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宇宙太陽光発電実現に向けた発送電一体型パネル地上評価モデルの開発

  小川誠仁,田中直浩,小澤雄一郎

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小川 誠仁 株式会社IHIエアロスペース 基盤技術部電子技術グループ
田中 直浩 株式会社IHIエアロスペース 基盤技術部電子技術グループ 主幹
小澤 雄一郎 航空・宇宙・防衛事業領域宇宙システム事業準備室 グループ長

天候や昼夜の影響を受けない宇宙空間で,温室効果ガスを発生しない太陽光発電を行い,得た電力を地球上へ無線送電することで,安定かつクリーンな電力を得ることが可能な宇宙太陽光発電システム ( SSPS ) に関する研究が世界中で進められている.株式会社IHIエアロスペースはSSPS実現に向け,日本における研究開発の初期の段階から継続的に携わってきた.その一環として,地上実証の次のステップとして計画されている低軌道 ( LEO ) 宇宙実証に向け,発電と送電の両方の役割を担う発送電一体型パネル地上試験用動作モデルの開発と評価を行い,目標どおりの機能・性能を実現していることを確認した.本成果により宇宙実証機開発開始に向けてフェーズを進めることに貢献した.

Research on Space Solar Power Systems (SSPS), which generate solar power without emitting greenhouse gases in space unaffected by weather or the day-night cycle and transmit the acquired electricity wirelessly to Earth, enabling stable and clean power, is being actively pursued worldwide. IHI Aerospace has been continuously engaged in research and development aimed at realizing SSPS since the early stages of R&D in Japan. As part of these efforts, we had developed and evaluated a ground test operational model of a power generation and transmission panel, intended for Low Earth Orbit (LEO) space demonstration, which is the next step following ground-based demonstrations. We have confirmed that the model achieves the desired functionality and performance. This accomplishment contributes to advancing the phase towards the development of a space demonstration device.

1. 緒言

宇宙太陽光発電システム ( Space Solar Power Systems:SSPS ) は,1960 年代に米国で初めて提案されて以降,世界各国で実現に向けた研究が進められている.日本でも宇宙基本計画に,エネルギー問題,気候変動問題,環境問題などに対する解決の糸口としてSSPS開発を推進する旨が記載されており ( 1 ),大学研究機関や民間企業にて,活発な研究開発が続けられている ( 2 )

株式会社IHIエアロスペース ( IA ) では,無線による電力の送受電技術を軸とした研究開発を継続しており,長距離送受電実証試験用の受電部や,その他ドローン搭載用受電部などの開発を行ってきた.第1図に長距離送受電実証試験用受電部を示す.

第1 図 長距離送受電実証試験用受電部外観 ( 3 )
Fig. 1 Exterior view of the receiving unit for long-distance power
transmission and reception demonstration test ( 3 )

SSPSが提案されて以降,多くの検討プロジェクトが立ち上がり,さまざまなモデルが提案されている ( 4 ).日本で提案されたモデルの一つに,財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構 ( USEF ) により発表された,USEFモデル(2006 年度設定) ( 5 ) が存在する.

USEFモデルでは,発電と送電両方の機能を有する同一仕様の発送電一体型パネルを大量に並べることで,宇宙空間の発送電サイトの構築が可能となることを提案している.第2図にUSEFモデルのイメージ図を示す.このため要求仕様を満足する発送電一体型パネルの開発が将来SSPSの実現に直結するといえる.

第2 図 USEF モデルのイメージ図 ( 2 )
Fig. 2 Illustration of the USEF model ( 2 )

USEFモデルについては,USEFが一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構 ( J-spacesystems ) への組織変更が行われて以降も継続した取組みが続けられており,現在は経済産業省からの委託事業「宇宙太陽光発電における無線送受電技術の高効率化に向けた研究開発事業」の一環として研究開発が進捗している.

本事業は,宇宙空間における発送電一体型パネルの実現性確認の一環として,地上評価用の動作モデル(以下,地上評価モデル)を試作するものであり,IAを中心として開発を行った.また次の開発フェーズとして,発送電一体型パネルの宇宙実証試験が想定されており ( 6 ),それに向けた事前検証も目的の一つとした.

本稿では試作した地上評価モデルの仕様と,開発に際して実施した評価試験の内容およびその結果について報告する.

2. 発送電一体型パネル地上評価モデル

2.1 開発の位置付け

地上評価モデルの開発は,将来SSPSの実現に向けたロードマップの中で,宇宙での実証に移行する前の最終ステップの一つとして位置付けられている.

