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未利用バイオマスから有用なエネルギー源を回収する
微生物によってバイオマスを糖化・発酵させ,メタンガスを生成する実証試験を完了

株式会社IHIプラント   

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これまで廃棄されてきた未利用バイオマスを有用な資源として活用できれば,サーキュラーエコノミーの実現につながる.そこで,ビール粕(かす)などの未利用セルロース系バイオマスを微生物によって糖に変換し,発酵させてメタンガスとして回収する技術の開発について紹介する.

未利用バイオマスのサーキュラーエコノミー

バイオマス処理の課題

2024 年,内閣府はサーキュラーエコノミーと持続可能な経済成長の実現を目的として,バイオテクノロジーやバイオマスを活用するバイオエコノミー戦略を策定した.この中で,未利用バイオマスの有効利用や,新たな培養・発酵プロセスの技術開発が期待されている.

未利用バイオマスは,農業残渣や食品・飲料残渣など我々の社会活動から発生するバイオマスである.過去には産業廃棄物として廃棄処分されてきた経緯がある.

現在,未利用バイオマスは,飼料化・燃料化・たい肥化などの方法で処理されている.しかしながら,飼料化は安い外国産飼料の輸入や家畜の食欲(夏場は食が細くなる)など市況の変動を受け,需要が低いときには余剰残渣が発生する.燃料化は含水率が高いバイオマスには向かない.たい肥化は長い処理時間と広い土地が必要である.これらの問題への対応という課題がある.

本稿ではこれらの課題の解決の一方法となる「微生物糖化メタン発酵技術」を紹介する.

微生物糖化メタン発酵技術とは

微生物糖化メタン発酵技術は,国立研究開発法人国際農林水産業研究センター( JIRCAS )が開発したセルロース系バイオマスを糖・有機酸へ直接変換する微生物糖化技術を中核に,株式会社IHIと株式会社IHIプラント( IPC )が社会実装に向けたプロセスの最適化とスケールアップを行い,IPCが保有する「メタン発酵技術」を統合して構築した新しいプロセスである(特許第7432910 号).

IPCは水中に溶け込んだ有機物から嫌気性微生物によりメタンガスを生産する技術を保有し,内部循環型嫌気性排水処理装置(ICリアクター)として製品化している.ICリアクターは,高速処理かつ省スペースという長所を持つ設備ではあるものの,固体のバイオマスを直接メタン発酵処理することはできなかった.

ビールの製造過程で原料の麦芽などの穀物から糖分や他の成分を抽出した後に残る固形の副産物であるビール粕は,処理が難しい固体バイオマスの一つである.ICリアクターの前処理としてビール粕を分解して液体に溶けやすい状態にすること(可溶化)で,従来は困難であったビール粕のメタンガス化が可能となる.そこで,ビール粕を微生物によって糖化・可溶化する技術と,それに続くメタンガス化までのプロセスの検証を行った.

微生物糖化メタン発酵技術の概要

ビール粕の糖化技術の開発

ビール粕はセルロース系バイオマスに分類される.このビール粕を糖化する微生物(以下,糖化菌)は,JIRCASにおいて探索・選別され,IHIとの共同研究により特定・開発された.

JIRCASは膨大な菌株ストックと,自然界から有用な機能を持つ菌を選別するスクリーニング技術を保有している.JIRCASにおいて,嫌気条件下でビール粕を基質として生育できる微生物を探索し,ビール粕に含まれる繊維質(セルロースおよびヘミセルロース)を効率的に糖化する能力を持つ菌株を選別した.

具体的には,たい肥中に多く存在する微生物を,まずセルロース培地で酸素がない環境下で培養(嫌気培養)することにより,セルロースを基質として生育する菌のみを選別した.その後,それらの菌をビール粕培地で嫌気培養することにより,ビール粕を基質として生育する菌のみに絞り込んだ.その結果,パエニバシラス( Paenibacillus )属細菌がビール粕を分解する糖化菌であることを見いだし,糖化菌を用いたビール粕の処理技術を開発できた(特許第7699358号).

処理プロセスにおいてもビール粕の処理に適した独自のフローを開発した.ビール粕などのセルロース系バイオマスはタンパク質・脂質・リグニン・セルロースやヘミセルロースが複雑に絡み合い,糖化の対象となるセルロースやヘミセルロースへの糖化菌の物理的接触を阻害している.そのため,ビール粕を粉砕した後にアルカリ溶解処理を行って糖化を阻害するタンパク質・脂質を遊離させた後に,固液分離工程にて回収された固体分を糖化処理するというプロセスを考案した.これにより糖化槽での可溶化率を最大化し,メタンガス収率の最大化とランニングコスト・設備コストを含めた最適化を図っている(特許第7432910号).

バイオマスの構造の破壊

実証試験設備の建設と実証試験へ

前述の糖化技術とプロセスフローの成立性を確認するために10 kg/d規模の連続試験を実施し,実証試験設備を設計するための物質収支(マテリアルバランス)データを得た.

さらに国内ビール会社との協業のもと,工場内にビール粕(含水率80%)処理能力10 t/d規模の実証試験設備を建設した(2023 年).実証試験は2024 年から開始し,2025 年6 月に完了した.

糖化技術の開発と糖化設備のプロセスフロー
微生物糖化メタン発酵技術の開発スケジュール

同試験により,設備の性能に加え,電気・水道・加温蒸気・薬品類などのユーティリティコストや,消耗部品の交換頻度に関するデータを取得することができた.

原料バイオマスがメタン発酵前までにどれだけ可溶化したかを示す値である総可溶化率は,目標70%以上に対して77%であった.可溶化したバイオマスがどれだけメタンに変換されたかを示すsCOD除去率は,目標75%以上に対して82%であり,いずれも目標値を上回る結果を得た.なお,sCOD除去率の測定は,実証試験設備の糖化処理液をIPCのラボに持ち込んで実施した.

この結果から,ビール粕またはビール粕に類似した未利用バイオマスを対象に,微生物による糖化技術でメタンガスに変換する設備を商用化する目途をつけることができた.

おわりに

微生物による糖化技術でセルロース系バイオマスを糖へ変換し,メタンガスとして利用できる微生物糖化メタン発酵技術を開発した.さらに10 t/d規模の実証試験を実施して,その性能と実用性を検証した.

社会で未利用のまま廃棄されているバイオマスはビール粕以外にも多く存在する.本技術によりお客さまが処理に困っている未利用のセルロース系バイオマスの有効活用を実現し,サーキュラーエコノミーと持続可能な経済成長の実現に貢献していく.

関連YouTube動画:【次世代環境技術へ挑戦】微生物糖化メタン発酵技術 IHI × JIRCAS( 約9 分)