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天然ガス熱分解による水素製造技術 第2報:連続運転に関する成果報告

  伊藤隆政,澤野壯太,宮城博也,熊谷安造

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伊藤 隆政 技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換技術部 チーム長 博士(工学)
澤野 壯太 技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換技術部
宮城 博也 技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換技術部
熊谷 安造 技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換技術部

 天然ガスを原料とした熱分解による水素製造技術は,従来の水素製造技術に比べて水素生成時に必要なエネルギーが少なく,また炭素を固体として回収できるため,二酸化炭素( CO2 )排出量を抑制しながら低廉な水素を生成できる技術として期待されている.前稿 ( 1 )では,IHIで開発している流動層を活用した熱分解法の概要を報告した.本稿では新たに製作した試験装置(水素生産量10 kg-H2/d)を用いて24 時間を超える連続運転を実施したので,その結果を紹介する.

Hydrogen production by thermal decomposition of natural gas is expected as the key technology to achieve both low cost and low CO2 emissions since the energy consumption in the production process is lower than that of conventional technologies and the carbon in the natural gas is collected in the solid phase. In the previous report(1), the technical concept adapting the fluidized bed for the reactor was introduced. After then, the continuous operation over 24 hours with new experimental equipment (10 kg-H2/d) was achieved. This report informs the results of the continuous operation.


1. 緒言

 脱炭素社会の達成に向けて,燃焼時に二酸化炭素( CO2 )を排出しない水素の利用拡大が期待されている.その一方で,米国では2025 年1 月に第2次トランプ政権が発足し,2022 年制定のIRA法(インフレ抑制法)による水素関連事業を対象とした税控除の縮小が発表された.これを受けて今後,クリーン水素の低廉化がさらに求められることが予想される.このような状況下で,IHIではこれまで1 次エネルギーとして活用されてきた天然ガス(主成分はメタン.都市ガスとして使われる)を対象に,水電解に比べて1/7以下の再生可能エネルギーを熱源として熱分解することで,CO2排出量を抑制しながら水素を製造する技術を開発してきた

 前稿 ( 1 )では,第1表に示す水蒸気改質法や水電解法など従来の水素製造技術と比較し,熱分解法が持つ長所および短所を紹介した.また,熱分解法の中でもIHIで開発している鉄鉱石と流動層を活用した基礎試験結果を紹介した.

table1

 本稿では,新たに製作した試験装置(水素生産量10 kg-H2/d)を用いて24 時間を超える連続運転を実施し,安定した水素製造が可能であることを確認したので,その詳細を紹介する.また,商用化に向けた展望を述べる.

2. IHIの天然ガス熱分解による水素製造

 まず,商用化に向けた水素製造プラントの仕様を紹介する.本技術は,流動層を活用することで反応炉を大型化し,現在,水素製造技術の主流である水蒸気改質法の代替となることを目指すものである.最終的には水素生産量100 t-H2/d相当のプラントを想定している.第1図に開発中の天然ガス熱分解システムを示す.図中の数値は,本システムで想定されるエネルギーバランスとマスバランスを示す試算値である.特にエネルギーに関しては,天然ガス熱分解に必要なエネルギーだけでなく原料の予熱,鉄鉱石の還元,排熱回収を考慮した試算となっている.

第1 図 IHI の天然ガス熱分解システム Fig. 1 Hydrogen
第1図 IHI の天然ガス熱分解システム
Fig. 1 Hydrogen

3. 試験装置(水素生産量10 kg-H₂/d)を用いた連続運転

 試験装置(水素生産量10 kg-H2/d)を用いた連続運転の様子を紹介する.第2図に10 kg-H2/d試験装置の概要を示す.前稿以降の主な変更点として,反応炉の上部に鉄鉱石を供給する装置を設けた.また,反応炉の下部に鉄に炭素が析出した副生炭素を排出する装置を設けた.これにより連続的に鉄鉱石を供給し,副生した炭素を排出することで連続的に水素を製造することができる.