その目的は,USEFモデル実用時のサイズ目標である約500 × 500 mmに発送電機能を収納した地上評価モデルを開発することにより,USEFモデルの実現性を確認するとともに,今後の開発課題を抽出することにある.本開発以前にも,部分モデルの開発報告 ( 7 ) はあるが,目標サイズに必要な機能を収納したパネルの開発は初の試みであった.

これらの目的の他に地上評価モデルに対しては,SSPS事業成果公開の一環として計画された,屋外送受電実証実験での活用も期待されていた.よって屋外送電における運用性も考慮して開発を進めた.

2.2 目標仕様

2. 1 節で述べたとおり,地上評価モデルにはUSEFモデルに搭載する実運用パネルに求められる発電機能と送電機能を共に有することが求められた.運用の構想を踏まえて分析した地上評価モデルに要求される機能は以下のとおりである.

(1)発電機能
USEFモデルでは,太陽光により発電した電力を用いて,発送電一体型パネルが各種動作を行う.また各パネルは重力による受動的な姿勢制御によって地球を指向するとしており,太陽方向を追従する仕組みは有さない.

 以上より,発電機能を太陽を指向する代表面に3 接合太陽電池アレイを配置し,要求される発電が可能であるとともに,その電力を無線電力の生成および内部制御の実行に必要なパネル内部装置に高効率で分配可能な機能とした.なお,3 接合太陽電池とは,3 種類の異なる半導体を積層することで対応する光の波長範囲を広げ,高効率に太陽光を変換可能としたものである.
(2)RF送電機能(無線電力伝送)
USEFモデルでは,発送電一体型パネル内部にて,太陽電池より得た電力を基にマイクロ波を生成するための基準信号となる無線周波数信号(RF信号)を生成・増幅し,アンテナより地球に向けて放射することで地上への無線電力伝送を行う.

 これを踏まえ,RF送電機能の定義の一つを発電機能により得た電力を基に,RF信号の生成・増幅を行い,その信号を具備したアンテナにより電波として外部に放射可能な機能とした.
(3)RF送電機能(ビーム方向制御)
SSPSは宇宙空間(USEFモデルでは約36,000 kmの静止軌道)から地上の直径数 kmの受電サイトに向けて,無線電力伝送を行うため,電力の送電方向を高精度に制御する必要がある.

 USEFモデルではこの要求に対して,発送電一体型パネルによる大規模なパネルアレイによって大規模なフェーズドアレイアンテナを構成して解決を図ることとしている.

SSPSは宇宙空間(USEFモデルでは約36,000 kmの静止軌道)から地上の直径数 kmの受電サイトに向けて,無線電力伝送を行うため,電力の送電方向を高精度に制御する必要がある.
 USEFモデルではこの要求に対して,発送電一体型パネルによる大規模なパネルアレイによって大規模なフェーズドアレイアンテナを構成して解決を図ることとしている.
 フェーズドアレイはアンテナへの給電箇所を分散させ,それぞれの入力信号の電気的な位相を制御することで,電気的に送電方向を制御する技術である.より大規模にフェーズドアレイを構築することで,ポインティング精度や分解能の向上が期待できる.
 これを踏まえ,RF送電機能のもう一つの定義を位相制御可能な複数系統のRF信号出力を有することで,電気的な送電方向制御が可能な機能とした.

これらの機能要求に加えて,事業目標として設定された寸法(約500 × 500 mm,厚み100 mm以下)および,自身の発電電力のみで無線送電と内部制御機能の動作が可能であることが仕様として盛り込まれた.目標仕様の一覧を第1表に示す.

第1 表 地上評価モデル目標仕様一覧
Table 1 List of target specifications for the ground evaluation model

2.3 コンポーネント構成

2. 2 節の目標仕様に基づき,コンポーネントの構成は第3図のとおりとした.本構成のもと,太陽光入射から無線電力伝送に至る動作フローについて,以下に整理した.

第3 図 地上評価モデルのコンポーネント構成
Fig. 3 Component configuration of the ground evaluation model
(1)発電動作
太陽電池面に入射した太陽光により発電が行われ,その電力は電力制御回路を通して,制御回路とRF回路に供給される.

 地上評価モデルは,静止軌道での運用が想定されるUSEFモデルの要求に合わせ,バッテリ接続に対応した構成とした.バッテリ接続時には,太陽電池がその入射光量下で最大の電力を発生できる最も効率的な動作点を維持するMPPT ( Maximum Power Point Tracking ) 制御が有効となる.
(2)RF信号変換動作
電力制御回路から供給された電力を基に,本回路では送電周波数 ( 5.75 GHz ) のRF信号を生成する.また生成したRF信号を,出力系統数まで分岐するとともに,系統ごとに振幅と位相の電子制御を行う.

