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鉄道車両台車枠溶接継手の信頼性管理手法

  大谷佳広,髙梨正祐,豊田 真,酒井信介

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大谷 佳広 技術開発本部技術基盤センター数理工学技術部 博士(情報学)
髙梨 正祐 技術開発本部技術基盤センター材料・構造技術部 主査 博士(工学)
豊田  真 技術開発本部技術基盤センター数理工学技術部 部長 博士(工学)
酒井 信介 株式会社神戸工業試験場 兼 横浜国立大学 総合学術高等研究院 博士(工学)

 供用中の鉄道車両台車枠に加わる荷重は大きく変動するため,溶接継手の疲労寿命を評価する場合には荷重と材料強度の両方についてばらつきと不確実性を注意深く検討する必要がある.本研究では信頼性工学に基づき,破壊確率と信頼水準を明確に区別した新しい手法を開発した.荷重のばらつきが比較的小さい場合にはシンプルな式により破壊確率と安全率を決定できることを示した.容易に参照できるよう,目標破壊確率に応じた安全率を表形式で掲載した.荷重のばらつきが比較的大きい場合にはモンテカルロ法を用いることにより破壊確率を求めることができることを示した.最後に,先行文献に記載の事例について破壊確率を算出し,その結果について考察した.

The load on bogie frames for railway vehicles in service varies greatly, which requires careful consideration of both variability and uncertainty in load and material strength when assessing the fatigue life of welded joints. In this study, a new method was developed based on reliability engineering to clearly differentiate between reliability and confidence level. The results showed that a simple formula could be used to determine the probability of failure and safety factor when load variation was relatively small. For easy reference, we provided the tables of partial safety factors for the target reliability. In situations with large load variation, we found that Monte Carlo simulations were effective for calculating the probability of failure. Lastly, we compared our calculated probabilities of failure with the literature and discussed these results.


1. 緒言

 鉄道車両台車枠は,車体に加わる荷重を支持する台車の主要な強度を担う構造部品である.1950 年代以前はボルト結合によって組み立てられていたとされる ( 1 ) が,溶接技術の発達に伴い,現在では溶接構造が採用されている.

 他の機械機器や溶接構造物と比較したときの台車枠に加わる荷重の著しい特徴として,走行条件や線路状態に依存して非常に変動が大きくなることが挙げられる.
 例えば牧野ら ( 2 ) は,走行中の応力測定試験の結果より,走行1 km当たりの疲労損傷度は対数正規分布に従うことを見いだしている.これは著者らの経験にも合致するものである.この事実は,材料強度の不確かさのみならず,荷重の不確かさも考慮に入れた確率論的強度評価をする必要があることを示唆している.

 我が国における台車枠の設計は,JIS規格 ( 3 ) に準じて行われる.JIS規格では経験的に荷重が与えられ,台車枠に発生する応力が疲労限度を超えないように設計される.また,走行試験を行って発生応力頻度から溶接継手の疲労寿命および強度を推定する方法としては,長瀬の方法 ( 1 ) も用いられる.
 しかし,これらの手法には確率論が陽な形で取り入れられておらず,走行距離に応じた定量的な破壊評価ができない.

 材料強度側,荷重側の双方のばらつきを考慮し,確率論を用いて溶接継手の破壊確率を求めた先駆的な事例として,牧野ら ( 2 ) の研究が挙げられる.牧野らの成果は鉄道車両台車枠の疲労損傷評価に信頼性工学的手法 ( 4 ) を導入したこと,実測データに基づく評価をしたことである.

 本稿では,小標本の不確定性をも取り入れたうえで鉄道車両台車枠の溶接継手を対象とした確率的寿命評価法を提案し,信頼性工学的取扱いを強化した.荷重側のばらつきの大小によって手法を場合分けし,荷重側のばらつきが小さい場合においては部分安全係数表が適用できることを示し,荷重側のばらつきが大きい場合にはモンテカルロ法によって破壊確率が算出できることを示した.
 最後に,フローチャートを示して具体的な信頼性管理の手順を提案し,実問題に適用可能な形とした.

