商用発電所でのアンモニア燃焼実証試験成功!
碧南火力発電所4号機でのアンモニア20%燃焼実証試験結果
株式会社IHI

IHIグループは,燃焼させても二酸化炭素 ( CO₂ ) を排出しないアンモニアを火力発電のカーボンニュートラル化の有効な手段と捉え,微粉炭焚きボイラやガスタービンの燃料として導入する取り組みを進めている.アンモニアの特性により安定かつ低窒素酸化物 ( NOx ) 燃焼が課題となり,これを克服するための燃焼技術の開発を行ってきた.その集大成として,碧南火力4号機でのアンモニア20%燃焼実証試験を成功裏に完了し,社会実装への第一歩を踏みだした.

はじめに
現在,さまざまな業界で地球温暖化抑制のための温室効果ガスの削減策が検討,実施されており,火力発電設備では,アンモニアが二酸化炭素 ( CO₂ ) を排出しない代替燃料として期待されている.しかしながらアンモニアは,燃焼性が悪くかつ窒素酸化物 ( NOx ) 排出懸念があることから,実機適用においてはいかに安定かつ低NOx燃焼させるかが重要な開発課題であった.
IHIでは,2010 年代半ばからアンモニアの燃料利用に着目し,アンモニア燃焼技術の開発を行ってきた.その後,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム ( SIP ) (2017 ~ 2018 年度)において,既存石炭火力発電用ボイラでアンモニア燃焼実現の可能性を調査研究し,その可能性を見いだした.これに続く国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ( NEDO ) 委託事業(2019 ~ 2020 年度) (※ 1)により株式会社JERA碧南火力発電所(愛知県)(以下,碧南火力)の実機条件を鑑みての詳細検討を行い,そのうえで,碧南アンモニア20%燃焼の実証研究の助成事業(2021 ~ 2024 年度) (※2)に進んできた.なお,アンモニア20%とは,ボイラへの入熱比率でアンモニアが20%(残り80%が石炭)であることを示す.本稿における燃焼比率は同様に入熱比率を示す.
本稿では,碧南火力4 号機(以下,碧南4 号機)でのアンモニア20%燃焼実証試験の結果について紹介する.なお,実証試験の内容と設備については,既報(IHI技報 Vol. 64 No. 1,2024「燃料アンモニア燃焼バーナー・ボイラの商用機実証」)にて詳述している.また,IHIではこの他碧南火力でのアンモニア50%以上燃焼の実証事業(グリーンイノベーション基金案件)や専焼バーナー開発なども行っているがこれらについても別報とする.
- 1カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/アンモニア混焼火力発電技術の先導研究/微粉炭焚ボイラにおけるマルチバーナ対応アンモニア混焼技術の研究開発
- 2カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/アンモニア混焼火力発電技術研究開発・実証事業/実証研究/100 万 kW級石炭火力におけるアンモニア20%混焼の実証研究
実証試験の内容と設備概要
実証試験は碧南4 号機で実施した.実証試験に必要な設備改造は,事前の検討によりアンモニアノズルおよび関連配管を設置したのみで,ボイラ本体や煙風道および環境設備の改造は実施せずに実現した.これは,カーボンニュートラルへの対応が急がれる事業者にとって大きなメリットであり,アンモニアの導入を加速するものである.ただし,アンモニア20%燃焼に必要な改造範囲は各プラントの設計裕度や導入時の状態にもよるため,事前の検討により決定する必要がある.
碧南4 号機はバーナーが48 本あり,その全てでアンモニア燃焼可能なようにアンモニアノズルを設置する改造を行った(IHIにて改造実施).アンモニアノズルはアンモニア専用であり,石炭を噴射するノズルの内側に設置される構造となっている.これによりIHIのアンモニアノズルを擁するバーナーはアンモニア不使用時には既設と全く同じ従来燃料専焼運転が可能になっているため,アンモニア不使用時でも既設と同じ発電出力や運用性を常に維持できる.
その他アンモニア受入設備,アンモニア気化供給設備などを設置した(JERAにて設計・設置).
実証試験の目的は以下のとおりである.
- アンモニア20%燃焼運転におけるプラント全体の各特性,制約条件など,社会実装に向けた課題の抽出
- 上記を踏まえたアンモニア燃焼技術の確立
実証試験期間は約3 か月とした.この期間でアンモニア燃焼運転の確立と各種燃焼特性把握試験を実施した.

一方,火力発電所としてもアンモニアを燃料として使用したことはなく,先行事例もないため安全性の確保についてはJERAとIHIおよび協力会社との協議,検討に十分な時間をかけた.事業者であるJERAは,発電所の防災設備の計画に際し,さまざまな安全防災に関するリスクアセスメントを行い,その結果に基づいて対策を講じるとともに,有事の防災活動に備えるため,所轄消防と合同での防災訓練を行うなど近隣自治体との協調を進めた.この土台の上で,無事故・無災害で実証試験を遂行することができた.