 地上評価モデルの出力系統数については,USEFモデルに準拠し16 系統とした(以下,この分割数を系統数と呼ぶ).これはフェーズドアレイによるビーム方向制御を意図して構成したものであり,同時に系統ごとのRF信号のオフセット(固定遅延や増幅特性の差)量を吸収する役割も担う.
(3)増幅・アンテナ放射
RF回路から出力された振幅と位相が制御されたRF信号は,増幅器に入力された後,アンテナ面から目標に向けて放射される.

( 2 ) で述べたとおり,地上評価モデルの系統数は16 系統であり,これに対応して地上評価モデルは同一仕様16 枚のアンテナパネル(サブアレイアンテナ)を備える.アンテナパネル内のアンテナ素子(パッチアンテナ)数についても,USEFモデルに合わせる形で16 素子とした.

よって RF信号は,16 系統のアンテナパネルへの給電のためRF変換回路内で1 回,アンテナパネル内でアンテナ素子に給電するため1回,計2 回の16 分割が行われる.なおアンテナパネルは能動部品を有さず,アンテナ素子への給電は同相給電としているため,振幅と位相の制御が行われるのは前者のみである.

2.4 試作品仕様

2. 2 節および2. 3 節に基づき,地上評価モデルの試作を行った.地上評価モデルの代表的な仕様を第2表に,太陽電池面側から撮影した外観を第4図に示す.また地上評価モデルは,太陽電池面と反対側にアンテナ面を有するが,これは2. 3 節 ( 3 ) で述べたとおり,16 枚のアンテナパネルで構成される.アンテナパネル単体の外観を第5図に示す.

第2 表 地上評価モデル仕様一覧
Table 2 List of specifications for the ground evaluation model

3. 評価試験

3.1 概要

開発した地上評価モデルが,目標どおりの機能・性能を有していることを確認するため評価試験を実施した.評価試験項目は ① 発電機能の確認,② RF送電機能の確認,③ 自律送電制御の確認,の3 項目とした.

アンテナ面としてみなした場合,地上評価モデルのアンテナ口径は比較的大きく,近傍界となる距離が長い.したがって送電動作を伴う評価では,長い見通し距離が確保できる試験場所が望ましい.これを踏まえ本開発では,国立大学法人京都大学所有の大型電波暗室A-METLABを借用して評価を実施した.

3.2 試験手法

3.2.1 発電機能の確認

A-METLAB前の屋外エリアにて,自然太陽光のもと地上評価モデルの発電機能の確認を実施した.

確認時の外観写真を第6図に示す.計測に際しては,地上評価モデルの発電量のハウスキーピングデータ(以下,HKデータ)を実測値,日射強度計の計測値より算出した理想的な発電量を理論値とし,比較を行った.

第6 図 発電機能確認時の外観
Fig. 6 Exterior view during power generation function check

地上評価モデルは,容量に余裕のある(充電可能な)外部バッテリを接続した状態で発電動作を行っており,MPPT制御が有効となることから,太陽電池が最高効率で動作していることが期待される.理論値の算出に際してはMPPT制御が有効となっており,太陽電池が最高効率で動作したことを前提とするとともに,太陽の傾斜角(発電面への入射角)についても考慮した.

3.2.2 RF送電機能の確認

RF送電機能の確認に関しては,正面方向にて回線計算で期待される電力が受電できることおよび放射指示方向に正しくビームパターンのボアサイト(最もアンテナ利得が高い方向)が形成されていることの2 点を判断基準とした.

A-METLAB内に構築した評価系構成を第7図に示す.電波暗室内での試験となるため,地上評価モデルには電力源として安定化電源を接続し,水平方向に電波を放射できるようにスタンド(以下,縦置きジグ)に懸架した.懸架状態の外観写真を第8図に示す.

また受電(受信)側として,アンテナ利得が既知のスパイラルアンテナを準備し,スペクトラムアナライザによって送電周波数における受電電力をモニタした.

縦置きジグは水平方向の回転機構を有しているため,ビームパターンの計測は,地上評価モデルの放射指示方向を設定のうえで,物理的に縦置きジグを回転させることにより行った.

