てくのすこーぷで視た藻類による貴金属回収技術の発明
株式会社IHI
生き物の力を操って貴金属を回収します ―― まるで錬金術のようですが,これはIHIが現実世界で開発した新しい技術です.IHIは藍藻(らんそう)という生物の力を借りて都市鉱山や工業廃液などから金をはじめとする貴金属を取り出す技術を開発し,特許を取得しました.
(特許第7235190号)
皆さん,金(元素記号Au)はお好きですか? 金は装飾品として太古の昔から人々を魅了してきました.近年は産業用途でも重要性が増しています.
今回ご紹介するのはIHIの特許第7235190号「金属回収材,及び金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液から金属を回収する方法」です.この特許の主役は「レプトリングビア ( Leptolyngbya ) 属の藍藻」という生物です.藍藻などの藻類は水中で光合成を行うことが知られていますが,このレプトリングビア属の藍藻は金をはじめとする貴金属回収の分野でも大きな可能性を秘めています.
藍藻で「還元して」「集める」新発想!
従来の金属回収は化学薬品を用いて金属イオンを還元する方法が主流ですが,環境負荷の観点で課題がありました.そこで,IHIでは新しいアプローチとして,この特殊な藍藻の「還元能力」に注目し,これを用いることで,都市鉱山(廃電子基板など)や工業廃液に含まれる金属イオン(金,白金,パラジウム,ロジウムなど)を効率的に回収できることを見いだしました.さらに,藍藻の処理方法や回収プロセスを工夫することで,より高効率な金属回収が可能になります.
藍藻はそのままでも金イオンなどの金属イオンを吸着し,還元して藍藻表面に金属ナノ粒子を生成します.しかし,藍藻を塩酸や硝酸などの酸で洗浄(前処理)することで,もともと藍藻に含まれる金属元素(鉄,銅,カルシウム,マグネシウムなど)を除去し,還元能力をさらに引き出せることが分かりました.金に関する実験では,前処理した藍藻の方が金の吸着率が格段に高いことが確認されています.
また,金属イオンを含む溶液に藍藻を浸漬する際,温度や光の条件を調整することで,金属ナノ粒子の生成と吸着量をコントロールできます.例えば,金イオンを含む溶液で50℃以上の温度で処理すると,藍藻に吸着する金ナノ粒子が増えます.また,青色光や紫外線を照射することで,金ナノ粒子が藍藻にとどまりやすくなるというユニークな性質も確認されました.
金属ナノ粒子はろ過や超音波処理で藍藻から分離することができます.その他の分離方法としては,藍藻自体を焼成して,金属成分だけを取り出すことも可能です.こうした物理的・化学的なプロセスを組み合わせることで,金属を効率良く回収することができます.
実験成果と応用例
この技術は実際の実験で高い応用性があることを確認しています.例えば,金線や金メッキを含む電子基板を塩と硝酸溶液で溶解し,そこに藍藻の乾燥粉末を加えることで,80%以上の金の回収率を達成しました.好みの形に藍藻を成形・焼成することで,ユニークな金の成形物として取り出すこともできます.これらの成形物は装飾品や電子部品素材としての応用も期待できます.目に見えるサイズで回収できるだけでなく,金ナノ粒子のまま分離・回収できることも,興味深いポイントの一つです.金ナノ粒子は独特な性質を持つことから,医療・バイオ分野や光学分野などで注目されています.
また,藍藻抽出液を使った湿式回収も可能である点も大きな特長です.回収できる金属は金だけでなく,パラジウム,白金,ロジウムなど高価な貴金属も含まれ,都市鉱山からの資源循環や未利用資源活用に向けた新たな選択肢となり得ます.
深海への挑戦
深海にはこれまで利用されてこなかった豊富な資源が眠っています.IHIは2021 年には国⽴研究開発法⼈海洋研究開発機構 ( JAMSTEC ) と共同で,深海に湧き出る熱水から金を取り出すことに挑戦しました.2021 年9 月,無人潜水艇により,伊豆諸島・青ヶ島の深海の熱水噴出孔付近に藍藻(シート形状に加工)を設置し,その後662 日間,祈る思いで待ち続けました.2023 年6 月,祈りが届いたのか,深海という過酷な環境にも関わらず,藍藻シートは消失することなく我々を待っていてくれました.回収した藍藻シートを分析したところ,高い濃度で金を回収していることを確認できました.レプトリングビア属の藍藻は,深海の熱水噴出孔という過酷な環境でもその真価を発揮して金を回収することを証明できた瞬間でした.
生物の力を借りて貴重な資源を回収する技術は,未来の資源循環社会を支える柱となる可能性を秘めています.金好きの皆さんも,環境技術にご興味をお持ちの皆さんも,ぜひこの新しい「藍藻 × 貴金属回収」のつくる未来の世界にご期待ください!
(文責:知的財産部)