第2 図 天然ガス熱分解による水素製造に関する試験装置 Fig. 2 Experimental equipment for the hydrogen production by the thermal decomposition of natural gas
第2図 天然ガス熱分解による水素製造に関する試験装置
Fig. 2 Experimental equipment for the hydrogen production by the
thermal decomposition of natural gas

3.1 試験条件

 第2表に連続運転時の代表的な条件を示す.原料ガスには都市ガス13Aを使用した.触媒は前稿で紹介した鉄鉱石である.層内は電気ヒータで加熱し,その温度を900 ~ 950℃に制御した.

 参考として,ガス会社で公表されている都市ガス13Aの成分 ( 2 )を第3表に示す.炭素数が4までのアルカン系ガスで構成されている.炭素含有量が高いほど水素製造量に対する炭素の回収量が増えるため,結果として触媒として使用する鉄鉱石の消費量が高くなることが予想される.現時点では,都市ガス13Aを評価しているが,今後はガス組成の影響も評価していく.

2-3

 触媒として使用した鉄鉱石は前稿で紹介した品種で,その組成を第4表に示す.鉄の含有量は重量ベースで67.3%,製鉄の際,脆性(ぜいせい)や加工性に悪影響を与えるケイ素( Si )は0.6%,冷間脆性を引き起こし,延性・靭性(じんせい)を低下させるリン( P )は0.1%である.今回,使用した鉄鉱石は製鉄にとっては比較的良質といえる.現在は,この1 種を使用しているが,今後は鉄鉱石の種類を変えて鉄成分の含有量による影響などを評価していく予定である.

4

3.2 連続運転の結果

 連続運転で得られた生成ガスの組成,炭素の組成について代表的な結果を示す.

3.2.1 連続運転で得られた生成ガスの組成

 第3図に生成ガスの主成分を示す.生成ガスの主成分は一酸化炭素( CO )と水素( H2 ),それに残留するメタン( CH4 )である.周期的にH2濃度が低下しCO濃度が上昇するのは,触媒となる鉄鉱石を断続的に供給しているためである.鉄鉱石を供給すると鉄鉱石とメタンとの間に( 1 ) 式に示すような鉄鉱石(主成分:Fe2O3)の還元反応が生じる.

(1)

 これにより水素の原料となるメタンが鉄鉱石の還元に消費されCOが発生するため,H2濃度が低下する.その後,鉄鉱石の還元反応が終了するとCO濃度が低下し再びH2濃度が増加し始める.第3図の結果では時間平均で85%を超えるH2濃度を記録している.この値は水蒸気改質法の理論値80%を上回る値である.このH2濃度の高さは,熱分解法の一つの特長であり,今後,水素を活用するために必要な後処理の負担軽減につながることが期待される.

第3 図 生成ガスの主成分 Fig. 3 Main properties in the produced gas
第3図 生成ガスの主成分
Fig. 3 Main properties in the produced gas

 生成ガスに含まれる炭素数が2以上の成分を第4図に示す.これらは主にエタン( C2H6 )とエチレン( C2H4 )であり,その濃度は最大でも0.2 vol%以下であった.これらの成分は炉が暖まるにつれて0.04 vol%以下に抑制されている.また,炭素数が3以上の成分は検出されていない.この結果からタールなどの重物質が熱分解で生成されたガスに含有する可能性は低いと考える.

第4 図 主成分以外の少量成分 Fig. 4 Minor properties in the produced gas
第4図 主成分以外の少量成分
Fig. 4 Minor properties in the produced gas

 また,その他の特長として試験を通してCO2はほとんど発生していない.これは,反応炉内には多くの炭素( C )が固体として存在するため,仮にCO2が発生したとしても( 2 ) 式によって直ちにCOへ転化するためと考える.

(2)

3.2.2 副生炭素

 第5図に副生炭素に含まれる炭素含有量を示す.この値は6 時間ごとに回収したサンプルを元素分析法により計測した結果である.炭素含有量は,重量ベースで75 wt%で安定していることが分かる.なお,本稿では詳細を割愛するが,時間がたつにつれて試験装置全体の温度が上がり,結果として密度の高い副生炭素が生成されることも確認されている.この副生炭素の活用方法として,活性炭の代替,農作地の土壌改良剤,アスファルト混合物,セメント混合物,加炭材ほか製鉄用炭材などへの利用を検討している.