なおRF送電機能の評価に先立ち,地上評価モデルの16 系統出力の同相調整(送電系キャリブレーション)を実施している.具体的には第7図の構成のもと,受電アンテナの受電電力が最大化するように,RF出力のうち1 系統を基準として,残り15 系統の移相量を調整することで実施した.

3.2.3 自律送電制御の確認

自律送電制御に関する評価もA-METLAB内にて実施した.屋内での評価となるため,太陽光発電の模擬として,指定した太陽電池の出力特性を模擬可能な太陽電池シミュレータ ( Agilent E7405A ) を用いた評価を行った.評価構成は第7図に準じており,安定化電源の代わりに太陽電池シミュレータを接続した構成としている.

本試験は日射強度を試験条件とし,受電系の受電電力から送電の可否を確認する形で進めた.日射強度は,地上評価モデルで使用した太陽電池の特性(V-Iカーブ)を太陽電池シミュレータに入力して調整した.

太陽電池シミュレータへ入力した特性には,太陽電池メーカから提供されたパラメータを利用した.メーカ提示値はAM0条件下のみであったため,他の日射強度条件については,電圧特性は維持したまま,電流量が日射強度に対し線形に減少するとして仮定したパラメータを入力している.

なお,本評価に際しては,太陽電池で発電した電力に相当する電力のみを地上評価モデルの入力とするため外部バッテリは使用していない.よって,MPPT制御は機能しておらず,地上評価モデルの内部消費に相当する電力のみが,太陽電池シミュレータから引き出されている状態となる.

4. 評価試験結果

4.1 発電機能の確認結果

比較的曇が少ない気象条件を狙い,屋外にて評価を実施した.評価期間中の地上評価モデルのHKデータから,太陽光により継続した発電動作が行われていることと,余剰電力がバッテリに充電されていることが確認された.

また,バッテリが満充電となるまでは,発電電力の理論値に対してほぼ同等の発電量があり,満充電後は内部消費電力と同等量にまで発電量が抑制されることが確認できた.

4.2 RF送電機能の確認結果

3. 2. 2 項で示した二つの評価基準に沿って試験結果を整理した.第3表は,受電側での受電電力について,回線計算より求めた理論値と実測値の受電電力の比較を示している.これにより,正面方向にて回線計算で期待される電力が受電できることが確認できた.

第3 表 回線計算と実測値の比較
Table 3 Comparison between circuit calculations and measured values

第9図は,横軸を地上評価モデルアンテナ面に対する水平方向角度,縦軸にピーク電力を基準とする電力レベルを示している.これにより,放射指示方向に正しくビームパターンのボアサイトが形成されていることが分かる.第9図の凡例であるシミュレーション値と実測結果は,それぞれ,アンテナパネル単体で実測したパターンに基づく合成パターンのシミュレーション結果と,A-METLABでの実測結果を示している.

グラフはビームを正面方向 ( 0° ) に設定したケースと,−5°方向に設定したケースの2 ケースを示した.評価結果では,特に−5°方向条件にてビーム中心方向(ボアサイト)に若干ズレが見られるが,良好に一致している.

4.3 自律送電制御の確認

太陽電池シミュレータからの電力入力条件を変化させ,入射光量に対する自律送電の可否を確認した.確認結果を第4表に示す.試験ではAM0条件 ( 1,350 W/m2 ) から徐々に日射強度を低下させたケース ( No. 1 ~4 ) と,OFF状態からある日射強度条件で送電を行ったケース ( No. 5,6 ) の2ケースを行った.

第4 表 自律送電可否の確認結果
Table 4 Results of autonomous power transmission feasibility check

確認結果から,AM0条件下での自律送電が可能なことが確認できた.またNo. 5,6の結果から900 ~1,000 W/m2の間に送電開始のしきい値があること,No. 1 ~4の結果から800 ~900 W/m2の間に送電継続のしきい値があることを確認した.

5. 考察

5.1 発電機能

4. 1 節に記載のとおり,評価結果より地上評価モデルが太陽光により発電を行うことができ,バッテリへの充電動作や,満充電時の太陽電池制御方式の切替え動作(MPPT制御から定電力発電制御)も正常であることが確認できた.

太陽電池パネルは組立後に実施した検査において,またMPPT制御回路は基板単体での試験において,それぞれの機能および性能が確認されている.今回実施した発電機能確認の結果は,構成要素の検査結果および試験結果と整合していることから,地上評価モデルとしての発電機能が健全であると判断した.

