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てくのすこーぷで視たアンモニア燃焼利用技術の発明

株式会社IHI   

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技術開発の現場で生まれた「発明」は,特許という知的財産になります.
今回は,CO2削減のためにアンモニアを燃料に使うボイラの特許について紹介します.(特許第7049773号)

アンモニアバーナー改造前後( 特許第7049773 号)

私たちの生活に欠かせない電力は,そのほとんどが火力発電により作られており,IHIグループも発電用ボイラやガスタービン発電設備など,数々の製品を供給しています.しかしながら,近年の地球温暖化の進行に伴い,その抑制と持続可能な社会の実現の必要性が叫ばれるようになり,火力発電においても二酸化炭素 ( CO2 ) などの温室効果ガスの排出の削減が求められるようになりました.そのため,注目されているのがCO2を出さない水素やアンモニアなどを燃料として利用するための技術です.

中でも,アンモニアは燃焼させてもCO2が排出されず,従来の石炭火力発電所の設備でも利用できることから次世代の燃料として注目され,製造・輸送・貯蔵・利用を行うアンモニアバリューチェーンの構築に向けて研究開発が進められています.

IHIは,2010 年代後半からいち早くアンモニアの燃焼利用に着目し,開発に取り組んできました.アンモニアを燃料とするボイラについて,特許第7249109号などの基本的な出願を行っています.

同じカーボンフリー燃料である水素燃料に比べて貯蔵・輸送がしやすいという利点を持つアンモニア燃料ですが,燃料として大規模に使用するためには,燃焼技術のさらなる向上が必要となります.特に,ボイラは燃焼熱で水などの熱媒を加熱してエネルギーを伝える機械ですので,その燃料として使用した場合には,ボイラの外壁にある水管を流れる水に,いかに大きな熱量を伝えるかが重要となります.

ボイラ水管へ伝わる熱量は物体の熱放射量の比率である放射率に比例しますが,放射率は燃料に含まれる炭素の量が大きく影響を与えることが分かっています.微粉炭など炭素を多く含む燃料は放射率が高く,アンモニアなどのカーボンフリーな燃料の放射率は低くなります.

すなわち,炭素を多く含む燃料を燃やせば放射率が高いので大きな熱量を水に伝えられますが,地球温暖化の原因となるCO2を排出することになります.一方,カーボンフリーな燃料であるアンモニアを燃料として用いた場合,CO2は排出されませんが,放射率が低いので水に伝えられる熱量が低くなり,ボイラの放射伝熱性能が低下する恐れがあります.

そこで特許第7049773 号においては,CO2の排出量を減らしつつボイラの伝熱性能を低下させないという問題を解決するために,炭素燃料を噴射して燃焼させる第 1のバーナーと,アンモニア燃料を噴射して燃焼させる第 2のバーナーからなる複合バーナーという構成を採用しています.この複合バーナーは,中心にある第 2のバーナー(アンモニア燃料)の周りを第 1のバーナー(炭素燃料)がドーナツ状に囲む構造となっています.このとき,第 1のバーナーの噴射速度を第 2のバーナーの噴射速度より小さくすることにより,図のように火炎の外側のボイラの炉壁近くに放射率の高い炭素燃料の微粉炭火炎が形成されるので,ボイラの炉壁に大きな熱量を伝えることができるようになります.さらに,炉内に第 2のバーナーによるアンモニア燃料の火炎も形成することで,燃焼してもCO2を出さないアンモニアを燃料として利用することができるようになり,アンモニア燃料と微粉炭燃料の双方の利点を活かすことができるようになります.

本発明によるアンモニア燃焼ボイラの概念図

この特許に基づく技術は,2023 年度より株式会社JERAの碧南火力発電所4 号機で行われた,大型事業用ボイラの燃料をアンモニアに20%転換した実証試験において使用され,試験の成功に大きく貢献しています.

碧南火力発電所での実証試験の成功を受けて,今後は,アンモニア燃料転換商用化とその他案件の商用化への展開が進むことが期待されます.また,現在フィージビリティスタディ中の碧南火力発電所でのアンモニアへの転換比率を高めた実証事業の完遂,アンモニア専焼ボイラの開発・実証試験や電力利用以外へのアンモニア燃焼技術の適用など,さまざまな開発が進められています.

この他に,アンモニア燃焼ガスタービン,アンモニア燃焼レシプロエンジンが運転中です.さらにはIHIグループで取り組みを進めているアンモニアバリューチェーンの構築についても,各国各社,関係諸機関との協調により推し進めていきます.

(文責:知的財産部)