2. 数式記号一覧

2. 数式記号一覧

3. 信頼性評価手法

3.1 限界状態関数

 第1図に示すように,ka走行したときに荷重によって生じる累積疲労損傷度DLは,kaとともに増加する.一方,材料に損傷が発生する限界疲労損傷度Dcrは任意の走行距離kaによらず,常に同一の母集団からのサンプルとする.ここではDLがDcrを超えたときに破壊が生じると考え,( 1 ) 式のように限界状態関数を定義する.

G = Dcr− DL 	 ( 1 )
第1 図 走行距離に対するDcr とD の確率密度分布の関係 Fig. 1 Probability distributions of Dcr and D against mileage
第1図 走行距離に対するDcr とD の確率密度分布の関係
Fig. 1 Probability distributions of Dcr and D against mileage

 すなわち,G < 0となったとき破壊が生じると考える.累積疲労損傷度はレインフロー法などによって応力範囲を計数し,修正マイナー則などの損傷則を用いて算出する.

 本手法では,小標本であることに伴う不確定性を取り扱うため信頼水準1− γを設定し,目標信頼度1− pA(破壊確率pA)を決定したうえで,部分安全係数もしくは走行距離を決定する.具体的には酒井の文献 ( 5 ) あるいはIIW指針 ( 6 ) を参考にし,DcrもしくはDLの従う確率分布の母数μ*,σ*(*はRもしくはL)が確率1− γで取り得る最悪値である信頼上限(もしくは下限)μ*,γ ,σ*,γを明確にし,母数が最悪値を取る場合の非破壊確率が1− pAとなるように部分安全係数を算出した.

 信頼水準1− γの値は受発注者の合意によって決めるべきものであるが,目安としては,例えばIIW指針 ( 6 ) に0.875と記載がある.また,米軍MIL規格における軍用機の許容値の値である0.95も参考にすることができる ( 7 ).

3.2 材料に損傷が発生する限界疲労損傷度Dcrについて

 規格類においては溶接継手の疲労寿命は,横軸に疲労寿命,縦軸に応力範囲を取った両対数グラフ上で,右下がりの直線を中心に分布すると仮定されている ( 8 ),( 9 ).疲労限度を考慮しない修正マイナー則を仮定すると,一定の応力範囲Sが作用した場合の予測寿命NfSは( 2 ) 式で表される.

C = S mNf S 	 ( 2 )

 ここに,C,mは定数であり,確定値である.したがって,寿命の予測値であるNfSも確定値である.しかし,実際に疲労試験を実施すると疲労寿命nfSはばらつきを示す.溶接継手に限らず,一般に金属材料の疲労寿命は,疲労寿命曲線の傾斜部においては対数正規分布に従う ( 10 ).そこで,nfSを確率変数として考え,疲労破壊が生じる限界疲労損傷度を表す確率変数Dcrを( 3 ) 式のように寿命比として定義する.

(3)

 仮に材料強度のばらつきが一切なければ,Dcr = 1で必ず材料は破壊するが,実際にはDcrは1を中心にばらつく.nfSが対数正規分布に従うと仮定した場合,Dcrも同様に対数正規分布に従う.確率分布の変数変換の公式からln (Dcr) の分散はln (nfS) の分散と等しくなる.作用する応力範囲が一定でない場合においても市川の文献 ( 10 ) を参考に,Dcrを寿命比として定義し,対数正規分布に従うものと仮定する.

 いま,疲労試験データの数がNR 個あり,Dμcrの標本dR,1,dR,2,・・・,dR, NRが得られているものとする.このとき,ln (Dcr) の標本平均を ,不偏分散をと定義する.

