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「小型メタネーション装置」を用いた実証設備の導入
— バイオガス由来のCO2 を活用したe-methane 製造および国内初の都市ガス原料への利用 —

  諏訪部 巨斗,福島 直美,矢野 明久,遠藤 巧

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諏訪部 巨斗 資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBUカーボンリサイクル部
福島 直美 資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBUカーボンリサイクル部 主幹
矢野 明久 資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBUカーボンリサイクル部 主幹
遠藤 巧 資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBUカーボンリサイクル部 主査

カーボンニュートラルに向けたソリューションとしてIHIはメタネーションによるe-methane製造技術の確立,実装に取り組んでいる.お客さまのメタネーション実証試験の推進を目的に,小型メタネーション装置(e-methane製造量:12.5 Nm3/h)の販売拡大を行っている.また,運転データを用いて,設備の運転状況のリモートモニタリングや環境価値管理ができるMEDICUS NAVI®の導入も推進している.本稿では小型メタネーション装置および周辺機器を納入し,MEDICUS NAVIを導入した工事について報告する.

As a carbon-neutral solution, IHI Corporation is adopting the methanation technologies. IHI is expanding the sales of a small-scale methanation device (e-methane production : 12.5 Nm3/h) with the aim of promoting methanation demonstration tests by customers. In addition, IHI is also promoting the introduction of MEDICUS NAVI® system in order to remotely monitor the operating status of the facility and manage environmental value. This article introduces the construction achievements of delivering the small-scale methanation device and related equipment and implementing MEDICUS NAVI system.


1. 緒言

2050 年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする,つまりカーボンニュートラルを目指すことを日本政府は宣言している.IHIはカーボンニュートラルへのソリューションの一つとして,メタネーションによるe-methane製造技術の確立,実装に取り組んでいる.

メタネーションは,再生可能エネルギー由来の水素 ( H2 ) と温室効果ガスである二酸化炭素 ( CO₂ ) を原料として,都市ガスの主成分となるメタンを合成する技術である.この技術は,「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(経済産業省)において,次世代熱エネルギー産業のカーボンニュートラル化の具体策として挙げられている.メタネーションによって合成されたメタンはe-methaneと呼ばれ,回収CO₂の有力な利用先として期待されている.

カーボンニュートラルの実現に向けてCO₂排出削減量を環境価値として認証する動きがある.この認証に対応するために,IHIでは,お客さまの水素製造装置およびオフガス圧縮設備からe-methaneの供給までの各機器・計器の運転データを基に,インターネット上のWEBブラウザから「環境価値管理」や「リモートモニタリング」画面を提供する運転・保守支援システム「MEDICUS NAVI」サービス ( 1 ) を提供している.MEDICUS NAVIは,ILIPS ( 2 ) ( IHI group Lifecycle Partner System ) により収集されるお客さまの運転データを使用する.ILIPSとは,IHIグループの製品や装置のデータをクラウドサーバに集積し,ライフサイクルビジネスに活用するためのIHIグループ共通IoTシステムのことである.

2. 工 事 概 要

2.1 メタネーション実証設備

第1図に東邦ガスおよび知多市で取り組むメタネーション実証試験のフロー図を示す ( 4 ).IHIは東邦ガス知多LNG共同基地内に小型メタネーション装置(図は「メタネーション反応装置」と記載)および周辺設備(水素製造装置を除く)を納入した.

第1 図 メタネーション実証試験のフロー ( 4 )
Fig. 1 Process flow of the methanation demonstration test ( 4 )

2.2 プロセスの概要

納入したメタネーション実証設備のプロセスの概要について以下に記載する.

2.2.1 オフガス圧縮設備

バイオガス精製設備から排出されるオフガスを圧縮する設備は吸気タンク,圧縮機,熱交換器,凝縮器,KOドラム(Knockoutドラム:気液分離を目的としたドラム),オフガスタンクで構成される.知多市南部浄化センターのバイオガス精製設備の運転時に発生するCO₂を多く含むオフガスを,知多LNG共同基地内に設置する圧縮機によりオフガスタンクへ蓄圧する.その後,オフガスは凝縮器で冷却し,オフガス中の水分を凝縮する.

2.2.2 小型メタネーション装置

CO₂とH2をメタネーション触媒により反応させてe-methaneを製造する装置である.本メタネーション実証試験でのe-methane製造量は5 Nm3/hであるので,IHIで販売を開始した定格e-methane製造量が12.5 Nm3/hである小型メタネーション装置を用いることが可能である.

