンは,脱炭素社会に貢献できるだけではなく,耐酸性が高いなどの特徴を有している.このことから,下水道や温泉施設などの酸性環境下では,構造物の供用期間を延長できることが期待される.本稿で紹介したシールドセグメントの載荷試験以外にも多数の載荷試験を実施し,セメントコンクリートに比べて耐力やじん性が劣るものではないことを確認している.今後,セメノンに向いた用途・適用先を探索するとともに,高品質なセメノン製品を提供できるように材料開発や製造方法の改善を進めていく.
- ― 謝 辞 ―
- 本研究に際しては,横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院の藤山知加子教授に,研究の進め方に関する大変有益な助言をいただき,技術の多岐にわたってご指導を賜りました.また,共同開発にご協力いただいたアドバンエンジ株式会社の小森照夫氏,笠原健二氏,齋藤由貴子氏,丸山隼人氏,磯部美希氏,水落優花氏には,豊富な知識と丁寧な技術検証で多くのブレイクスルーを起こしていただきました.この場をお借りして,皆さまの多大なるご協力に深く御礼申し上げます.
参考文献
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(9) 一宮一夫:ジオポリマーの研究開発の現状,コンクリート工学,Vol. 55,No. 2,2017 年,pp. 131-137
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