 信頼水準1− γを所与のものとして,ln (Dcr) の母平均μRおよび母分散の最悪値を推定することを考える.μRの最悪値は信頼水準1− γに対するμRの信頼下限μR, γであり,の最悪値は信頼水準1− γに対するの信頼上限であるとみなせる.ここで,母平均μRは小さい方が非安全側であり,母分散 は大きい方が非安全側であることに注意する.これらはおのおの( 4 ),( 5 ) 式で与えられる.

(4)(5)

 ここに,tγ ( N − 1 )は自由度がN − 1のt 分布の,上側確率γに対応するパーセント点である.また,は自由度がN − 1のχ2分布の,上側確率1− γに対応するパーセント点である.ここではμR,σRのおのおのが同時に信頼限界下限値および上限値を取る場合を最悪ケースと考える.この考え方はIIWの指針 ( International Institute of Welding,2008 ) ( 6 ) においても記述されている.最悪ケースにおける,Dcrの母平均をEγ [ Dcr],母分散をVγ [ Dcr ]と定義すると,対数正規分布の性質から( 6 ),( 7 ) 式のように書ける.

(6)(7)

3.3 走行荷重によって溶接継手に生じる累積疲労損傷度DLについて

 いま,走行試験により,単位距離当たり疲労損傷度DLiについてNL 個の標本dL, 1,dL, 2,・・・,dL, NLが得られているものとする.著者らの実測経験では,単位距離a走行したときの疲労損傷度DLiは単位距離をa = 1として区間分割を行えば対数正規分布に従うが,a = 0.5とすれば対数正規分布に従わないことが判明している.そのため,本稿では以後,a = 1とし,DLiが対数正規分布に従うものとする.
 なお,文献(牧野他,2022) ( 2 ) においても,区間長を0.52 ~1.75 kmとして区間分割すればDLiが対数正規分布に従うことが指摘されている.本手法は,単位距離a走行したときの疲労損傷度DLiが対数正規分布に従うことを前提としているため,今後,新たな測定データを検討する場合は,単位距離aを仮定して区間分割したうえで,その結果得られるサンプルdL, 1,dL, 2,・・・,dL, NLが対数正規分布に従うかどうかを何らかの統計的検定で確認することが望ましい.

 いま,距離ka走行したときの累積疲労損傷度は( 8 ) 式で書くことができる.

(8)

 ここに,DL1,DL2,・・・,DLkは単位距離当たり疲労損傷度を表す確率変数であり,独立同分布の対数正規分布に従う.DLの確率分布の厳密解を求めることは困難であるが,DLの近似分布の候補として正規分布を考えることができる.その理由は中心極限定理によるとk → ∞においてDLが正規分布に漸近することが保証されているためである.しかし,DLiの歪度(わいど)が大きい場合,評価したい実用上のkの下限としてk = 105(走行距離10万 km,単位距離a = 1を想定)としたとき,正規分布への収束が実現しないこともあり得る.したがって,3. 4 節においてモンテカルロシミュレーションによって正規分布への収束性を確認する.

 3. 2 節と同様の議論により,所与の信頼水準1− γに対し,DLの母平均と母分散の最悪値を推定することを考える.DLiが対数正規分布に従うことを考慮し,ln (DLi) の標本平均および不偏分散がそれぞれであるとする.このとき,信頼水準が1− γであるとすると,ln (DLi) の母平均μLおよび母分散の信頼上限は( 9 ),( 10 ) 式のように書ける.

(9)(10)

 3. 2 節と同様に,μL,σLのおのおのが同時に信頼限界上限値を取る場合を最悪ケースと考え,最悪ケースにおけるDLiの母平均および母分散を最悪値とみなすことにする.すると,対数正規分布の性質から,上記のμL, γ,を用いてDLiの母平均および母分散の最悪値Eγ [ DLi],Vγ [ DLi ]は( 11 ),( 12 ) 式のように書ける.