バイオガス精製設備の運転時に発生するオフガス中のCO₂濃度は経時変化する.このCO₂濃度の変化に対応できるようにオフガス流量と反応に必要な水素流量を追従させてCO₂を効率良くe-methaneに変換できるような制御となっている ( 6 )

2.2.3 合成メタン圧縮設備

合成メタン圧縮設備は合成メタンタンク,圧縮機,熱交換器,凝縮器,KOドラムで構成される.小型メタネーション装置にて生成されたe-methaneを圧縮機にて圧縮させた後,e-methane中の水分を除去する設備である.e-methaneは凝縮器で冷却し,都市ガスとして使用できる露点の基準まで水分を凝縮・除去する.

2.3 MEDICUS NAVI

メタネーション実証設備にはMEDICUS NAVI ( 1 ) が搭載されている.このシステムを活用することで,「環境価値管理画面」ではメタネーション実証設備によるCO₂削減量などの管理が可能となり,「リモートモニタリング画面」ではメタネーション実証設備を遠隔でモニタリングすることが可能となる.メタネーション実証設備の不具合発生時には,IHIでも迅速に原因分析・対応方法の検討が可能となる.第2図に「環境価値管理」画面を示す ( 6 )

第 2 図 MEDICUS NAVI「 環境価値管理 」画面 ( 6 )
Fig. 2 Measurement, Reporting, Verification in MEDICUS NAVI ( 6 )

2.4 本工事の特徴

本工事の特徴として,① 動的シミュレーションを活用したオフガス圧縮設備の設計,② オフガス成分の変動を考慮した制御設計,③ 設備のスキッド化(一体化),が挙げられる.

2.4.1 動的シミュレーションを活用したオフガス設備の設計

知多市南部浄化センターのバイオガス精製設備から発生するオフガスはほぼ大気圧であり,圧力・流量が周期的に変化(脈動)している.加えて,バイオガス精製設備は間欠運転で運用されるため,設計上バイオガス精製設備の起動停止の考慮が重要である.

設計に当たっては動的シミュレーションを用いてオフガス設備の仕様検討を実施した.動的シミュレーションとは起動・停止といった非定常状態を想定したシミュレーションのことである.第3図にオフガス圧縮機能力の違いによる吸気タンク圧力の変動を動的シミュレーションした結果を示す.動的シミュレーションの結果を用いて吸気タンク容量など,設備の最適設計が実施できた.

第3 図 動的シミュレーションを用いた設備検討例
Fig. 3 Example of the design using dynamic simulation

2.4.2 設備のスキッド化

本工事は実証設備全体がテニスコート2 面程度の広さであり,現地の工事で使用できるスペースも限られている.さまざまな機器で構成されるオフガス圧縮設備および合成メタン圧縮設備について,自社工場でスキッド化したうえで現地納入することにより,現地作業工数の削減および工期短縮を図った.

2.4.3 オフガス成分の変動を考慮した制御設計

オフガスにはCO₂以外にもメタンや窒素が含まれ,成分は一定ではなく,経時変化を伴う.すなわち小型メタネーション装置への原料となるオフガス中のCO₂量も経時変化を伴う.そのためCO₂量に追従させたH2量の供給が求められる.高濃度のe-methane製造を実現させるために,オフガス成分の変動を考慮した制御設計を実施した.

3. 試運転結果,都市ガス原料への利用,知多e-メタン製造実証施設 開所およびMEDICUS NAVI活用状況

3.1 試運転結果

メタネーション実証設備の現地据付け後,試運転を実施した.納入した設備の性能試験を実施し,以下の保証項目を達成することを確認した.

(1) e-methane露点温度・流量・圧力
(2) e-methane純度

また,2. 4 節で挙げた本工事の特徴についても,それぞれ期待される効果が発揮された.特に,動的シミュレーションを活用したオフガス設備の設計について,試運転にてオフガス設備の性能がシミュレーションの結果とほぼ一致していることを確認できた.

3.2 都市ガス原料への利用

納入した設備の性能試験実施後,東邦ガスにて,メタネーション実証設備で製造したe-methaneの日本初の都市ガス原料への利用を開始した.

