ラインシミュレーションの活用による工事効率化・生産性向上
床版取替工事のバーチャル現場構築で工期と人員配置の最適化
株式会社IHI
ラインシミュレーションは,製造ラインや物流倉庫,現地工事での作業進捗やモノの流れ,人の動きを予測するツールである.工程全体の効率や生産性を評価し,リードタイム短縮やコスト削減に寄与する.床版取替工事への適用により,見積時間短縮と工事計画の最適化による費用削減の提案が可能となる環境を構築した.

はじめに
ラインシミュレーションとは,製造ラインや物流倉庫,建設現場の作業工程をデジタル上で再現し,最適な作業フローや人員配置を検討するためのツールである.作業内容や時間,作業順序,人員数などを入力し,作業時間のばらつきや設備故障といった変動要因,人や場所,設備の競合といった制約条件を設定する.それらの情報を基に作業進捗やモノの流れ,人の動きを予測し,工程全体の効率や生産性を評価する.
これを活用することで,生産数の増加やリードタイム短縮への改善案をシミュレーション上で試行し,現実での試行錯誤を抑えて迅速に選定・実施できる.また,短いリードタイムやリーズナブルな価格での製品・サービスの提供も可能となる.
床版取替工事への適用
高度経済成長期に建設された道路橋の老朽化が進む中,適切な保全が急務となっている.IHIグループでは,車両や歩行者が通行する橋梁の平らな部分(床版)の取替工事に取り組んでおり,お客さまからの要望にも迅速に対応できるよう,ラインシミュレーションを活用した見積支援システムを構築した.

システムは床版取替工事を模擬してバーチャル現場を構築するもので,その特長は以下である.
- (1)個々の現場の状況に対応できる汎用性
- 床版取替工事は使用機材や施工範囲,橋桁の種類などにより,作業の内容や有無,順序が異なる.バーチャル現場ではこれらの差異を考慮して,作業の流れを再現している.床版の撤去や架設のように1 日単位で繰り返す作業(右図上部)と,鉄筋や型枠の組立,コンクリート打設のように工区全体をまとめて行う作業(右図下部)とに大別し,模擬している.
- (2)作業者の工種と人数の考慮
- 床版取替工事では作業(工種)ごとに担当する作業者が異なり,安全上必要な人数や,同時作業可能な人数も異なる.バーチャル現場ではこれらを考慮したうえで,割り当てられた人数(右図中央部)に応じて,各作業の所要時間が変更される.また,作業が完了するたびに現在進行中の作業も含めて作業者の割り振りを再度行うことで,より現実に即した人員配置での工事の進捗を模擬することができる.
- (3)実績に基づく作業時間の設定
- 床版取替工事をバーチャル現場で模擬する際には,作業ごとの工数が重要である.これまでの床版取替工事での作業分析結果や工事実績を基に,各作業に対して施工数量と原単位を設定している.この原単位を用いることで,過去工事の再現のみならず,新規工事でも作業の進捗を予測できる.

コンフィグレーターとしての活用
コンフィグレーターとは,お客さまからの要求を入力して製品やサービスの組み合わせを作成するツールで,自動車販売店などで普及が進んでいる.床版取替工事では,工事条件を入力して人数と工期の関係を導出する仕組みと位置付け,ラインシミュレーションで構築したバーチャル現場を活用している.
バーチャル現場に,施工数量や使用機材を入力して現地工事を再現し,工種ごとの人数を変更して工期を予測する.条件を変更した結果を集計することで,求められる工期に応じた適切な人員配置を導出することができる.また,作業スケジュールをガントチャートで出力し,工事計画の素案を作成することもできる.これにより,早期の見積もり回答とコスト削減の両立を目指している.
おわりに
ラインシミュレーションを活用して,床版取替工事を模擬してバーチャル現場を構築した.見積もり時にこれを活用して事前検討を行うことで,お客さまへの見積もり回答に要する期間を短縮できる見通しが立った.
ここでは,ラインシミュレーションを現地工事に対して活用した際の技術を紹介したが,本技術は工場の生産性評価にも活用できるものである.複数案から最適な選択肢を事前に比較評価などに活用して改善・改革を進め,さまざまな製品やサービスのリードタイムの短縮やコスト低減を進めていく.