11-12

 平均および分散の加法性から,DLの母平均および母分散の最悪値Eγ [ DL ],Vγ [ DL ]は( 13 ),( 14 ) 式のように書ける.

13-14

3.4 中心極限定理における正規分布への収束性の確認

 一般に,独立同分布に従うn 個の確率変数Xiの和の分布は,中心極限定理によりnが大きくなると正規分布に収束する.その収束速度は,Xiの歪度に影響されることが知られている ( 11 ).いま,DLiは対数正規分布に従うと仮定しており,対数正規分布Xi ( μL, γ , σL, γ ) の歪度はσL, γ のみに依存する.そこで,実用上取り得る値として文献 ( 2 ) における止端半径の大きい場合,および著者らの経験を参考にし,μL, γ = −15および,μL, γ = −20と固定したうえでそれぞれについてσ L, γの値を変化させ,正規分布への収束性を数値的に確認した.任意の走行距離を単位距離で除した数,すなわちDLiの個数であるkは寿命評価の実用上の下限を考慮し,k = 105とした.

 ここでは乱数を用いてDLの標本を104回生成し,その正規確率紙プロットを描いた.μL, γ = −20の場合において,σ L, γ = 1.5,1.75,2.0とした場合におけるプロットを,第2図 ~ 第4図に示す.
 σL, γ = 1.5の場合はデータ点が直線状であるが,σL, γ = 1.75の場合には湾曲が見られ,σL, γ = 2.0の場合には明らかな屈曲が見られる.μL, γ = −15の場合においても同様の結果が得られた.

fig2
fig3

 さらに定量的に評価するために,第2図 ~ 第4図における相関係数の値を第1表に示す.σL, γ = 1.5の場合は相関係数が0.9997であり,DLは正規分布に従うことが確認できる.また,μL, γが−15であっても−20であっても結果が変わらないことが分かる.したがって,正規分布への収束が得られるかどうかの判断の目安は,σL, γ = 1.5であると考えられる.

fig4
第1 表 第2 図 ~ 第4 図における縦軸と横軸の相関係数 Table 1 Correlation coefficients for Figs. 2 to 4

4. 破壊確率および安全係数の算出 σL, γが1.5以下の場合

4.1 破壊確率の算出

 ここでは,σL, γが1.5以下の場合を考える.このときDLは中心極限定理により正規分布に従うとみなすことができ,その信頼水準1− γでの平均値と分散の最悪値はおのおの( 13 ),( 14 ) 式で与えられる.Dcrは対数正規分布に従うことを仮定しているから,例えばAFOSM法 ( Advance First-Order Second-Moment method ) ( 4 ) を用いれば破壊確率を算出することができる.
 なお,σL, γが1.5よりも大きい場合には中心極限定理による収束は保証されないため,モンテカルロ法で破壊確率を求める必要がある(5 章に記述).

15

 ここに,F( μ, σ, x ) は平均値がμ,標準偏差がσである正規分布の変数xに対する累積分布関数である.

4. 破壊確率および安全係数の算出 σL, g が1.5 以下の場合

4. 1 破壊確率の算出

 ここでは,が1.5以下の場合を考える.このときDLは中心極限定理により正規分布に従うとみなすことができ,その信頼水準1− γでの平均値と分散の最悪値はおのおの( 13 ),( 14 ) 式で与えられる.Dcrは対数正規分布に従うことを仮定しているから,例えばAFOSM法 ( Advance First-Order Second-Moment method ) (4) を用いれば破壊確率を算出することができる.なお,が1.5よりも大きい場合には中心極限定理による収束は保証されないため,モンテカルロ法で破壊確率を求める必要がある(5 章に記述).

