高度化したAIによるダウンタイム削減
機械の異常を早期に検知し,適切な対策を提示する故障予兆検知システムおよび異音検知システムの開発
IHI運搬機械株式会社
IHI運搬機械株式会社 ( IUK ) では,AI技術を活用して,機械の故障予兆や異常を早期に検知し,原因解析に基づく適切な対策をタイムリーにユーザーに提示するシステムの開発に取り組んでいる.このシステムは,機械のダウンタイム(稼働できない期間)の削減に貢献する.

故障予兆検知システム
故障予兆検知システムは,機械のダウンタイム(稼働できない期間)を減らし生産性を向上させることを目的として開発した.
システムは基本的に,Programmable Logic Controller ( PLC ) からの稼働データを収集し,そのデータを利用して動作する.稼働データは,機械がどのように動いているかを詳細に記録した情報であり,これを基に機械の健康状態を評価する.このデータをPCに取り込み,深層学習モデルに入力することで,機械の動作パターンをAIに学習させる.
深層学習は,多層のニューラルネットワークを用いて,大量のデータから特徴を抽出する技術である.故障予兆検知システムではこの深層学習により,異常が発生する前に予兆を捉えることが可能となり,故障を未然に防ぐことで,機械のダウンタイムを大幅に削減する.この結果,稼働率が向上し,安定した運用が実現する.
また,故障予兆検知システムには生成AIも組み込んだ.異常が検出された場合にはその原因を生成AIが解析する.例えば,異常の際には関連する図書,手順をユーザーに示すことで適切な対処方法を迅速に提案することが可能となり,ユーザーの負担が軽減されるだけでなく,対応のスピードも向上し,結果として運用コストの削減にもつながる.
故障予兆検知システムでは,電動機や減速機などの回転機械に振動センサーを取り付け,振動データを収集する取り組みも行っている.この振動データは,機械の異常をより詳細に予測するために活用される.振動センサーを使用することで,回転機械に特有の異常を早期に検知し,検知した異常をタイムリーにユーザーに知らせることで故障を未然に防ぐことが可能となる.
このシステムは,大型クレーンを含むさまざまな産業機械での運用実績があり,特に重要な設備の効率的な運用に役立っている.
異音検知システム
異音検知システムは,目視点検が難しい場所での異常検知を支援するために開発したシステムである.このシステムは,ベルトコンベヤーが用いられる大規模なプラントにおいて,故障防止・ダウンタイム削減を目的として導入されており,安全性の向上に大きく貢献している.
異音検知システムは,マイクロホンを用いて機械から発生する音をモニタリングする.音のデータはスペクトログラムという形式に変換され,音の周波数成分が視覚的に表示される.スペクトログラムは,音の強度と周波数を時間軸に沿って,色の強弱を用いた三次元グラフを使って示すもので,異常音と通常音が異なるパターンを示すことから,異常検知に非常に有効である.
このシステムでは,深層学習を用いた画像認識モデルが活用されている.画像認識モデルは,正常な音と異常な音のスペクトログラムを大量に学習する教師あり学習に加え,教師なし学習も取り入れている.教師なし学習では,事前にラベル付けされたデータがなくても,スペクトログラムから異常パターンを自動的に分類し,新たに取得された音データを解析することで,異常が発生しているかどうかを判断する.これにより,未知の異常パターンにも対応でき,より柔軟で高精度な異常検知が可能となる.
大規模プラントに用いられるコンベヤー用ローラーは,回転不良などの異常時に異音の発生と同時に熱も発生する.特に,石炭火力発電所やバイオマス火力発電所においては,多数のコンベヤー用ローラーが用いられていることから火災のリスクが存在する.このシステムの導入により,従来の目視点検では発見が難しかった火災のリスクとなる異常を早期に察知し,合わせて適切な対策を採ることによる,設備の安全性の大幅な向上が期待されている.


おわりに
今回紹介した故障予兆検知システムおよび異音検知システムは,いずれもAI技術を駆使しており,従来の方法では困難であった高精度かつ迅速な異常検知を実現している.これらのシステムは,IUKが整備事業を行っている,福島県の大型石炭ターミナルにおいて取り付けおよび評価を行っており,機械の安全性と効率を高めるために大きな役割を果たすことが期待されている.今後も,さらに技術を発展させることで,より多くの現場における課題解決や生産性向上,安全性向上に貢献していくことを目指している.