5.2 RF送電機能

(1)送電が可能なこと
第3表に示されたとおり,キャリブレーション後の正面受電電力としては,実測結果と理論値の差が0.4 dB程度となっている.測定系および電波暗室内の電波環境により1 dB程度の誤差が生じる可能性が十分にあり得ることを考慮すると,回線計算上期待される電力と同等の電力を受電できたといえる.

 よって設計とおりの送電が可能であると判断した.
(2)送電方向を電気的に制御可能なこと
機構系のアライメント誤差に起因すると思われる,ボアサイト方向の若干のズレはあるものの,第9図に示されたとおり,ビームパターンはシミュレーション結果とよく一致している.

 よって想定どおりのビームパターンが形成されているかつ指示方向に正しくボアサイトが向けられていると考えられる.以上より,送電方向を電気的に制御可能であったと判断した.

5.3 自律送電制御

4. 3 節に記載のとおり,地上評価モデルはAM0条件下での自律送電が可能であり,また送電開始しきい値が900 ~1,000 W/m2の間に,送電継続しきい値が800 ~900 W/m2の間にあることが確認できた.

送電継続のしきい値に対して送電開始のしきい値が高いのは,送電開始時にパネル内部のRF回路(増幅器など)が一時的に高い突入電流を必要とするためと考えられる.

地上評価モデルは,A-METLABでの評価試験実施後に,屋外送受電実証(宇宙太陽光発電 実証実験)に供しており,自然太陽光による自律送電に成功している ( 8 ).実証時の地上評価モデルの外観については第10図に,送電動作時の日射強度変動の一例を第11図に示す.

第11図中の赤丸は,それぞれ送電開始時と送電停止時の日射強度を示している.図中では評価結果より確認した,送電開始のしきい値と送電継続のしきい値の日射強度範囲をハッチングで併記しているが,赤丸で示したどちらの日射強度値も,その範囲に含まれる結果となった.

結果として,RF送電機能の使用を伴う屋外送受電実証においても,A-METLABでの自律送電制御確認の結果の妥当性を検証することができた.

6. 結言

将来SSPSとして提案されているUSEFモデルの構成要素である,発送電一体型パネルについて,地上評価用のモデルの開発を行った.

また設計時に設定した目標の達成可否の確認を目的として,評価試験を実施した.評価結果のサマリは第5表に示すとおりであり,すべての目標を達成した.これにより低軌道宇宙実証に向けた準備を完了した.

第5 表 地上評価モデルの目標仕様と実仕様の比較
Table 5  Comparison of target specifications and actual specifications of the ground evaluation model
― 謝  辞 ―

本開発は,一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構が実施した宇宙太陽光発電における無線送受電技術高効率化等研究開発事業にIAが参画し,発送電一体型パネル地上評価モデルの設計,製作,試験を担当したものです.開発に際してご協力いただいた,株式会社パナソニックシステムネットワークス開発研究所殿をはじめとする関係者の皆さまに深い感謝の意を表します.

またA-METLABでの試験実施に際して,さまざまご助力いただいた京都大学篠原研究室の皆さまにも感謝申し上げます.

参考文献

(1) 内閣府:宇宙基本計画,https://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/kaitei_fy05/honbun_fy05.pdf,(参照2024. 8. 30 )

(2) 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構:宇宙太陽光発電システム ( SSPS ) の実現に向けた研究開発の現状,https://www.jspacesystems.or.jp/jss/files/2023/08/ISTS2023_SSPS.pdf,(参照2024. 8. 30)

(3) 小澤雄一郎,藤原暉雄,田中直浩,佐々木謙治,中村修治:マイクロ波電力伝送試験モデル:受電部の開発,電子情報通信学会論文誌B,Vol. J99-B,No. 11,2016 年11 月,pp. 1,030-1,040

(4) 篠原真毅:宇宙太陽発電,一般社団法人電子情報通信学会,オーム社,2012 年7 月,pp. 7-21

(5) 一般財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構:太陽光発電利用推進技術調査成果報告書,2008 年3 月

(6) 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構:発送電一体型宇宙太陽光発電システム2006モデル 研究開発ロードマップ,https://www.jspacesystems.or.jp/jss/files/2021/07/SSPS_H28_Roadmap_a.pdf,(参照2024. 8. 30 )

(7) 安達信雄,上土井大助,牧野克省:宇宙太陽光発電システム用発送電一体型パネルの試作試験,信学技報,Vol. 113,No. 88,2013 年6 月,pp. 57-61

(8) 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構:宇宙太陽光発電 ( SSPS ) 実証実験,https://www.youtube.com/watch?v=iGjh9w-4uf0&t=95s,(参照2024. 10. 11 )