 が1.5の場合には,DLiの変動係数は約2.91となる(対数正規分布(μ, σ )の変動係数はσのみに依存する).DLの変動係数はであるから,実用上のkの下限としてk = 105程度を仮定しても,DLの変動係数は0.00921である.一般に溶接継手疲労寿命の場合,Dcrの変動係数は0.1以上の値となることが多いことを考えると,が1.5よりも小さい場合,DLのばらつきはDcrのばらつきに比べ1 桁以上小さいといえる.DLのばらつきはDcrのばらつきに比べ無視できるとみなすと,DLは確定値としてとして扱えるため,非常に簡便な式で破壊確率を求めることができる.信頼水準1− γの場合における破壊確率pは( 15 ) 式の形で与えられる.

15

 ここに,F( μ, σ, x ) は平均値がμ,標準偏差がσである正規分布の変数xに対する累積分布関数である.

 なお,信頼水準1− γが0.875もしくは0.95の場合において およびNLに対するの値を第2表,第3表にまとめた.が1.5より大きくなる場合は斜体で記し,うすずみを施してある.おおむねNLが100以下でははNLに大きく依存するが,NLが100を超えるとNLに対する依存性が小さくなることが分かる.したがって,推奨すべきNLの目安として100程度の値が想定される.

第2表
第3表

4.2 部分安全係数の算出

 機械学会基準 ( 4 ) にのっとると,所与の目標破壊確率pAが与えられた場合における,荷重側と強度側のおのおのの部分安全係数を算出することができる.具体的には以下のように算出する.

・ 強度側の平均値μR, γおよび標準偏差σR, γに変化率δを乗算し,破壊が生じる確率が最も高い点である設計点および破壊確率pを算出する.
・ 破壊確率pがpAに一致するようにδを変化させ,収束計算を行う.
・ 設計点の値と平均値の比を,部分安全係数PSFとする( ( 16 ),( 17 ) 式).

16-17

 ここに,PSFRは強度側の部分安全係数,PSFLは荷重側の部分安全係数である.

 4. 1 節で仮定したように,荷重側のばらつきが無視できる場合においては,であるから,PSFL = 1である.強度側の平均値および標準偏差に変化率δを乗算する操作においては,変動係数が一定であるから,乗算後の対数正規分布の母数 ( μ, σ ) のうち,σはσR, γのまま不変である.この事実を用いると,簡単な計算により,PSFRは(18) 式のように求められる(第5図).

第5図
18

 ここに,βは信頼性指標であり,β = −Φ−1(pA) であり,Φは標準正規分布の累積分布関数である.

 信頼水準1− γを0.875もしくは0.95,目標破壊確率pAを0.001もしくは0.005,Dcrの標本平均 を1としたときの,Dcrの変動係数およびNRに対する部分安全係数PSFRを第4表 ~ 第7表にまとめた.

 ここに,信頼水準の値は前記3. 1 節で記載したように,IIW指針 ( 6 ) と米軍MIL規格 ( 7 ) を参考にした.また目標破壊確率は文献 ( 2 ) および著者らの経験から,鉄道車両台車枠に求められる破壊確率として工学的判断により設定した.NRが10以下のときはPSFRはNRに対して大きく依存するものの,NRが20以上になるとPSFRのNRに対する依存性が小さくなることが分かる.したがって,NRの目安として10 ~ 20の値が想定され,材料試験のコストと安全係数を大きく取ることによるコストの比較衡量により設計者が決定すべきである.

4-5
6-7

 なお,Dcrの変動係数COV(Dcr) からln (Dcr) の不偏分散 を求めるに当たっては( 19 ) 式が成り立つものと仮定し ( 4 ),さらに ( 5 ) 式を用いてσR, γを算出した.

19

5. 破壊確率の算出 σL, γが1.5よりも大きい場合

 4章では,σL, γが1.5以下の場合について検討したため, を小さな値に設定した.本章では,σL, γが1.5よりも大きな場合について検討するため,一例として,牧野らの文献 ( 2 ) に記載の を用いた場合を取り扱う.牧野らの止端半径が大きい継手の場合の記述を参考に,各種パラメータを次のように仮定した.
 すなわち,

5-1

とする.また,前述のように単位距離aは,a = 1と仮定した.

