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玉軸受の性能解析ツールの紹介

  伊藤 昭,柴田 愛

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伊藤 昭 技術開発本部技術基盤センターターボ・機械要素技術部 チーム長
柴田 愛 技術開発本部技術基盤センターターボ・機械要素技術部

 IHIグループの製品で多く使われている転がり軸受は,製品の性能を左右するキーコンポーネントとなることも多いため,軸受の剛性や内部の応力分布などの特性や性能を予測し把握する技術は重要である.転がり軸受の中でも特に使用頻度の高い玉軸受を対象に性能を解析するツールの整備を進めているのでその概要を紹介する.

Rolling bearings, which are widely used in IHI products, often play a critical role as key components that significantly affect product performance. Therefore, it is essential to estimate and understand their characteristics and performance, such as bearing stiffness and internal stress distribution. To meet the necessity, we are developing an in-house tool to analyze the performance of ball bearings, which are among the most frequently used types of rolling bearings. This paper provides an overview of this tool.


1. 緒言

 転がり軸受はIHIグループの多くの製品で使われている.第1図に転がり軸受を示す.使用環境は高速から低速,高荷重から低荷重,高温から低温までさまざまで,一般的なカタログで推奨される条件を越えて使用される場合も多い.軸受の性能が製品の性能を左右する場合もあるため,使用環境を考慮して軸受の剛性や内部の応力などの性能を予測し把握することは重要である.一方で転がり軸受の性能を解析するツールは市販されているものもあるが,一般にソースコードは公開されないため,どのような仮定や理論を用いているのかが不明であり,適用範囲や精度を把握できないという課題がある.そこで内製の解析ツールの整備を進めている.

第1 図 転がり軸受 Fig. 1 Rolling bearings
第1図 転がり軸受
Fig. 1 Rolling bearings

2. 概要

2.1 解析ツールの概要

 この解析の計算対象は単列の深溝玉軸受およびアンギュラ玉軸受である.主な入出力項を第1表に示す.

第1 表 解析の主な入出力 Table 1 Main Inputs and Outputs of the Analysis
第1表 解析の主な入出力
Table 1 Main Inputs and Outputs of the Analysis

 軸受諸元に関する主な入力項の説明を第2図および第3図に示す.これらのほとんどの値はカタログや軸受メーカから入手することができる.不明な値については実測や過去のデータからの類推により決定する.

第2 図 軸受諸元に関する入力項 Fig. 2 Input items related to bearing specifications
第2図 軸受諸元に関する入力項
Fig. 2 Input items related to bearing specifications
第3 図 内輪溝曲率比( 外輪も同様) Fig. 3 Groove curvature ratio of inner ring ( Outer ring also applies )
第3図 内輪溝曲率比( 外輪も同様)
Fig. 3 Groove curvature ratio of inner ring ( Outer ring also applies )

 軸受の設計諸元と材料物性,荷重などの運転条件を入力して解析を流すと玉と内外輪の接触状態や玉の自転,公転速度,軸受剛性など軸受の性能に関する値が算出される.ツールはMicrosoft Excelで作られており,プログラムはVBAによるコードを利用している.計算負荷は低く汎用のPCで使用することができ,計算時間は1 ケース当たり数分ほどである.なお,この解析は慣性項を含む定常解析であり,時刻歴応答には対応していない.

2.2 計算のフロー

 計算は主に二つの段階から構成されている.第一段階として,軸受に作用するラジアル荷重,アキシアル荷重,モーメント荷重と,軸の回転に伴う玉の遠心力に対して力の釣り合いが成り立つように玉と内外輪の相対位置を求める.その結果,個々の玉と内外輪の接触に関する反力,応力,接触角などの状態量を得ることができる.この計算はA. B. Jonesの理論 ( 1 ) をベースにしている.第一段階の計算のフローを第4図に示す.次に第二段階として,その計算結果を基に,軸受剛性や振動周波数などの特性を計算する.

第4 図 計算フロー Fig. 4 Calculation flow chart
第4図 計算フロー
Fig. 4 Calculation flow chart

3. 解析の出力

 出力の詳細について,代表的なものを紹介する.

3.1 玉と内外輪の接触状態

 内外輪の溝曲率半径は玉の曲率半径よりも数%ほど大きいため,玉と内外輪が接近するとまず点接触する.その後,荷重の増加に伴い弾性変形をしながら荷重を支え,接触部の形状はだ円となる.その面積は小さいため応力は高くなり,一般に2GPa前後の値となる.このときの反力や応力,弾性変形量は軸受の寿命や剛性に影響する重要な値である.この玉と内輪の接触状態を第5図に示す.この計算に当たっては,弾性変形を考慮した2 体間の接触問題を扱うヘルツ理論 ( 2 ),( 3 ) を利用している.

第5 図 玉と内輪の接触状態 Fig. 5 Contact between ball and inner ring
第5図 玉と内輪の接触状態
Fig. 5 Contact between ball and inner ring

3.2 玉と内輪間のPV値

 軸が回転するときに,軸受の玉は自転をしながら公転する.このとき,玉の自転軸はある特定の向きになることが知られている ( 4 ).第6図に外輪コントロールと呼ばれる状態を示す.これは玉と外輪の接触部の延長線と玉の自転軸の延長線が回転軸の中心線上で交わる状態であることを示している.このとき,玉と内輪の接触部にはスピンと呼ばれる滑りが生じる.外輪コントロール時の内輪側のスピン滑りを第7図に示す.