実証試験の結果
アンモニア燃焼は2024 年4 月1 日に開始し,同年4 月10 日には,計画どおり定格100 万kW ( 1,000 MW ) 運転におけるアンモニア20%燃焼を達成した.
実証試験の結果のうち,特に注目された燃焼性能については燃焼性能結果一覧表にまとめた.アンモニア20%燃焼において,最も懸念されたNOxについては,従来燃料専焼時と同等以下であった.一方で,運転条件によっては両者が近い値を示すこともあり,一般的には従来燃料専焼と同等と評価している.併せてNOxと相反関係にある灰中未燃分も従来燃料専焼と同等であり,NOxと灰中未燃分を同時に従来燃料専焼と同等レベルに抑えられることが確認できた.温暖化ガスとしては,CO₂排出量は約20%削減と本実証試験で目指したとおりの結果であり,温室効果の高い亜酸化窒素 ( N2O ) は定量下限値以下であった.その他,硫黄酸化物 ( SOx ) 排出量は約20%減少,未燃アンモニア ( NH3 ) 分は定量下限値以下であった.このように燃焼性能つまり環境性能の面でも良好な結果を得た.良好な燃焼性能達成,特にNOxを従来燃料専焼レベルまで抑えられたのは,長年かけて高めてきた石炭をはじめとする従来燃料での低NOx化技術を土台とし,アンモニア燃焼のメカニズムの理解と融合を図ることで達成したものといえる.アンモニアという,新しい燃料の燃焼技術の確立にめどが立ったことから,さらなるアンモニア燃焼比率の向上や他分野へのアンモニア燃焼技術の展開などを含めて燃焼技術の一層の高度化につながるものと考える.

次に,プラントの運用性を確認するために行った試験および試験結果を述べる.本実証試験の中で脱硝アンモニアバランス確認試験を実施した.これは,脱硝装置では,脱硝触媒のガス流れ上流側で多数の噴射孔からアンモニアを注入しており,脱硝効率を最適化するためアンモニア注入量のバランスを調整してある.このバランスがアンモニア燃焼でどのような影響を受けるかの確認を行うものであった.その結果,アンモニア20%燃焼においてもNOx分布に顕著な変化はないため,新たなアンモニア注入バランス調整は不要であった.負荷変化試験については,既設運用で行っている負荷変化対応において安定運用可能なことを確認した.加えてアンモニアの安全な停止については,アンモニア緊急遮断試験により,アンモニア緊急遮断動作時においても安全に目標負荷まで負荷を下げることができた.この際,アンモニア遮断動作に伴うプロセス値変動も計画内であり,漏えいなどなく安全に停止できることを確認した.これらのように,運用性においても燃料アンモニア転換前(従来燃料専焼)と同等であることを確認した.なお,これらは蒸気条件を従来燃料専焼と同等に維持して達成したものである.
上記のとおり,本実証試験では,アンモニア20%燃焼において,燃焼性能,プラント運用性ともに従来燃料専焼と比べて何ら遜色なく運用できることが確認された.あらためて本実証試験結果の総括として,目標と評価結果の一覧を試験結果全体総括表にまとめた.いずれの項目も目標達成となっており,技術課題の燃焼性,NOx排出懸念,運用性,安全性など全てで所定の成果を得たことになる.

今後の展開
本実証試験の結果には世界中が注目していた.アンモニアの導入は20%比率程度が最速かつ低コストで最大限のCO₂削減が実現可能なことから,今回の実証試験の成功を受けて,アンモニアの社会実装が一気に進んでいくと想定する.IHIとしてもアンモニア導入を検討しているお客さまの実施判断をサポートしていく.
また,並行して取り組んでいるアンモニア高比率燃焼の検討については,現在取り組み中の実証事業のフィジビリティスタディを完了させ(高比率燃焼バーナーの開発は完了),実証試験の計画,工事,試験を遂行していく.
さらにアンモニア専焼については2024 年度中にアンモニア専焼バーナーの開発を完了させる.

本稿ではアンモニアを燃料として利活用する側としてその画期的な成果である碧南4 号機実証試験の結果を紹介した.アンモニアサプライチェーン全体に関しても,各国,各社,諸機関と協調しているそれぞれの検討をより具体的な取り組みとして推し進めていく.
これら一連の取り組みにより,IHIはアンモニア燃料への転換技術でCO₂排出量低減に向けて貢献することにより,来たる2050 年のカーボンニュートラル実現に向けて,さまざまな社会のニーズに適した各種ソリューションを提供していく.