 上記パラメータを用い,信頼水準1− γを0.875もしくは0.95として検討を行った.信頼水準1− γが小さい方の0.875とした場合においてもσ Lの最悪値であるσ L, γ は3.724であり1.5を超過する.したがって,中心極限定理によりDLが正規分布に収束するとみなすことは不可能であり,かつVγ [ DL ]がVγ [ Dcr ]に対して無視できないと判断し,モンテカルロ法により破壊確率pを求めた.

 信頼水準1− γを0.875もしくは0.95とし,走行距離と破壊確率の関係を示したものを第6図に示す.第6図より,破壊確率は信頼水準1− γに対して大きく変化することが分かる.この理由は標本数NRおよびNLが小さいためと考えられる.信頼水準1− γに依存する不確実性は物理的に生じる本質的なばらつきではなく,小標本であることに起因する確率論的不確定性であるから,この不確実性を減ずるためできるだけ標本数NR,NLを大きくすることが望ましい.

fig6

 なお,モンテカルロシミュレーションにおける試行回数に対する破壊確率の収束状況を第7図に示す.破壊確率は試行回数に対して収束しており,試行回数は十分であったものと考えられる.

fig7

 第6図で示す破壊確率は牧野らが算出した破壊確率よりもかなり大きい.この理由として,牧野らの文献(牧野他,2022) ( 2 ) では,母集団の統計的性質 ( Statistical property ) と小標本による不確定性 ( Uncertainty ) の区別が整理されていない,累積損傷値Dの最悪値を評価して論ずるべきであるところそれが明確になっていない,Dの最悪値を評価するうえではσ Lの不確定性について論じるべきであるところそれが論じられていない,という3 点が挙げられる.

6. 信頼性管理手法の提案

 本稿の手法を具体的に適用する用途として,台車新製時に走行試験を行い,設計走行距離に対して台車溶接部の疲労強度が目標信頼性を満足することを確認する場合が挙げられる.設計時の信頼性管理手法の手順を第8図に示す.

第8 図 信頼性管理手法のフローチャート Fig. 8 Flowchart of reliability management method
第8図 信頼性管理手法のフローチャート
Fig. 8 Flowchart of reliability management method

 最初に信頼水準1− γと目標破壊確率pA,設計走行距離kaを決める.これまでkaは任意の走行距離としてきたが,これを設計走行距離と読み替えても同様の議論が成り立つことに注意する.次に,が1.5より大きいか否かで場合分けを行う.が1.5以下の場合には4章に記載の部分安全係数表(第4表 ~ 第7表)を用いて部分安全係数PSFRを求め,(20)式が満たされていれば目標信頼性を有していることの確認ができたことになる.

20

 ここで,Dcrの最悪値であるEγ [ Dcr ]は,( 4 ) ~ ( 6 ) 式を用いて求めることができる.また,DLの最悪値であるEγ [ DL ]は( 9 ),( 10 ),( 13 ) 式を用いて求めることができる.

 ( 20 ) 式が満たされない場合は設計走行距離が過大であるので設計走行距離kaを減少させて評価をやり直すか,溶接継手の止端部に仕上げ加工を追加するなどの設計変更を行う.

 が1.5より大きい場合には5章に記載のモンテカルロ法により破壊確率pを求め,p < pAであることを確認すればよい.

 過去の類似台車の試験結果などから先験的に溶接継手に生じる単位距離当たりの累積疲労損傷度DLiの分布が分かっている場合には,設計段階で( 20 ) 式あるいはp < pAが満足されるかどうかを確かめ,満たされなかった場合には設計変更を検討することも可能である.