第6 図 外輪コントロール Fig. 6 Outer ring control
第6図 外輪コントロール
Fig. 6 Outer ring control
第7 図 外輪コントロール時の内輪側のスピン滑り Fig. 7 Spin slipping on inner ring side under outer ring control
第7図 外輪コントロール時の内輪側のスピン滑り
Fig. 7 Spin slipping on inner ring side under outer ring control

 スピンが生じている玉と内輪の間には第5図に示したヘルツ応力が作用している.そのため,玉と内輪はヘルツ応力が作用した状態で滑りが生じていることになる.この応力と滑り速度を掛けた値がPV値である.これらの関係を第8図に示す.このPV値は高速で使われる軸受の発熱量の予測や潤滑が十分でないときの軸受の焼き付きに対するリスクを評価する際の指標となる.

第8 図 スピン滑りによるPV 値 Fig. 8 PV value owing to spin slipping
第8図 スピン滑りによるPV 値
Fig. 8 PV value owing to spin slipping

 なお,アンギュラ玉軸受が回転すると玉は遠心力の影響で外輪に押付けられるため,通常は内輪側よりも外輪側における摩擦が大きくなる.その結果,外輪コントロールの状態で回転していることが多いが,ある特定の条件で内輪コントロールになり,玉と外輪の接触部でスピンが生じる場合がある.本ツールではどちらの計算にも対応できるようになっている.

3.3 軸受剛性

 軸受に荷重を作用させると玉と内外輪の接触部が弾性変形しながら荷重を支持する.この荷重と弾性変形量の関係を使い軸受の剛性を求めることができる.軸受の剛性は,軸の固有振動数を決める重要な要素であり,軸の共振を避けるために精度の良い軸受剛性の見積もりが不可欠である.第9図にアンギュラ玉軸受7008Aの径方向剛性の計算結果と実測値を比較した例を示す.第9図に示すように軸受荷重と軸受変位の関係は非線形性な特性を示す.

第9 図 アンギュラ玉軸受の径方向剛性 Fig. 9 Radial stiffness of angular ball bearing
第9図 アンギュラ玉軸受の径方向剛性
Fig. 9 Radial stiffness of angular ball bearing

3.4 周波数計算

 玉軸受においては,軸がある速度で回転するとそれに比例した回転数で玉が自転および公転する.その回転速度は幾何的な関係から決まる.そのため,軸受の内外輪や玉に傷が生じたときに発生する振動や異音の周波数は計算で求めることができる.計算式 ( 5 ) を第2表に示す.機械に異常な振動が発生した場合,その振動の周波数と計算により求められる周波数を比較することでその異常振動が軸受に起因するものかどうか,そうだとすると軸受のどこに異常があるのか,を判断することができる.

第2 表 軸受の振動周波数の計算式 Table 2 Calculation formula for vibration frequencies
第2表 軸受の振動周波数の計算式
Table 2 Calculation formula for vibration frequencies

 この周波数は玉の接触角の影響を受けるが,軸受が回転していないときの初期接触角を用いて計算を行うことが多い.しかし例えば小さい荷重を受けて高速で回転している場合,玉に作用する遠心力の影響で接触角は変化しやすく,それに伴い振動周波数も変化する.本ツールではその影響を考慮した計算ができるようになっている.その差は小さく,通常は無視をしても問題ない場合が多いが,軸受による振動と他の部位から発生する振動の周波数が近く,区別する必要がある場合などには有効である.本ツールによる周波数の計算例を第3表に示す.

第3 表 周波数計算例( 単位:Hz ) Table 3 Calculation results of frequencies ( unit : Hz )
第3表 周波数計算例( 単位:Hz )
Table 3 Calculation results of frequencies ( unit : Hz )

4. 結言

 玉軸受の性能を計算する内製の解析ツールについて紹介した.本ツールは,適用事例を増やしながら機能の拡張と改良を続けているが,軸受単体しか取り扱えない.一方で,複数の軸受を考慮した軸系全体の性能予測のニーズもある.そこで,現在は市販のツールにより軸系全体を解析し,その出力である軸受荷重を内製ツールの入力にすることで軸系全体と軸受単体の双方を解析できる体制の整備を進めている.今後も製品開発に寄与する技術の開発と構築に努める.

参考文献

(1) A. B. Jones:A General Theory for Elastically Constrained Ball and Radial Roller Bearings Under Arbitrary Load and Speed Conditions,Journal of Basic Engineering,Vol. 82,No. 2,( 1960 ),pp. 309-320

(2) H. Hertz:Ueber die Berührung fester elastischer Körper,Journal für die reine und angewandte Mathematik,Vol. 92,( 1882 ),pp. 156-171

(3) 岡本純三:ボールベアリング設計計算入門,日刊工業新聞社,2011 年

(4) 転がり軸受工学編集委員会:転がり軸受工学,養賢堂,1975 年

(5) 小林政弘ほか:ころがり軸受の音と振動に関する諸問題-1-,機械の研究,Vol. 20,No. 1,1968年,pp. 19-24