第5 図 副生炭素に含まれる炭素含有量の履歴 Fig. 5 Carbon content in the by-product
第5図 副生炭素に含まれる炭素含有量の履歴
Fig. 5 Carbon content in the by-product

3.2.3 CO₂排出量

 水素製造量に対するCO2排出量を第6図に示す.先述したとおり,試験時に排出される炭素系ガスは主にCOでありCO2はほとんど生成されない.ただし,COは中間生成物であり,工業的にはCOをCO2まで変換させて大気開放するため,第6図では,検出されたCOをCO2に変換した場合を示している.第3図に示すとおり,COは主に鉄鉱石を供給した際に発生しており,これは生成されるH2に対して4.0 ~ 5.0 kg-CO2/kg-H2に相当する.その後,鉄鉱石が還元されるとCOはほとんど排出されない.時間で平均すると1.0 kg-CO2/kg-H2程度であり,これは一般的な水蒸気改質法に比べ1/10程度の排出量であることが分かる.今後は,生成された水素を用いて事前に鉄鉱石を還元することで,さらなるCO2排出削減を目指す.

第6 図 CO2 の排出量 Fig. 6 Carbon intensity
第6図 CO2 の排出量
Fig. 6 Carbon intensity

3.2.4 電力消費量

 水素単位当たりの電力消費量を示す.第7図は,水素1 mol当たりに試験装置(水素生産量10 kg-H2/d)全体が消費した電力を示している.今回紹介した試験では126 kJ/mol-H2であり,これは水電解の理論値286 kJ/mol-H2の半分以下である.その内訳は,熱分解と鉄鉱石の還元に必要な電力が49 kJ/mol-H2あり,これは理論的に必要な最低限のエネルギーである.一方,原料の予熱,放熱,その他が77 kJ/mol-H2あり,これはシステムの形によって低減できる余地がある.今後は,システムの大型化,排熱回収を進めることで予熱,放熱に費やされている電力を現状の1/3以下まで低減させることが期待される.

第7 図 水素生産量10 kg-H2/d 試験装置の電力消費量 Fig. 7 Electric power consumption
第7図 水素生産量10 kg-H2/d 試験装置の電力消費量
Fig. 7 Electric power consumption

4. 商用化に向けて

 第8図に商用化へ向けたスケジュールを示す.今後は,本稿で紹介した試験装置を用いてさらなる水素濃度の向上を図る.また,試験データを基にCAPEX(資本的支出),OPEX(事業運営費)の低減を図っていく予定である.2027 年度に数 t-H2/d級の試験装置を用いて技術実証を開始し,2028 年度末には市場導入に向けた検討を完遂することを目指す.

第8 図 商用化へのスケジュール Fig. 8 Schedule for the commercialization
第8図 商用化へのスケジュール
Fig. 8 Schedule for the commercialization

5. 結言

 本稿では,IHIで開発中の天然ガス熱分解による水素製造技術について,その開発状況を紹介した.前稿で紹介した試験装置(水素生産量10 kg-H2/d)について,触媒となる鉄鉱石の供給装置,副生炭素の排出装置を設置することで連続運転ができた.現在は24 時間を超える連続運転のもと,時間平均で85%の水素濃度を維持しながら,CO2排出量を1.0 kg-CO2/kg-H2程度まで抑制することが可能である.また,装置全体の電力消費量は126 kJ/mol-H2まで抑制することに成功しており,今後,装置を大型化することでさらなる効率化が期待される.もともと熱分解による水素製造は,その他の製造技術と比べて水素生成に必要なエネルギーが少なくて済むため,水素製造単価の低廉化が期待されてきた.今回の報告は,それが技術的に可能であることを示している.

 IHIでは化石燃料からの脱却,再生可能エネルギーへ移行する過渡期において,天然ガス熱分解による水素製造技術が水素・アンモニアの普及に貢献する有意義な技術と考え,引き続き商用化に取り組んでいく.

参考文献

(1) 伊藤隆政,宮浦拓人:天然ガス熱分解による水素製造技術,IHI技報,Vol. 63,No. 2,2023 年12 月,pp. 73-77

(2) 東京ガスネットワーク株式会社:都市ガスの種類・熱量・圧力・成分,https://www.tokyo-gas.co.jp/network/gas/shurui/index.html,(参照2025. 9. 26)