 本稿の手法は上記用途の他,維持管理用途にも使用することができる.具体的には,供用中に台車が運用される路線が路線 Aから路線 Bに変わる場合において,再度走行試験を実施して残余の走行可能距離を推定する場合である.なお,新造当初に路線 Aで走行試験が行われているものとする.すると,路線 Aでの走行距離が既知であれば累積疲労損傷度の最悪値Eγ [ DL, A ]は( 9 ),( 10 ),( 13 ) 式により求められる.その後,供用される路線がBに変更された場合の目標信頼性は,路線 Bにおける目標走行距離を仮定したうえで同様にして累積疲労損傷度の最悪値Eγ [ DL, B ]を求めれば,( 21 ) 式により評価することができる.

 すなわち,過去に路線 Aで生じた累積疲労損傷度の最悪値と,未来に路線 Bで生じる累積疲労損傷度の最悪値の和を,トータルの累積疲労損傷度の最悪値とみなせばよい.モンテカルロ法により評価する場合も同様である.

7. 結言

 供用荷重下における鉄道車両台車枠の溶接継手を対象とした破壊確率評価法について検討し,信頼性工学の手法にのっとり信頼水準と目標信頼度を定めたうえで信頼性を管理する具体的方法をフローチャートの形で提案した.そのうえで,以下のことを明確にした.

(1)  荷重のばらつきが小さい場合には材料強度のばらつきのみを考えればよく,その場合には簡便な式で破壊確率や安全係数を求めることができる.
(2)  荷重の標本数NLの目安として100程度の値が想定される.また,強度の標本数NRの目安として10 ~ 20の値が想定される.
(3)  荷重のばらつきが大きい場合には,モンテカルロ法より破壊確率を求める必要性を示し,具体的な数値計算例を示した.
(4)  単位距離当たり損傷度DLiを求めるために区間分割を行う際は,DLiが対数正規分布に従うように単位距離aを定めるべきである.

 今後,材料試験データや走行試験データを拡充して本稿に示した信頼性に関する分析を行い,設計上考慮すべき信頼水準や破壊確率についてのコンセンサスの形成を図っていく必要があると考えられる.また,本手法を台車枠の新規設計および製造時に活用するだけでなく,運用中の台車枠の余寿命評価を含む維持管理手法に反映させていくことが望ましいと考えられる.

参考文献

(1) 長瀬隆夫:鋼製溶接構造台車枠の疲労強度,研友社,初版,2010 年

(2) 牧野泰三,加藤孝憲,長谷川翔一,山崎陽介,亀甲 智,下川嘉之:部分安全係数法 ( JIS B9955-2017 ) を用いた鉄道車両用台車枠溶接部の寿命と破壊確率の評価,日本機械学会論文集,Vol. 88,No. 915,2022 年,DOI:10.1299/transjsme.22-00102

(3) 一般財団法人日本規格協会:JIS E4207 鉄道車両-台車-台車枠設計通則,2019 年

(4) 一般社団法人日本機械学会:JSME E018-2018 部分安全係数法を用いた機械製品の信頼性評価に関する指針,2018 年

(5) 酒井信介:許容応力の確率論的決定法,圧力技術,Vol. 60,No. 1,2022 年,pp. 18-23

(6) International Institute of Welding:Recommendations for fatigue design of welded joints and components,XIII-1539-96/XV-845-96,( 2008 )

(7) アメリカ国防総省:MIL-HDBK-5J,Metallic materials and elements for aerospace vehicle structures,( 2003 )

(8) 日本鋼構造協会編:鋼構造物の疲労設計指針・同解説 - 付・設計例 -,2012 年

(9) British Standards Institution:BS 7608:2014+A1:2015 Guide to fatigue design and assessment of steel products,BSI Standards Publication,( 2015 )

(10) 市川昌弘:構造信頼性工学 - 強度設計と寿命予測のための信頼性手法,海文堂出版,初版,1988 年,p. 48

(11) 蓑谷千凰彦:計量経済学大全,東洋経済新報社,初版,2007 年,p. 339