3.3 知多e-メタン製造実証施設 開所

2024 年5 月,東邦ガスは知多e-メタン製造実証施設を開所した.第4図に「知多e-メタン製造実証施設」の開所式の様子を示す ( 4 )

第4 図 知多e- メタン製造実証施設 開所式 ( 4 )
Fig. 4 Opening ceremony of the Chita e-methane production facility ( 4 )

本実証設備にて得られた成果と知見を活用することにより,将来的なe-methaneの本格導入に向けて,設備製造の大規模化や低コスト化への検討およびe-methane普及拡大の推進が期待される.

3.4 MEDICUS NAVI活用状況

知多e-メタン製造実証施設の開所後,納入したメタネーション実証設備は稼働を継続しており,IHIでも運転状況を遠隔モニタリングしている.

また,運転稼働データを取得しながら運転効率性などの評価を実施し,東邦ガスと主にスケールアップの観点で評価内容を共有・協議をしている.

4. 今後の展望

本稿では,知多e-メタン製造実証施設への小型メタネーション設備および周辺機器の納入についての工事報告をした.なお,小型メタネーション装置は商用機第1号である.IHIではカーボンニュートラルへのソリューションの一つとして,メタネーションを採用している.さらなるスケールアップに向けてe-methane製造量が数百 ~数万Nm3/h規模のメタネーション設備の検討を進めている.

小型メタネーション装置については,お客さまへの装置納入によるメタネーション実証試験の推進を目的とし,レンタルを含めた販売の拡大を図っている.また,2023 年度に販売を開始した小型CO₂回収装置との連携導入も促進している.2024 年11 月時点で小型メタネーション装置については,稼働中が3 機,工事進行中が4 機,その他引き合いを多数頂いている.

また,中型メタネーション設備についてもすでに実用化の段階まで進んでおり,2025 年度中にJFEスチール株式会社東日本製鉄所千葉地区のカーボンリサイクル高炉向けに排出ガスから1 日24 tのCO₂を回収し,500 Nm3/hのe-methaneを製造するメタネーション設備の納入を予定している ( 7 )(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ( NEDO ) の研究開発委託・助成事業JPNP21019『グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト』 ( GREINS ) における高炉を用いた水素還元技術の開発/外部水素や高炉排ガスに含まれるCO₂を活用した低炭素化技術等の開発).

e-methane製造量が数千 ~数万 Nm3/h規模の大型メタネーション設備については2030 年度までに商用化を目指し,触媒の高度化,反応器の大型化,反応熱の有効利用などを中心に開発を進めている.

IHIはカーボンニュートラル実現の手段としてメタネーションを推進していくことで,CO₂排出の削減に寄与していく.

― 謝  辞 ―
本工事を推進していくのに当たり,東邦ガス株式会社および東邦ガスエナジーエンジニアリング株式会社の多大なるご理解およびご協力を賜りましたこと,ここに記し深く感謝申し上げます.

参考文献

(1) 株式会社IHI:火力発電ボイラにおけるメンテナンスや運転支援の取り組み,IHI技報,Vol. 62,No. 2,2023 年1 月,pp. 60-63

(2) 株式会社IHI:ILIPS環境価値管理プラットフォームの展開,IHI技報,Vol. 62,No. 2,2023 年1 月,pp. 6-9

(3) 東邦ガス株式会社:プレスリリース「知多市と連携した「バイオガス由来のCO₂を活用したメタネーション実証試験」について」,https://www.tohogas.co.jp/corporate-n/press/1229823_1342.html"https://www.tohogas.co.jp/corporate-n/press/1229823_1342.html,(参照2024. 8. 26 )

(4) 東邦ガス株式会社:プレスリリース「知多市と連携した「バイオガス由来のCO₂を活用したe-メタン製造実証」の開始について ~製造したe-メタンを国内で初めて都市ガス原料として利用 ~」,https://www.tohogas.co.jp/corporate-n/press/1243273_1342.html,(参照2024. 8. 26 )

(5) 株式会社IHI:「小型メタネーション装置」による回収CO₂の有効利用,IHI技報,Vol. 63,No. 2,2023 年12 月,pp. 8-11

(6) 株式会社IHI:プレスリリース「東邦ガス知多e-メタン製造実証施設向けに,メタネーション標準機を納入」,https://www.ihi.co.jp/all_news/2024/resources_energy_environment/1200833_13676.html,(参照2024. 8. 27 )

(7) 株式会社IHI:プレスリリース「世界最大級の製造能力を持つメタネーション装置を受注 ~ JFEスチールの試験高炉向けに,排出ガス中のCO₂を有効活用 ~」,https://www.ihi.co.jp/all_news/2022/resources_energy_environment/1198112_3473.html,(参照2024. 8. 27 )